学殖なきを憂うるを 常識なきを憂えない。
天下は常識に富める人の大きに堪えない。
第12号 濹東綺譚
1937年刊行
作者 永井荷風
日本文学
永井荷風作品
永井荷風の作品で
断腸亭日乗というものがあるのですが
これは彼の日記でもあり、
各作品の元ネタ帳のように
モデルになった女性のことや
麻布の自宅から
遊郭やカフェーに通った詳細
作品の進捗などが記されています。
荷風は自身や身近な人物がモデルとなり
自分の取材、手記をもとに作品を作り上げるため
その時の時代背景や
彼自身についてを知っておいて読むと
内容が面白く感じられるのではないかと思います。
何も事前準備をせずに読むと
濹東綺譚が最高傑作と言われてる所以は
しっくりこないであろうと思うので
予習は必須ですね。
という前置きをすると、
断腸亭日乗の方に興味を惹かれてしまう(笑)
これを読んでから読めばよかったかと
少し思うところもあるのですが
機会があればぜひ読んでみたいものです。
濹東綺譚 解説とあらすじ
濹東(ぼくとう)とは隅田川東岸のこと
隅田川東岸の物語という意味。
旧東京市向島区 寺島町
(現在の墨田区 東向島町、墨田町) に存在した
玉の井の私娼窟で
小説家 大江 匡(わたし)と私娼のお雪との
歳の離れた哀愁ある恋愛の
出会いと別れまでを描いた作品です。
この、わたしとして出てくる登場人物が
永井荷風のこと。
お雪に私娼をやめたいと、
それとなく仄めかされても(身請けの話)
彼は人生での失敗や歳の差などから、
(永井荷風自身は2度の離婚をして、その後独身を貫く)
お雪を幸せにはしてやれないと思い、
恋を自ら摘んだというところに
心の葛藤が窺えます
私娼窟とは
遊郭のように国に認められたものではないので
警察も黙認するような違法のそういう場所。
遊郭の女性が公娼と言われた反対語で
私娼となります。
作品のなかで蚊の多い場所という表現が出てくるのも
玉の井あたりでは
細い道路の脇道が多く
その昔「お歯黒ドブ」と呼ばれたような
真っ黒の汚水が流れていたという、、、
関東大震災でほぼ焼失し、消失、 END
となった玉の井ですが
濹東綺譚が玉の井を有名にし
その写実的な描写からも
当時を知る文献として貴重なものとなっていることから
永井荷風最高傑作!
と呼ばれている作品ですが
刊行当時、荷風58歳くらい?かな。
令和の58歳はまだまだイケイケでも珍しくないですが
この時代の58歳は
現代よりも10歳上くらいの感覚かな。
という認識で読みました。
ということで
私的には
年老いてもまだまだいけるぜーっオレ!
的な
老いらくの恋、
荷風人生最高の恋バナ
を披露したかったのでは?
と、、、
語り口は淡く切なく美しくとも
男性の武勇伝を
微笑ましく思ってしまいました(笑)
大正ロマン
カフェー
つゆのあとさき あらすじ
カフェーの女給をする君江は
付き合っている男性(不倫関係) がいるのに
他の男性客たちとも関係を持ち
快楽に身を委ねた生活を送る。
奔放で縛られるのが嫌。
感情移入が希薄で
相手に深入りしたくないし、されたくもない
なので、嫉妬もしなければ
承認欲求もなく
不倫相手としては合格!!
のはずなのに
そんな君江を本気で愛してしまったせいなのか
彼氏の清岡は
正妻がいるにも関わらず
君江の態度や行動に腹立たしさを募らせ
暴挙に出るも
思い通りにはならず
妻にも逃げられる、、、という
情けなさと愚かしさに
笑えてきます
考察
秀逸な終わり方
え?!そこで終わり?!
その後どうなるのかがわからず終わるという
クリフハンガー技法です
私、これ苦手なんですよねー
ちゃんと書いて欲しい派(笑)
読み手に違和感を与えることでこの作品の余韻を
楽しんでいただけるようになってるらしいが
モヤっとした後味になるかも。
でも、せっかくなので色々と考えてみた
君江と同じような
快楽主義人生を送った
川島という男からの最後の手紙は
お前はオレのようにはなるなよ
という思いもあっての言葉が
含められているのではないかなと思えてしまいます。
人が何かに気づくきっかけを与えてくれるには
感情を揺さぶられるほどの何か
に対峙した時である。
君江がこの後、
何かに気づいてくれることを切に願いたいです。
濹東綺譚よりも格段に読みやすく
私はこちらの方が傑作のように感じてしまう。
最高傑作と言われている濹東綺譚に落胆し
この作品を遠ざかってしまう人がいるならば
それは勿体無いとおもうので
このような二部作になるのは
ものすごく有難いことに感じます
濹東綺譚 作後贅言
贅言とは余計な言葉の意味です。
濹東綺譚エピローグ的なものです。
ここで語られる言葉は
特に荷風が言いたいことが詰まっているような
物語とはまた違った趣きです。
以下少し長いですが原文引用です。
精力の発展と云ったのは欲望を追求する熱情と云う意味なんです。スポーツの流行、ダンスの流行、旅行登山の流行、競馬其他博奕の流行、みんな欲望の発展する現象だ。この現象には現代固有の特徴があります。それは個人めいめいに、他人よりも自分の方が優れているという事を人にも思わせ、また自分でもそう信じたいと思っている その心持ちです。優越を感じたいと思っている欲望です。
明治時代に成長したわたくしにはこの心持ちがない。あったところで非常にすくないのです。これが大正時代に成長した現代人と、われわれとの違うところですよ。
一度崩れてしまったら、二度好くなることはないですからね
勝手次第にくずしてしまったら、直そうと思ったって、もう直りはしないですよ。
そして思い返す愁を含んだこのセリフ。
次回のご紹介は
第13号 源氏物語2
だんだん古い日本語に
脳味噌がついていかれるようになってきました(笑)
定期購読しなくても!!
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毎号のご紹介と、リンクを貼ってあります
お好きな作品だけを抜粋して
お買い求めいただくのもいいかもしれません
第1号 高慢と偏見 1
第2号 嵐が丘 1
第3号 源氏物語 1
第4号 若草物語
第5号 マンスフィールド・パーク 1
第6号 ジェーン・エア 1
第7号 アンナ・カレーニナ
第8号 高慢と偏見 2
第9号 細雪
第10号 ボヴァリー夫人
第11号 嵐が丘 2
第12号 濹東綺譚
第13号 源氏物語 2
第14号 マノン・レスコー
第15号 人間失格
第16号 カラマーゾフの兄弟
第17号 レ・ミゼラブル
第18 ジェーン・エア 2
第19号 源氏物語 3