タイトル通り本筋のストーリーラインにインスピレーションを受けて私が書いた二次創作ストーリーです。
主人公はFever Epilogueのユンホです。
本筋の話ではウヨンがクロマーを回して終わるシーンですが、もしそうじゃなかったら、という設定の話です。過去に戻っているので、アジトも壊されていない事になっています。
side○○は誰の視点で書いてあるのかを表しています。
Fever Epilogue Another story
side Yunho
「俺のことは過去に残して、お前はお前の道を行ってくれ。」
二度目に兄を失った時に僕の中で何かが音をたてて壊れてしまった。
救えなかった
救えなかった
あんなに注意したのに
今度は絶対に死なせないように
なのに僕はまた
兄を死なせてしまった
ナイフを片手に横転した車のそばに立つヘンリー・ジョーは頭から血を流しながらしきりに何か怒鳴り散らしていた。遠くから徐々に近づいてくるパトカーのサイレンの音、報道ヘリのプロペラの音、横転した車で怪我をした人々のうめき声、バイクのエンジン音、叫ぶ人々・・・
うるさいな
うるさいな何もかも
周りの喧騒とは対照的に腕の中の兄は静かだった。身体はまだ暖かいのに、その瞳は永遠に閉じられたままで、息をすることも動くこともなかった。
僕は兄の体を地面にそっと寝かせると、無言で立ち上がりヘンリー・ジョーの方へ歩いて行った。
まだ何かを叫んでいたヘンリー・ジョーは警戒と微かな狼狽をはらんだ表情で僕を見た。
「そんなにこのクロマ―が欲しい?これを使えば別の次元に行けるんだよ。お前みたいにうるさくて目障りで感情を爆発させて人の命を簡単に奪うような人間は排除される世界に」
ヘンリー・ジョーは意味が分からないとでも言うように眉をしかめて僕の方を見た。メンバー達も心配そうに僕の方を見ていた。
「そんなに行きたいなら僕が連れて行ってあげるよ」
「ユノ!」
メンバーに制止される前に僕はウヨンの持つクロマ―を掴み取り、ヘンリー・ジョーに近づきナイフを持つ手を掴んでクロマ―を回した。
「ユノ待て!」
side narration
たった今ユノとヘンリー・ジョーが立っていた、今は空っぽの空間にメンバーのユノを呼ぶ声が響いた。
「ユノのやつ・・・一体どうするつもりなんだ・・・」
ホンジュンは初めて見るユノの様子に当惑した様子でそう呟いた。
「ひとまずアジトに戻ろう。クロマー無しでは僕たちには何もできない」
ソンファがそう言うとメンバーとユノの仲間は一旦その場を後にした。
・・・・・
灰色のビルが立ち並ぶ区画にある小さい広場に突如二人の男が姿を現した。一人は血だらけで、もう一人は頭から血を流していた。その場に居合わせた人々は一瞬驚いたような素振りを見せたが、ある者は二人を避けるように足早に歩き去り、またある者は読みかけの新聞に再び目を落とし、そんな風にしてやがて皆それぞれがそれまでしていた作業に戻っていった。無関心の者と関心を持ったことを誰かに悟られるのを恐れるように無関心を装う者たちが混在していたが、予想外の出来事に対するどよめきはそれほど間を置かずして元の静けさに戻っていった。
「あんたがあんなことをしでかしてまで手に入れたかったこのクロマーで次元移動できる先は、この感情を奪われた人々が暮らす無味乾燥した世界だよ。せいぜい感情があることを悟られないように上手に隠して生き延びてみなよ。うるさくて衝動を制御できないあんたにそんなことができるならね」
そう言い残してユノはクロマーの空間移動機能を使ってその場から消え去った。
「待て!どこへ消えた?ここはどこだ?」
