急浮上した政界再編――民主、自民の分裂で新たな連立政権も
(日本の論点 2010.12.09 )http://p.tl/H1s -

*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 臨時国会が閉幕(12月4日)し、政界再編の動きが活発化し始めた。菅直人内閣の支持率が20%台に急落し、民主党政権の前途に赤信号が灯った民主党では、小沢一郎元代表の国会招致という「小沢カード」を切りたい首相サイドと、仙谷由人官房長官の更迭、内閣改造を要求する反菅陣営が真っ向から対立、一部には年末の政変が必至との見方が出てきた。

 こうした対立に拍車をかけたのが、12月8日の動きだった。かつて(2007年11月)自民、民主の大連立を仲介したことのある読売新聞主筆兼グループ会長の渡邉恒雄氏が、谷垣禎一自民党総裁と党本部で会談し、「菅首相、谷垣副首相体制で2年間、救国政権をつくり、消費税引き上げなど内外の懸案を解決すべきだ」と呼びかけた。この「救国政権」構想、じつは10月ごろから政界の底流にあり、すでに菅首相は、福田康夫元首相、与謝野馨・たちあがれ日本共同代表と会談、8日には、森喜朗元首相も別の名目で首相官邸を訪れ、その可能性が模索されていた。

 しかし、渡邉氏が唱える大連立による「救国政権」は、3年前とくらべて政治環境が激変しており、実現は困難だ。会談では谷垣総裁は「菅首相が信用できない」と、拒否したと伝えられる。じっさい自民党内には派閥幹部らを中心に谷垣執行部への反発が根強く、一枚岩にほど遠いのが実情だ。他方、民主党内では、菅首相、仙谷官房長官、岡田克也幹事長ら主流派と、小沢氏、鳩山由紀夫前首相、輿石東参院議員会長らの非主流派の間に、もはや越え難い溝が生じている。

 民主党の深刻な亀裂を決定的にしたのが、衆院政治倫理審査会への小沢氏招致を議決してでも実現しようとする主流派の動きだ。現に8日、菅首相は岡田幹事長に党内調整を指示した。しかし小沢氏は、検察審査会で強制起訴されたことから司法の場に委ねることを主張し招致を拒否した。菅首相らは、こうした小沢氏のかたくなな態度を理由に離党勧告を突きつけ、除名も辞さずという強硬な構えを見せている。この「小沢斬り」に対して非主流派が猛然と反発、8日には小沢シンパの参院議員らが岡田幹事長に抗議したほか、年内の両院議員総会開催を要求する動きを見せた。また執行部に属する参院幹部も「官房長官の辞任が先だ。小沢招致を強行すれば党の分裂だけでなく、内閣そのものが吹っ飛ぶ」と強く牽制した。

 この背景には、主流派がいわゆる「小沢カード」を切ることで、人気を回復し、政権の再浮揚を図る狙いがある。これに対して小沢氏は、代表選挙(9月14日)で半数に近い200票を確保した実績をもとに、着々と基盤固めをしている。小沢支持勢力は各種の議員連盟(たとえば「日本の海運を考える議員連盟」など)を次々に立ち上げたのをはじめ、1年生議員の集団「一新倶楽部」の53人を派閥化して「北辰会」を発足(11月25日)させた。小沢氏は7日夜、松原仁衆院議員ら親小沢グループの会に出席、地方の首長、議員選で民主党が連敗していることを踏まえ、「菅政権への不満から地方で反乱が起きる。解散・総選挙が早まるかも知れない。常在戦場だ」と檄を飛ばした。また8日夜には、鳩山前首相、舛添要一新党改革代表、鳩山邦夫元総務相とも会談、席上、鳩山前首相が「協力しようとしているのに菅首相はわれわれを切ろうとしている」と不満を口にしたという。

 では今後の政界再編はどのようなシナリオで展開するのか。

 水面下の情報を総合すると、(1) 12月末までに小沢氏ら非主流派が分党、自民党の反谷垣派と連携する、(2)菅首相ら主流派が谷垣氏らの自民党主流派との連立を目指す――という2つの動きが軸になりそうだ。もちろん前提は、民主、自民双方の分裂だ。これに公明党をはじめ、みんなの党や国民新党、たちあがれ日本、新党改革を巻き込んで大掛かりな政界再編に突き進むというのが大きな流れである。それも、解散・総選挙の前に政界再編が実現する公算が大きい。となると、通常国会開会冒頭の1月下旬の解散、2月が総選挙となる。

 いっぽう、こうした分裂、政界再編を回避しようというシナリオもある。それは、菅首相が病気や党内の混乱を理由に急きょ辞任するか、一転して小沢サイドと和解(この場合、仙谷官房長官の更迭と小沢氏の国会招致をおこなわないことが条件になる)し、内閣改造をおこなってトロイカ体制を再構築するという妥協策の成立だ。

 民主党、自民党ともに分裂し、政界再編がおこなわれることになったら、連立政権のトップ、すなわち次の首相は誰なのか――いうまでもなく、それを左右するのは、予想される総選挙の結果だ。菅首相サイドは当然、菅首相の続投を目指すが、ダウン寸前の現状ではもはや無理だ。そうなると、民主党からは前原誠司外相か岡田幹事長、自民党は谷垣氏か石原伸晃幹事長というのが常識的なところだろう。しかし、小沢サイドは思い切った若返り策を考えているといわれる。いま取り沙汰されているのは、野田佳彦財務相、松本剛明外務副大臣、細野豪志前幹事長代理あたりだ。自民党からは小沢氏に比較的近い福田元首相の再登板、または、国民に広く人気のある渡辺喜美・みんなの党代表の起用も口の端にのぼっている。

 ではそのときの総選挙の争点は何か。菅サイドは「消費税の引き上げによって社会保障費の財源を賄う」政策と、「平成の開国としてTPP(環太平洋経済連携協定)への参加」を主なテーマに据えてこよう。対する小沢サイドはかねてからの主張である「社会福祉目的税をつくり消費税を財源に充てるが、その前に徹底して行政の無駄を排除する」、「TPP参加は国内の農林漁業者保護対策を徹底させてから」というのが対抗軸の政策だ。そのとき、「政治主導」を掲げながら官僚にとり込まれてしまった菅政権を徹底して批判するのは、容易に予想できる。

 内憂外患のいま、どの党にも「救国」という旗印がある。動き出したらあっという間に進むのが政局というものなのである。

(松本泰高=まつもと・たいこう 政治ジャーナリスト、『日本の論点』スタッフライター)