ディズニーは何となく分かるけど、ピクサーって結局何なの?
この記事では、そもそもピクサーとは何なのか、ディズニーとピクサーの関係について詳しく説明します。
【Disney & Pixar】ピクサーの歴史を軽くおさらい
「ピクサーをつくったのはスティーブ・ジョブズだ」
というのは聞いたことがあると思います。しかし、厳密には少しニュアンスが違います。
ピクサーは、1986年にルーカスフィルムからスピンオフした会社で、スティーブがルーカスから購入しました。
当時のピクサーは、ハイエンド画像処理パソコンなども出していました。
スティーブは「映画をつくっているハイテク企業でしょ!面白い!」と思って買ったのです。
しかし、1991年にハードウェア部門は閉鎖されました。
スティーブは「閉鎖されちゃったよ!」と落胆。
しかし、買っちゃったものはしょうがない。スティーブはAppleから追放されてから、これという成功がなかったので、ここいらでどうしても1発当てたい。
まず映画をつくる資金が必要で、製作費をディズニーに投資してもらいました。しかし全然足りない。足りない分はしょうがないから自腹で毎月小切手を切っていました。
その総額、およそ5000万ドル。
何が悲しくて鳴かず飛ばずの会社に5000万ドルも払わなきゃいけないのか。
自腹で大量に出費をしているのに、ピクサーは一向に成果が出ない。
そこで助っ人として呼ばれたのが、ハーバード法学部卒業、元EFI副会長兼CFOのローレンス・レビー。
ローレンスは仕事中にスティーブから電話が来たので驚き、さらにその内容がピクサーという聞いたこともない会社への誘いだったので、不安半分、好奇心半分でピクサーのオフィスに向かいます。
当時のピクサーは、ポイントリッチモンドという田舎に建つ(ローレンス宅から片道2時間!)、今にも潰れそうなおんぼろ会社でした。
そこでローレンスは、製作途中だった「トイ・ストーリー」を試写室で観ます。
その映像に感動し、「ここで働きたい!」と当時勤めていた会社から転職します。
ちなみにそのときのローレンスはシリコンバレーの弁護士でCFOという誰もが羨む立場にいました。それを捨ててでも、ピクサーに行く魅力を感じたのです。
しかし、ピクサーに入ってからすぐに、彼の人生で最大の後悔に苦しむことになります。
【Disney & Pixar】悪魔の契約書
「なるほど、つまりディズニーとピクサーは、映画製作費を投資している関係なんだね!」
事実です。
しかし、長い間、ピクサーはディズニーに搾取されていました。
製作費をもらっているのに、何故か。
スティーブがディズニーと結んだ契約が、日米修好通商条約並みに不平等だったからです。
ディズニーとピクサーが契約を結んだのが、1991年9月。
ローレンスは「事業計画を立ててくれい」と頼まれ、その契約書を読もうとしたが、うまく行きません。
まず読めない。専門用語が多すぎる。
「AGRは、WDCの別紙GRPとNP、ならびにその添付書類に基づいて定義し、計算し、定めるものとする」
マジで何言ってんだ。
解説を求め、ディズニーとの契約交渉に関わっていたサム・フィッシャーに教えを乞います。
そして最悪の契約書だと知ります。
- ・ディズニーに提示した映画のアイデアは却下されたものも含め、契約終了まで他社に提示してはならない。
- ・契約期間中は、ピクサーのアニメーション部門は、クリエイティブスタッフを含め、ディズニー専属する。
分かりやすく言うと、「ピクサーは契約終了まで、ディズニーの仕事しかできない」ということです。
もっと分かりやすく言うと、「ディズニーの映画に専念しろ、ほかのスタジオの仕事はするな」
むしろあの有名企業「ディズニー」と仕事ができるのならラッキーにすら見えます。
全然ラッキーではありません。
何故なら、報酬が少なすぎるから。
具体的にどれほど少ないのか。
収益の1部、全体の10%未満。
では、そもそもアニメーション映画はどれほどの収益を出せるものなのか。
当時大ヒットしたアニメーション映画の代表は、『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』
すべてディズニーです。
これらの興行収入は、国内が1.46億ドル、海外が2億ドル。これは並外れた金額で、平均的アニメーション映画の約4倍です。
仮にピクサーがこの結果を出せたとしても、ピクサーが得るのは1700万ドル前後。
1度でも失敗したら大赤字です。3回連続でディズニーでもトップクラスの成功を出さなければいけません。
では、映画を制作するのにどれくらい期間を要するのか。
1つの実写映画をつくるのは2年程度ですが、
アニメーション映画はおよそ4年かかります。
大ヒット映画を4年かけてつくったとして、収益は1700万ドル。