ヘンリー・ジョーは頭部の傷跡から流れ出る自らの血で顔を半分赤く染めたまま、ナイフを片手に通行人につかみかかった。
突然見知らぬ血だらけの男に掴みかかられて狼狽した通行人が恐怖の叫び声をあげ、周りの人々も円を作るようにヘンリー・ジョーを避け始めた。
ヘンリー・ジョーがガーディアンに発見されるのはおそらく時間の問題だった。
しばらくしたころ、混乱の起きているビル群の区画からは離れた場所にある政府機関の建物が立ち並ぶ区画に、血だらけの青年が姿を現した。同じ形をした冷たいコンクリートの建造物が立ち並ぶ雑草一つ生えていない灰色一色の風景に、血で赤く染まった衣服に身を包まれて立っている青年の姿が鮮やかに浮きだっていた。
side Yunho
僕自身がこの世界にもう一人いたように、僕の兄もきっとこの世界にもう一人いるはずだ。
そう思っていくつかの場所に検討をつけて兄を探し回った。人々が他人に無関心なこの世界は短時間なら誰からも干渉されず、ガーディアンに見つかることもなく歩き回れた。そして何か所目かに到着した政府の中枢機関が多数設置されているこの区画で、ついに僕はこの世界に生きる兄を見つけた。
もとの世界の兄と違いこの次元の兄は眼鏡をかけていて、神経質そうにホログラムを睨みながら肩をすくめて机で作業していた。さっき失ったばかりのあたたかい笑みをいつも浮かべていた優しい兄とは違い、凍り付いたような無表情で淡々と機械を操作する兄の姿が僕の目には異様に映った。
この世界の僕と兄さんはどんな関係だったんだろう・・・
僕たちの愛した「音楽」が禁じられたこの世界では・・・
大丈夫だ。
チップを破壊すれば感情を取り戻して、きっと元居た世界の兄さんのように優しく笑ってくれるはずだ・・・
僕は自分にそう言い聞かせながら、兄にゆっくりと近づいて行った。
「兄さん」
この世界の兄はホログラムを睨んでいた顔を怪訝そうに歪めて首を左右に振って声の主を探した。そしてガラスの窓の外に立つ僕の姿を見つけると、怪訝そうな顔はたちまち怒りをはらんだ驚愕の表情に変わった。元の世界にいた兄が僕に一度も向けたことのない表情をしたままその人は僕に向かってこう言った。
「お前がなんでここにいるんだ?ガーディアンに捕まって処刑されたはずだろう?もうこれ以上家族に迷惑をかけないでくれよ。お前があの妙なレジスタンスに加わったせいで、俺のキャリアはめちゃくちゃになったんだよ。お前はもう俺たちの家族じゃないんだよ!」
兄と同じ顔をした男は僕を憎しみを込めた瞳で睨みつけながらそう叫んだあと、机の上の通話機をつかんでダイヤルを押した。
「緊急の連絡です。黒の海賊団の一味が国家安全保障局の建物のすぐ外にいます。すぐにガーディアンを寄越してください」
そう叫んで通話を終了したその人は僕に背を向けて部屋の奥の方へと走っていった。その数秒後けたたましいサイレンの音がそこら中に鳴り響いた。
この世界の兄は兄の姿をしているだけで僕のいた世界の兄とは全く違う人物だった。ショックで立ち尽くす僕の周りに野次馬のように国家安全保障局周辺の建物から出てきた人々が集まり始めた。
その人ごみの中にすがるように兄の顔を探したが、見つけられず、僕はとっさにクロマ―を回した。
・・・・・
ここがどこで自分がどこに向かっているのかも分からないまま、僕は倒れそうな体を何とか前に押し出しながらどこかへと続く道を歩いていた。
もうこの世界のどこにも僕の兄さんはいない。
わずかに残された最後の希望すらも打ち砕かれて、僕の足取りは重く、身体を引きずるようにただあてもなく前へ進んだ。
こんなつらい感情ならいっそ失ってしまったほうが楽なんじゃないのかな?
