「自民党政権復活」の選択肢は本当にあるか?菅内閣の危険水域突入を機に国民の“良識”を問う


今週のキーワード 真壁昭夫
(DIAMOND online 2010年12月7日) http://p.tl/oGS0


菅内閣は、いよいよ危険水域に入っている。政権に対する支持率は低下の一途を辿り、とうとう不支持率と逆転してしまった。それは、国民の菅政権に対する失望感がいかに大きいかを如実に表している。

 その背景には、経済、外交などの政策運営が行き詰まっていることに加えて、主要閣僚の不適切な発言が重なっていることなどがある。そうした状況を見ていると、民主党はいかにも頼りない。

 昨年の衆院選挙で民主党に投票した人々の中にも、「民主党政権にわが国の政治を任せることはできない」という見方が強まっているだろう。


■民主党を選んだ有権者から批判が噴出!「政権担当能力は素人」という批判

 問題は、今後菅政権が、難問山積のわが国の状況に対して、適切に対峙することができるか否かだ。ある政治評論家は、「民主党は、野党として与党の政策批判をしているだけなら良かったのだが、実際の政権担当能力は素人だ」と酷評していた。その見方は、多くの国民が抱く感覚と大きく違ってはいないはずだ。

 わが国をとり巻く経済や安全保障にかかわる環境が厳しさを増している現在、政権の基盤が脆弱になることは好ましいことではない。足元の民主党政権の弱体化は、わが国の弱点である政治の弱さが、具合の悪いときに顕在化したことを意味する。

 ただしその責任は、民主党を圧倒的多数で支持した国民にある。われわれは、そうした自覚を持つべきだ。

 自民党からバトンを受けた民主党政権の運営を見ていると、政策の根本となる筋の通った政治方針が見えない。

たとえば、沖縄の基地移設問題について、当初「普天間基地は少なくとも県外移設」と主張した。その政策は、同盟国である米国と沖縄県民の間で行き詰まり、現在解決の糸口さえつかめない状況だ。政権は、その難問にどのような方針で臨むつもりなのだろうか。

 菅首相は、先の参院選前に消費税率引き上げの方針を打ち出した。ところが、選挙で大敗したことを受けてその主張は後退し、今では明確な主張すら見えない状況だ。“子ども手当“の実施などで、財政状況は悪化の一途を辿っている。

 あるいは、最近のTPPの問題にしても閣僚間で意見集約ができず、このままではうやむやのまま結論が先送りされることは目に見えている。その結果、わが国経済は、世界の流れに置いて行かれることになるだろう。


■韓国や台湾に追い上げられる日本経済世界はわが国の政治をもう待ってくれない

 そうした脆弱な政策方針の背景には、民主党の目的がもともと政権交代自体にあったということが言えるだろう。選挙民に耳触りの良い主張を行ない、選挙に勝って政権交代を実現した後の明確なビジョンがなかったのではないか。

 また民主党内に、実際の政権運営を担当した経験者が限られていることも、マイナス要因の1つだろう。政策運営の経験が限られる民主党が、様々な難問を抱えたわが国の舵取りをすることは、口で言うほど容易なことではない。

 菅政権の政策運営ぶりを見ていると、専門家の一部から「担当能力は素人」と酷評されるほど稚拙な部分もある。それに対しては、有力な支持母体である連合幹部からも苦言を呈されるほどだ。

 現在、わが国を取り巻く経済・政治などの環境は、厳しさを増している。1990年代初頭のバブル崩壊後、わが国経済の成長は大きくスローダウンしている。個別の産業分野で見ても、かつて世界のトップに君臨していた家電業界は、すでにその地位を韓国や台湾に譲っている。

自動車産業は、今でも世界最高峰のポジションにいるものの、新興国における展開の遅れなどから、今後その地位を維持することは容易なことではない。


■一本の糸で繋がる対米中朝外交には明確な将来像がなければ対処できない

 一方、中国やインドなどの新興国の台頭が顕著なこともあり、世界の政治情勢も大きく変化している。特に、国際政治の舞台における中国の発言力は、飛躍的に高まっている。

 それに伴い、安全保障に係る情勢も大きな変貌を遂げており、今まで日米安全保障条約の下で平和を謳歌してきたわが国も、安穏とはしていられない状況になりつつある。

 そうした激動の環境下で、「しっかりした政策方針が見えない民主党政権がわが国のかじ取りをしていて、本当に大丈夫だろうか」という疑問を持つのは、むしろ当然のことだ。世界情勢の変化のスピードは、民主党政権の政策運営を待ってくれないのである。

 最近の朝鮮半島の情勢はかなり緊迫している。それは決して、わが国にとって対岸の火事ではない。北朝鮮の後ろ盾には中国がいる。わが国はその中国と、尖閣諸島の領有権問題で対峙していることを忘れてはならない。

 沖縄の普天間基地の問題や対中国の外交問題は、1つの糸でつながっている。相互に密接に関連する事項を、有機的、総合的に解決する方法を見出すためには、わが国全体のしっかりした将来像を持つことが必須だ。民主党政権は、その点を自問してみる必要がある。


■自民党政権復権の可能性はあるか?国民に求められる「責任の観念」

 ところで、我々国民は、民主党の政策運営を批判しているだけでは不十分だ。昨年の衆院選挙で、自民党に引導を渡し、民主党に政権を委ねたのは、他ならぬ我々自身だ。その責任は国民自身にある。

 財源を捻出できれば、増税をしなくても政策運営は十分できると宣伝された事業仕分けや、経済対策を目的とした「子ども手当の実施」など、我々は耳触りの良い約束に多くの票を民主党に投じ、その結果歴史な政権交代を実現させた。

 その民主党の政策運営が大きく期待を裏切っていることは残念だが、それを嘆いてみても事態は変化しない。

 もう1つ難しい問題は、民主党に代わって本当にわが国の将来を任せられる政党が、はっきり見えないことだ。それは、国民にとって判断を困難にする要因である。 将来を任せることができる政党がはっきりしていれば、民主党政権により明確に「ノー」を突きつけることができるからだ。

 民主党が頼りないと言っても、自民党がしっかりした受け皿になってくれるかというと、今ひとつ頼りなさは残る。その他の政党といっても、「自信を持って我が国の将来をお願いします」と言える状況ではない。

 我々は、わが国の政治に対する客観的で冷静な認識の下、しっかりしたリーダーシップを持つ政治家を選択することが必要だ。そうしたリーダーがいなければ、辛抱強く、その出現を待つべきだ。見かけだけの政治に惑わされてはならない。