nadja's notes

nadja's notes

主要テーマ : フットケア・ボディケア/靴/ボディワーク・フラメンコ/デザインワーク・ものづくり/身辺雑記/その他

Amebaでブログを始めよう!

 

すでにお聞き及びの方も多くおられると思いますが、3月18日東大医科研・井上純一郎教授らのチームが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、セリンプロテアーゼ阻害薬・ナファモスタット(商品名フサン)が有効である可能性について発表を行いました。

また、今月初旬には Dr. M. Hoffmannらのチームが、同様の作用機序を持つカモスタットメシルの有効性に対する報告を行っています。

本稿の執筆を始めたそもそもの動機は、従来膵炎治療薬として知られていたカモスタットメシル(商品名フオイパン)が、GC376と類似の効果を持ち、抗FIPV薬として有効である可能性が高いことについて、より多くの方々に知っていただければと考えたからでした。

更新が滞っている間に、現実に追い越されてしまったようです。

 

既述の通り、我が家の飼い猫ちたまは、姉妹テラと兄弟ガイアのFIP発症・死亡を受け、予防的措置としてカモスタットを毎日12時間ごとに服用していました。

投与期間はトータルで7ヶ月に及びます。

結局発症自体は抑制できなかったものの、空腸(腸間膜)リンパ節の腫大というきわめて限局的な症状にとどまったことが、後に未承認薬MUTIANによる治療を行う上で大きなアドバンテージとなりました。

なお、Dr. PedersenのGC376に関する論文(*註)において、dry FIP唯一の寛解症例(CT4 Kratos)が腸間膜リンパ節にのみ症状のみられたレアケースであったことは、過去記事(FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療について③——GC376とカモスタットメシル酸塩)で述べた通りです。

なお、カモスタットのFIP患畜への投与とその結果については、主治医の後輩にあたる獣医師が、2019年の日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)にて症例検討・研究発表を行っています(内容については、上記の過去記事中で紹介しています)。

 

今回COVID-19治療薬に言及したのは、これまで私がカモスタットによる治療についてお伝えした方々はどなたも本治療を選択されておらず、その理由の一端としてかかりつけ医からの否定的ないし懐疑的な見解が影響しているらしいことが看て取れたからです。

東大医科研の報告を受け、今後はかかりつけ医の同意・協力も多少得られやすくなるのではと考え、あえて執筆中のテーマを中断して取り上げました。

個人的には、治療費用面を度外視し寛解率のみを考慮するなら、今後のFIP治療のファーストチョイスは未承認薬MUTIANになるのではないかと考えています。

ただ、様々な制約からMUTIANを選択することが難しい場合や、MUTIAN協力病院による処方や個人輸入による入手までに日数がかかり増悪の可能性が高い場合には、標準治療や代替療法等と並行してぜひカモスタットの服用を検討していただければと思います。

 

なお、カモスタットメシルの薬用量のレンジは下記の通りです(12時間おきに服用)。

5-6kg 1/3錠

4-5kg 1/4錠

3-4kg 1/6錠

3kg未満 1/8錠

 

*註:「Efficacy of a 3C-like protease inhibitor in treating various forms of acquired feline infectious peritonitis(多様なフォームの後天性ネコ伝染性腹膜炎の治療における3C様プロテアーゼ阻害剤の有効性)」

長らくのご無音、大変失礼いたしました。

ちたまの経過観察期間満了を受け、記事を再開いたします。

 

お客さまからいただいたテラへの供花(2019/02/21)

 

テラの旅立ち以来、ちたまの分離不安障害克服とFIP発症予防が我が家の最優先課題となりました。毎朝体温と体重を測り、排泄状況を確認して記録。

先々の外出予定は、一旦すべてキャンセル。体調等を見計らって大丈夫そうな日を選び、最低限必要な買い物等にとどめました。

留守番の際には部屋にフェリウェイをスプレーし、猫用ヒーリングミュージックをエンドレス再生。帰宅後は必ず充分に時間をとってアテンド。こうして、ひとりで留守番できる時間を徐々に増やしていくことにしたのです。

 

カモスタットは朝晩二回服用。強引に服用させてストレスになると逆効果という主治医の助言を受け、最初は乳鉢で粉にした錠剤をサプリメント(カプセルから出したアンチノール)と共にウェットフードに仕込む方式をとりました。が、もともとちたまはウェットフードを好まぬタイプ。徐々に完食しなくなり、ついに匂いを嗅いだ途端「グゥン」と呟いて立ち去るように。アンチノールの匂いがNGなのかなと思い、サプリメントを抜いてみたりしましたが、結果は変わりませんでした。