ふとそんな考えが頭に浮かんだ時、いつか聞いたZの言葉が耳に木霊した。
「苦痛は人生において不必要な感情であり否定的な要素です」
この心が引き裂かれそうな悲しみや絶望が与える苦痛を取り除いてもらえるならいっそ・・・
感情などなくしてしまえばいいのかもしれない・・・・
その時突如僕の脳裏に割れたクロマーとその向こうに取り残されたヨサンの顔がフラッシュバックした。
メンバーたちを救うため、クロマーを回し、おそらく今もガーディアン達に捕らえられているヨサン・・・そうだ僕はヨサンを、まだ生きている大切な仲間を助け出さないといけないんだった。
早く、早く、メンバーたちのところに戻ってこのクロマーを届けないと。
はっとして顔を上げて自分のいる場所を確認して、僕は自分が今まで自分の体が無意識に僕をメンバーたちのいるアジトに向かわせていたことに気が付いた。
僕の身勝手な行動をメンバーたちは許してくれるかな・・・・
一抹の不安を抱えながら、僕はアジトのドアを開けた。
「ユノ!」
「みんな・・・僕が勝手な行動をして・・・」
ごめん
その謝罪の言葉を言う前に、僕の体は暖かなぬくもりに包みこまれていた。
「お前どこ行ってたんだよ?大丈夫なのか?」
「本当に心配したよ」
「ひとまず無事でよかった」
「兄さん服が血だらけじゃないか。早くその服を着替えてきなよ」
非難されることを覚悟してアジトの扉を開けた僕に、メンバー達は口々に僕を心配する言葉をかけた。そんなメンバー達の声を聴いて僕の頬を温かい水滴が伝った。二度目に兄を失った時にとっくに枯れ果ててしまったと思っていたその水滴は、メンバー達の顔を見た瞬間感じた安堵感と心配をかけたことに対する罪悪感とともにとめどなくあふれ出た。
「お兄さんを助けられなかったのは本当に残念だった」
「ご遺体はきちんと埋葬したから何も心配しなくていいよ」
僕がいない間にメンバー達は兄の身体をあるべき場所に返してきてくれたようだった。
「ありがとう・・・」
僕は向こうの次元で起きたことを、ぽつりぽつりとメンバー達に話した。
「もしかしたら感情統制のシステムを完全に破壊すれば、向こうの次元のお兄さんの考えも変えられるかもしれないよ?」
どこまでも無邪気で前向きなメンバーはそう言って僕を励まそうとした。向こうの次元の兄の様子を見る限りではその可能性は低そうだったが、僕にとってはそのことはもう大きな問題じゃなかった。僕にとって大事なのは、これまでも、そしてこれからも、僕を支えてくれる大切な仲間たちで、今最も重要なのは、そのうちの一人がどこかで捕らえられて大変な思いをしているかもしれないということだった。
「クロマーも手に入ったことだし、一刻も早くヨサンを救い出す手立てを考えないと」
・・・・・
「俺のことは過去に残して、お前はお前の道を行ってくれ」
そう言い残して逝ってしまった優しい兄さん。
僕の日記を読んでしまったせいで自分が死ぬかもしれないことを知りながら僕を見守って朗らかに笑ってくれた兄さん。
あの日自分が死ぬことを覚悟して、それでも僕を心配して駆けつけてくれた兄さん。
どうしてあなたが死ななければならなかったのだろう・・・
どれだけ考えても答えなんて無かった
どうすれば助けられただろう・・・
あの日記を見えないところにきちんとしまっておけばよかったのかな
僕が最初から計画に参加していればよかったのかな
どれだけ考えても答えは出ず、自分を責める言葉ばかりが頭の中で鳴り響くだけだった。
そんなことを考えていると、ふと誰かからの視線を感じて、顔を上げてみれば心配そうな目で僕を見るメンバーと目が合って、そのたびに僕は、いや、たとえ何度過去を繰り返しても僕はメンバーを見捨てられないし、兄は僕を心配して駆けつけるだろう、なぜならそれが僕たち兄弟だから、そう考えて鬱々とした表情を顔から消して、大丈夫だよ、とメンバーに応えた。
僕がいつか本当に大丈夫になれる日が来るのかな・・・
兄を永遠に失った時、あまりのつらさに一度は捨ててしまいたいとさえ思ったこの痛み。
だけどどうやったら捨てることなんてできるだろう。
優しかった兄さんと過ごした日々を思い出すたびに湧き上がる温かい感情、幸福だった記憶、失った悲しみ、メンバーたちの顔を見たとき溢れだした安堵感や感謝の気持ち、その全てが僕の感情なのに。
苦しみながら、悲しみながら、喜びながら、その全ての感情を全身で感じながら、今日も僕は生きていく。
fin