太平洋を挟んで


山口 巌(ファーイーストコンサルティングファーム 代表取締役)
(BLOGOS :アゴラ 2011年01月19日12時44分) http://p.tl/FKQC


日本に取って、戦後の何十年間とは、誠に以て、まぐれ当り的幸運な時期では無かったであろうか。金の掛る安全保障はアメリカにおんぶに抱っこ。本来、頭の痛い外交はアメリカ追従で、悪く言えば頭脳の機能停止であるが、それで済んだ訳である。
結果、経営資源たる、人、物、金を、欧米からの技術導入や商品開発に傾斜投入する事が可能と成り、エコノミックアニマルと揶揄されながらも、メイドインジャパンは世界市場を席巻し、結果日本は世界第2位の経済大国に迄上りつめた訳である。

誤解を恐れずに言えば、戦後の日本の成功は、アメリカあってのものと言う事である。

無論、日本人の持つ、民族としての気質も成功に大きく貢献した。何事に於いても生真面目な事。物作りに取り組む真摯な態度。そして、高い規律順守の精神等である。

しかしながら、何事に拠らず「光ある所影あり」が世の常である。此れ等、本来賞賛されるべき精神は、結果、形骸化してしまい、役に立たない古い組織や規制の温存を黙認してしまったのである。悪法でも躊躇わず順守してしまうのである。

冷静に眺めれば、嘗ての独占企業の成れの果てとして、無残な醜態を晒しているだけなのに、昔からあると言うだけで存在を黙認し、結果企業は市場から淘汰される事が無い。

資本主義経済の、本来駆動部門である起業に就いても、成り上がりと言う事で冷淡である。ライブドア事件の如く、マスコミが成功者への一般大衆の嫉妬を煽り、古い企業ならどうと言う事の無い話を刑事事件に迄してしまったのは記憶に新しい所である。

日本の此処に来ての低迷の原因は、未だにアメリカありきの成功体験の発想から脱却出来て無い事と、日本民族の優れた資質と、その背後に隠された弱点に対し正面からしっかり対峙し、今後を考える事を怠った結果では無いか。

潮目が変わったのは、一体何時だろうか。それは、日本の消費者がユニクロのクールで廉価な商品に狂喜し、店に客が殺到した時では無いか。嘗て、高品質な商品を廉価で提供し、欧米の消費者の支持を獲得した日本人が、メイドインチャイナを熱烈に支持した時である。

アパレルで此処までの成功を収めるのなら、産業のインフラが既に整っている訳で、繊維産業に拘わらず他産業でも成功する筈である。事実、家電、パソコン他ハイテク分野でも中国は世界の工場に成りかけている。

仄聞する所、此処に来て、大手企業社長候補が、中国総経理として赴任するケースが増えて来ているらしい。嘗ての、アメリカ支社長に代り、中国総経理を無難に務める事が、社長に選任されるマストと成った訳である。

上海在留邦人の数も、5万人を超えニューヨークを抜き去り、世界一と成ったらしい。10万人等も直ぐ超えるであろう。

考えて見れば、大阪からなら、札幌に行くより、上海に行く方がずっと早い。此れからの、地方都市の基本戦略としては、関西以西は「上海経済圏」と割り切り、日本政府の意向など無視して独立、独歩、自立した方が、成功するのでは無いだろうか。

大卒就職難が、何かと話題であるが、落とす為の就活に参加するのは負けの決まっているゲームに参加する様な物である。

中・高で英語を実用レベル迄マスターし、就職出来ない日本の大学は止めにして、中国に留学するのはどうだろう。上海に留学し、日経企業でアルバイトをしながら大学に通うのである。日本語、中国語そして英語を流暢に喋り、しかも、中国での仕事のやり方、進め方に通暁しておれば、引く手数多と思う。

就活が、巧く行かぬ事を、不満に思ってもしょうが無い。死にたく無ければ、生き残る為の努力をすべきと思うが。

世界は、大きくそしてダイナミックに変貌している訳であるが、政治家が、全くついて行けて無いのには、今更乍、唖然とする。矢張り、若い頃の留学経験とか、海外駐在兼件が無く、日本にばかり居て、日本人とだけ交際していては、こう成ってしまうのだろう。

菅首相、仙谷議員の世界情勢にに就いての発言は、意味不明で何を言いたいのかさっぱり要領を得ない。前原外務大臣の発言の多くは、アメリカの国益を代弁するもので、大臣辞めてアメリカのロビイストに転職すべきと思う。枝野官房長官の「中国は悪しき隣人」発言と、此れに続く一連の対中罵倒発言には、空いた口が塞がらない。上海に5万人を超える邦人が滞在し、仕事をし、生計を立てて居る事、全く理解出来て居ない。政治家失格である。

どうも、菅政権幹部の頭は、1970年代の東西冷戦の時代の認識から少しも進歩していない様である。不勉強も此処まで来れば、ある意味凄い。

皮肉な事に、民主党では、唯一人、70才に近い小沢一郎議員が太平洋を跨ぎ、アメリカ、中国をバランス良く俯瞰されている様に思う。小沢氏を政治的に抹殺し、代って、前原氏や枝野氏が、のこのこ北京に出かけても、中国政府からとても相手にされるとは思えないのであるが。