次いで、グリニーズのピルポケット、いなばのちゅるビ~やちゅるっとスティック、アニモンダのミルキース…等々に錠剤を仕込む方法を試しました。が、これらにも食指が動かぬようで、手に乗せて差し出しても自ら食べてくれることはありませんでした。仕方なく直接口に放り込むと巧みに吐き出し、時には1分以上も口の中で溜めておいてこっそり出してしまうこともありました。

最終的には、粉にしたカモスタットを投薬用ちゅ~るに混ぜてシリンジで服用させる方法に落ち着きました。当時の私の投薬スキルは低いなどというレベルではなく、どうにか服ませることができたのはこの方法だけでした(*註)。

 

禁じ手としていたのは、ちたまの大好きな通常のちゅ~るに薬を混入させないこと、そして投薬・留守番・通院などの際に騙したりごまかしたりするツールとして使わないこと。

ちゅ~るは、食のストライクゾーンが異常に狭いちたまが、無条件で食いついてくれる唯一のフードでした。おそらくシェルター時代、カロリー補給と人慣れ訓練のため日常的に与えられていたからでしょう。思えばちたまやテラが保護され母猫から引き離された時の推定月齢は、約2ヶ月半~3ヶ月——母乳を卒業し様々な味に慣れ始めるべき時期に、ひたすらちゅ~るを与えられていたことになります。彼女たちにとってちゅ~るは、ほとんど母乳に近い存在だったのかもしれません。

大好きなおやつにまで不信感を持たれてしまったら、おそらく投薬どころか給餌自体が著しく困難になりかねません。ちゅ~るはあくまで楽しいおやつ、またはイヤなことを我慢した後のご褒美として、安心して心ゆくまで味わってもらいたいと考えました。

このルールは後にMUTIAN Xを服用させる際にも維持され、我が家にとっては12週間の投薬プロトコルを無事に乗り切る上で重要なポイントのひとつとなりました。

(つづく)

 

*註:シリンジ給与の場合、微量の薬剤がシリンジ内に残ってしまうため、投薬量を守るためには詰め方に工夫が必要でした。①最初に苦味を感じさせないよう、ちゅ~るだけを詰める、②次に薬を混ぜたちゅ~るを詰める、③最後にシリンジ内に残る分として、再びちゅ~るだけを詰める、という方法です。

 

テラの旅立ちから1週間後のちたま(2019/02/21)

 

仕事の休憩時間・膝に寄りかかるちたま(2019/03/09)

 

少しずつ表情に落ち着きが出てきたころ(2019/03/23)

日付は前後しますが、テラが亡くなる前日の2月12日深夜、ちたまが嘔吐しました。これまでも何度か吐き戻したことはありましたが、タイミングがタイミングだけに不安が募ります。さらに2月17日未明、今度は初めて軟便をしました。テラの体調が顕著に悪化するひと月ほど前に、やはり数回軟便があったことを思い出し、思わず息を飲みました。

これらの症状については、保護猫シェルターの管理者に逐一LINE経由で伝えました。里親として随時報告を求められていたからでもありますが、彼女の話しぶりから病猫ケアのキャリアやスキルに絶大な自信と自負をお持ちとお見受けしたからでした。バセティックな文体で綴られた彼女のブログを読むと、ケアと看取りを専門とするシェルターなのかと思われるほど病猫の治療と看取りの記事で溢れていました。

先方の態度は、しかし、テラの初期ケアを申し出てくださった時の熱量に比べ、いかにもクールなものでした。私のメンタルに問題があるかのような口吻のご返答を受け、これ以上報告を入れても先方にご迷惑をかけるだけで有益な情報は得られそうにないと判断しました。こうして私は、主治医と相談しつつ手探りでちたまのFIP予防に取り組み始めることとなったのです。

 

お客さまからテラにいただいた御供えの花束

 

数日後、思いもよらぬ一報が飛び込んできました。件の保護猫シェルターが数年来多頭飼育崩壊にあり、その状況を憂慮する動物愛護活動の関係者らによって、劣悪な環境に置かれた猫たちが2日前にレスキューされた、というのです。当日その場に居合わせた方々によって発信・投稿された画像には、目を覆うほどの惨状が映し出されていました。便が溜まった砂のないトイレ、ウォーターボウルに入った尿と思しき液体、屋外で雨ざらしになった消費期限切れの支援物資の山、ゴミや埃まみれで元の色すら定かでない床、そして暗い部屋で虚ろな眼をした猫、猫、猫… たとえあえてショッキングな部分を切り取ったものだとしても、決してあってはならない状況でした。前回記事でリンクを貼った2月のガイアの様子も、実はこの日に撮影されたものでした。

