小沢一郎は有罪か無罪か  (日刊ゲンダイ2010/12/17)

─「社会的にも法律的にも問題が多い」という小沢の弁護士弘中氏の言と正体不明の検察審査会の強制起訴、そのカネの話が内閣支持率低下の原因とスリ替え小沢排除の菅民主党無能内閣のドロ沼

民主党の議員たちや大マスコミは、少し冷静になったらどうだ。小沢一郎元代表の政倫審招致の騒動は、どう考えても狂っている。

「政治とカネ」の問題は、今ここで大騒ぎするほどの天下の一大事なのか。小沢が出席を拒否すれば、民主党を分裂させなければいけないような大問題なのか。

ちょっと冷静になれば、これが菅・仙谷コンビの仕掛けたペテン、目くらましであることは簡単に分かるのである。政治評論家の山口朝雄氏が言う。

「菅首相や仙谷官房長官は、政権運営がうまくいかないのを、すべて小沢氏のせいにしている。政治とカネの問題が片付かないから、支持率は落ち続けるし、選挙も負け続けるんだという理屈。来年の通常国会まで引き延ばしたら大変だから、年内に決着をつけないといけないんだとも言っている。でも、それは全然違うでしょう。小沢氏の存在と支持率の低下はまったく関係ありません。民主党が惨敗した先日の茨城県議選だって、政治とカネの問題が一大争点になったわけではない。景気低迷や菅政権のテイタラクが嫌われたのです。そんなことは百も承知のうえで、菅首相や岡田幹事長は自分の責任を小沢氏になすりつける。姑息すぎますよ」

雨が降るのも「小沢のせい」、寒いのも「小沢のせい」。そのうち菅首相は、予算編成ができないのも「小沢のせい」と言い出すだろう。こんな卑怯で愚鈍な首相を、まだ党内の半数が支えているのだから、民主党は本当にくだらない議員の集団になってしまったものだ。



◆小沢潰しに加担するメディアの“原罪”

それでも、菅や仙谷が仕掛けた目くらまし作戦がマンマと成功しているのは、大マスコミが暗愚首相サイドに立って、これでもかと「政治とカネ」問題をたきつけているからだ。「小沢叩きをやれば視聴率が上がる」とTVマンが言ったが、いろんな思惑で大マスコミも「小沢カード」をもてあそんで商売にしている。しかし、そろそろ大新聞テレビは「正義漢」ぶる前に、小沢問題の何が決定的疑惑なのか示したらどうなのか。

元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏がこう言った。

「検察がいくら捜査しても立件できなかった小沢さんのカネの問題を、メディアはずっと批判し続けている。それなら、一体何が疑惑なのか、自分たちが取材でつかんだ結果を示す必要がある。それをせずに、“小沢だから怪しい”“逃げるな”と連日騒ぐのは筋違いというものです。検察のシリ馬に乗った小沢叩きの延長にしか見られない。メディアの資質が逆に問われているのです」

小沢捜査報道で、検察情報だけ信じて完敗した大マスコミは、今や、検察審査会の強制起訴を最後のよりどころにしているが、検察審なんて、正体不明の法律シロウト会合。裁判になっても、小沢は「100%無罪」と専門家は口をそろえる。村木・厚労省元局長の冤罪事件を担当し、今回、新たに小沢の弁護士になった弘中惇一郎氏は会見で「社会的にも法律的にも問題が多い。ぜひ小沢さんを無罪にしたい」と自信たっぷりだった。

小沢のカネの問題をいくら叩いたって、赤っ恥の結末になるのは目に見えているのだ。それなのに小沢叩きをやめられない大マスコミ。それが問題スリ替えの菅政権と一緒になって、あらぬ方向へ突っ走っているのが師走の狂った政情の背景なのである。

藪を突ついて蛇を出すじゃないが、仙谷の問責更迭逃れと、茨城県議選惨敗の責任逃れのために仕組んだ小沢政倫審問題は、とんでもないことになってしまった。連合の古賀会長まで間に入って「まあまあ」とやったが、事態はエスカレートの一途。両者が引くに引けなくなってしまっている。

開いた口がふさがらないとは、このことだ。民主党関係者が内幕を語る。

「そもそもは仙谷長官が更迭を恐れたことが、すべての始まりです。小沢・鳩山グループは、茨城県議選の結果を受けて、菅首相に仙谷更迭と内閣改造を迫るつもりだった。そうなると自分は抹殺されると、仙谷長官は過剰に反応して、小沢潰しの先制攻撃を仕掛けたのです。マスコミを味方に引き込めば、政倫審出席を拒否する小沢氏を離党勧告、除名にまで持っていけると仙谷長官は考えた。更迭を免れる余地もできると。



これに菅総理も岡田幹事長も巻き込まれてしまった。首相の指示に従い、ポストの仕事を忠実にこなすのが原理主義者の岡田幹事長なので融通がきかない。突っ走るしかなくなってしまった。小沢グループは、そんな仙谷長官の策略を知ったから、防衛を始めた。党内3分の1の署名を集め、両院議員総会を開かせ、総理や幹事長を糾弾する方向で動きが進んでいます。両者の対立はどんどんエキサイトしてしまい、もう修復は不可能かもしれません」

小沢叩きにつながれば何でも面白がる大マスコミは、岡田幹事長を突き上げ、議決に持っていかせようとハシャいでいる。「民主党分裂か」と騒動を煽って楽しんでいる。どうしようもない政情だ。

◆不毛の抗争の犠牲者は国民なのだ

だが、こんなドタバタ劇をずっと見せつけられる国民はたまったものじゃない。景気は、エコカー減税終了やエコポイント半減で急速に落ち込み始めている。国民不在の政争をやっている場合ではないのだ。

山口朝雄氏(前出)がこう嘆いた。

「すべては何もできない菅首相がいけないのです。政策実行が八方ふさがりで、支持率下落が止まらないから、また小沢カードを使う。小沢カードを切れば、支持率が上がる。その味が忘れられないのです。本当の意味で国民の支持を回復したいのなら、景気対策でがんばればいい。公約した雇用問題に全力投球すればいいのに、それをしない。困ると、小沢排除でしのごうとする。こんな発想力のない、後ろ向きの内閣は初めてですよ。内ゲバで菅政権が消耗していくのは勝手ですが、その前に国民生活が消耗したら悲劇ですよ」

結局のところ、裁判で小沢の無罪が決着するまで、この不毛の足の蹴り合いは続くのだろう。小沢裁判にケリがつくのは、早くても来年後半。それまで国民生活は機能マヒ政治の犠牲にされるのである。

本来、国民の生活を最優先させて仕事をするのが議会制民主主義なのに、自分たちの生き残りのために政治を私物化する菅・仙谷コンビ。国民は自分の力で、この無能政府を拒否するしかない段階にきているのだ。



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