1年で400万強ドル。
会社を成長させるのに年間400万ドルで足りるのか。到底足りません。
ピクサーからすれば「ふざけんな!」ですが、
ディズニーからすれば「実績のない会社に数千万ドルも貸すんだから、これぐらい当然だろうが!」です。
では、この契約はいつまで続くのか。
「ピクサーが映画を3本完成させるまで」です。
概算して、およそ13年間(当時ピクサーは、3本目の公開は2004年の5月を予定していました)です。
要するにピクサーは、13年間、ディズニー以外の映画、テレビ、ビデオの仕事は一切するな、という契約です。
他にも
- 「続編制作は本編がヒットした場合のみ」
- 「ただし続編をつくる際は、その映画は3本のうちにカウントされない」
などの怖い項目がいくつもありますが、とにかくピクサーにとってとんでもなく悪条件なのです。
しかし、ハリウッドではこれが当然なのです。実績のない会社にとってはこれが妥当。
ピクサーからすれば「おまえら人間じゃねえ!」と言いたくなりますが、
ディズニーからすれば「映画3本分の製作費を投資するんだから、これくらい当たり前だろ!」と言いたいところです。
まとめると、
- ・13年間、ピクサーはディズニーとしか仕事ができない
- ・どういう映画を製作するかはディズニーが決める
- ・クリエイティブ面もディズニーが決める
- ・うまい汁はすべてディズニーが吸う
- ・代わりにディズニーは映画3本分の制作費用を払う
これが契約です。
買収せずに子会社にしたようなものです。
史上最高レベルのアニメがつくれたとしても、報酬は僅か。仮に1度でも失敗したら詰みです。
契約書の内容を理解したローレンスは
「誰だこんな会社買ったのは!」
「誰だこんな契約結んだのは!」
「誰だこんな会社に俺を呼んだのは!」
と嘆きました。すべてスティーブでした。
【Disney & Pixar】再交渉へ
絶望を打開したのは、「トイ・ストーリー」でした。
トイ・ストーリーが大ヒットしたのです。
具体的には、1.92億万ドル弱の北アメリカ興行収入をあげ、1995年最大のヒットとなりました。
そこからはIPOにも成功し、総額1.5億ドルを調達し、もうウハウハでした。
しかし、油断はできません。ヒットした後はもっと大変なのです。
目新しいニュースは次の目新しいニュースによってすぐ刷新され、人々はすぐに忘れます。この時点のピクサーは一発屋に過ぎません。
次に何をすべきか。
契約です。とにかく契約が邪魔で邪魔でしょうがない。
ディズニーと契約したときのピクサーは、実績も知名度も交渉の武器もありませんでした。
しかし、いまはトイ・ストーリーの興行的成功という大きなアドバンテージがある。
トイ・ストーリー成功の記憶が新しいうちに、ディズニーとの再交渉に臨みました。
交渉に当たり、要求した条件は、
- ・クリエイティブな判断の権限
- ・収益は正しく折半
- ・ブランドの平等性
ブランドの平等性とは、簡単に言うと、ロゴのことです。
映画が完成したとき、ディズニーとピクサーのロゴが、同じ大きさで、同じ見やすさで広告などに出されることです。
それまでは、ディズニーの名前が大々的に出され、あたかもディズニーがつくった映画のように見えていたのです。
まず、スティーブがディズニーに連絡をします。対応に出たのは、アイズナーという人物でした。
「全部はムリだけど、交渉の余地はあります」
クリエイティブの権限や収益については承諾されましたが、ブランドについては認可されませんでした。
「うちのブランドが出されないならヤダ!」と交渉は決裂しました。
しかし、後日、アイズナーから連絡が来ます。
両社はもう一度交渉のテーブルにつきます。
交渉の結果、収益は折半。両社のロゴも平等に出されることになりました。
契約が締結してから、スティーブとローレンスはディズニーストアにある商品のタグに、ディズニーとピクサー、2つのロゴが対等に並んでいるのをチェックして、喜んだという微笑ましいエピソードまであります。
まとめ
いまでこそ世界的に有名なピクサーですが、ローレンスがやってきたころはトラブルが絶えませんでした。
ピクサーの特許をマイクロソフトに無断で使われたり(結果的に交渉してお金をもらう)、
ジョブズがスタッフが嫌われ過ぎていたり(スタッフはジョブズを「あいつ」と呼んでいた)、
そもそも映画の完成が間に合わない説が浮上したり、
ローレンスがレンタルビデオショップに行く途中で転んで骨折して出社できなくなったり、
アイズナーからの連絡が遅すぎて「俺、嫌われてんのかな。。」とスティーブが不安になったり、
数々のトラブルがありましたが、
いまではディズニーがピクサーのカルチャーを見倣うなど、多くの面で友好関係にあります。