それらを見た瞬間、私は再び慟哭を抑えきれなくなりました。テラ、テラ! あなたがこの世で最後に見た風景はこれだったのか、こんな場所に私はあなたを送り込み、そのまま逝かせてしまったのか…と。

上記事件およびその後の顛末について、それまでの経緯等を知らない私はこれ以上言及するつもりはありません。ただ確実に言えるのは、優に100匹を超える猫が「保護」されていたシェルターが長期にわたり劣悪な環境下にあったこと、おそらくそこでは少なからぬ猫の体内で日常的にFCoVの変異が生じていたであろうこと、生後2ヶ月半~3ヶ月以降をそこで過ごした兄弟姉妹4匹中2匹がFIPを発症し、1匹が亡くなった(後にもう1匹も亡くなった)こと、でした。

 

上記の件は、ただちに主治医に伝えました。動物大好き少年がそのまま大人になったような彼は、ああ…、と嘆息して頭を抱えました。保護前はもちろん保護後も最悪中の最悪の環境で育ってきたこと、当該シェルターで蔓延していたFCoVが易変異性を獲得している可能性が高いこと、さらに分離不安のストレスに日々晒されていること…それらを前提として、発症を防ぐために何をなすべきかが話し合われました。

通院は極力控えストレス・コントロールに徹すること、が主治医の一貫した主張でした。頼みのカモスタットですら「ストレスになるようなら逆効果」と言われました。それでも私は、カモスタットを服用させた方が良いとこの時直感しました。ガイアの目覚ましい回復ぶりを知るのは数ヶ月後のことになりますが、その閃きがDr.PedersenのGC376に関する論文に裏打ちされていたことは言うまでもありません。ストレスなく薬を服んでもらうために、何とか知恵を絞ろうと肚を決めました。

この日、主治医と私は当面の目標を定めました。それは、体重を3kg台に乗せること、4月と推定される1歳の誕生日を無事迎えること、その後体調・気候ともに安定してきたら血液検査を含む健康診断を行うこと、の3つでした。

(つづく)

テラのFIP発症の原因の一端は、我が家に引き取られたことにあるのでは——診断後シェルターの管理者に電話報告を入れた折、先方から「自分を責めないでね」と言われるまで、私はそんな風に自分自身を責める気持ちは持ち合わせていませんでした。驚きとショックで、そこまで考えが及ばなかったのです。皮肉にもこの言葉は、かえって強い自責の念を呼び起こすこととなりました。兄弟のいる慣れた環境への里帰りが好ましい影響をもたらすのではと考えたことも、テラを一時的にシェルターに戻す措置に同意した理由の一つでした。

テラが亡くなった翌日にガイアFIP発症の報を受けた私は、とめどなく流れていた涙が一瞬にして引っ込むとともに、血の気も一挙に引いていきました。

ずっとシェルターで過ごしていたガイアも発症してしまった…

テラの発症は我が家に来たからではなかったのかもしれない…

おそらくちたまも危ないんだ…

泣いている場合では、ない。

 

一方、テラが突然姿を消した当夜から、ちたまはパニックと沈鬱を繰り返すようになりました。血相を変え、雷に打たれたようにブルブルと震え、何時間も唸りながら狂奔してテラを探索し、それでも見つからないと判ると文字通りうなだれてしばらく動かなくなり、最後は私の膝に乗ったまま離れようとしない…そんな日が続きました。外出はおろか別室に移動するだけで、壊れたサイレンのように必死で鳴き続けるちたま——分離不安障害の典型でした。この甚大なストレスがちたまの心身にどのような影響をもたらしたか、いま思い出しても身の毛がよだつほどの戦慄を覚えます。

ガイア発症の報を受け、主治医のもとに相談に赴きちたまのFIP検査の要否を尋ねた私に、彼はこう答えました。「悪い結果が出たらどうします? いずれにしてもやるべきことは変わらないですよ」「今は通院や侵襲的な検査によるストレスで発症リスクを高めるより、できるだけストレスを減らしてあげながら予防に注力すべき時です」。

 

 

ちたまのストレスコントロールのため、我が家ではすでにいくつかの対策を講じていました。仕事をセーブしアテンドする時間を増やす、猫用ヒーリングミュージックを終日流し続ける、フェリウェイ(フェイシャルフェロンF3類縁化合物)をケージやベッドなどにスプレーする、免疫賦活・調整作用が期待されるコルディGや抗炎症作用が認められるアンチノールなどのサプリメントを導入する、イトオテルミーや横山式ネッシンなどの手技的代替療法(当初はテラの緩和ケアを目的としていましたが、間に合いませんでした)を学び自宅で施術する…。

これらに加え主治医は、ちたまにもカモスタットを服用させることを提案したのです。カモスタット自体に重篤な副作用がほとんどないこと、エコー検査で腎臓にテラと同じ異常所見(*註)が認められ、おそらく先天性素因に共通点が多いであろうこと…等々を勘案しての判断でした。

 

こうしてちたまは、2月17日から——すなわちFIPの発症前に、1日2回カモスタット(1回につき1/6錠)の服用を開始しました。

 

(つづく)

 

*註:cortical  rim signと呼ばれる、尿細管間質障害(繊維化等)を示唆し腎機能不全と相関するとされる病理学的所見。主治医曰く、ただちに健康影響があると断定はできず老齢猫にはしばしば見られるが、若齢ではきわめて珍しいとのこと。

主治医に教えられたカモスタットメシル塩酸を、テラはFIP診断後しばらくの間服用することができませんでした。詳細は割愛しますが、彼女が生後7ヶ月半ほどを過ごした保護猫シェルターの管理者から初期ケアだけは任せて欲しいとの申し入れがあり、診断確定の翌日に我が家を離れてしまったからです。その後、私から先方にぜひカモスタットを服ませたいと申し入れ、先方が薬を入手して投薬を開始するまでに5日を要しました。このタイムロスは、すでに神経学的兆候や眼症状を呈していたテラにとって致命的なものとなりました。

 

2月4日、郡山市にある保護猫シェルターに発つ直前のテラ。

前日から歩行時のふらつき等の神経症状が見られましたが

人間用のベッドに飛び乗ることはできていました

(ただし、飛び降りることはできませんでした)。

ネット検索で見た痛々しいぶどう膜炎の画像とは異なり、

言われなければわからないほどでした。

 

もしテラが診断直後からカモスタットの服用を開始していたら、おそらく彼女の生の長さもあり方も、まったく異なるものになっていたかもしれません。それを如実に物語るのが、テラとちたまの兄弟であり、当時シェルターに残っていたガイアのFIP病闘の経過です。

ガイアはテラが亡くなった翌日の2月14日に吐血し、診断の結果はFIPドライフォームの疑いが濃厚というものでした。斜頸や運動失調などの神経学的兆候がみられ、症状はテラ以上に重篤でした。2月22日のガイアの様子が、ねこさま王国のブログ(3月19日付「元気な白血病ルームの猫たち」)に掲載されています(*痛々しい画像のため、閲覧の際はご注意ください)。

◉2月22日のガイア

前肢は突っ張ったまま屈曲できず、「意識もあるのか無いのかわからない」(上記ブログ記事より)状態だったそうです。

 

テラとガイアの闘病生活における最大の相違点は、ガイアが診断の2日後からカモスタットを服用できたことでした(インターキャット・抗生剤治療を併用)。その結果神経症状は緩和し、ピーク時にはドライフードを自力で食べることはもちろん、歩行もよじ登ることもできるまでになったそうです。関係者の間では、誤診だったのではないか、寛解まで漕ぎ着けるのではないか、といった声も上がっていたとのこと。

 

 

↑3月1日のガイア

 

 前肢の突っ張りはすっかり消失し、

寛いで横になっています。

 

 

↑3月7日のガイア 
表情に柔らかさが出てきました

 

 

 
↑3月14日、診断から一か月

この時点ではドライフードも

食べられるようになっていました

 



↑4月13日のガイア

 

しかし残念ながらガイアは5月5日未明、突然の大量吐血と痙攣に見舞われ、その約6時間後に亡くなりました。ケアに従事していたシェルター管理者の話によると、前日までは元気に過ごしていたそうです。

 

寛解に導くことはできなかったものの、GC376が効きにくいとされる神経学的兆候を伴うドライフォーム症例において、カモスタットが延命とQOLの劇的な改善に寄与したことはおそらく間違いないでしょう。

 

なお、3月以降のガイアの画像・動画は、Twitterアカウント@milcody_k_7catsさま、@EARLY42404539さまのご了承を得て転載させていただきました。

不躾な申し出をご快諾くださいましたお二方に、厚く御礼申し上げます。

 

(つづく)