警視庁テロ情報、13の国・地域に拡散 責任追及と信用確保…苦悩する警察
(産経新聞 2010.11.19 01:00) http://p.tl/HEy3

 警視庁公安部外事3課が作成したとみられる国際テロに関する資料がインターネット上に掲載された問題で、ファイル共有ソフトを通じて計13の国と地域で資料が入手されていることが18日、ITセキュリティー会社への取材で分かった。警察当局は最大の懸案だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)警備を無事終えたが、資料の拡散で国際問題に発展する可能性は否定できない。流出情報が「本物」と判明しても、それを認めるわけにはいかないという「インテリジェンス(情報活動)の常識」も悩みの種だ。


■拡散

 ITセキュリティー会社「ネットエージェント」(東京都墨田区)では、資料が共有ソフト「ウィニー」に流出した10月28日以降、ウィニーのほか「シェア」、「パーフェクトダーク」の計3種類で資料を入手した人数を集計した。

 その結果、これまでに日本の5172人が最も多く、韓国27人、台湾19人、米国17人と続き、13の国と地域で計5262人が入手していた。

 入手された資料は、ネット上の掲示板に転載されたり、添付ファイルなどでメール送信を重ねられたりしており、実数はこの何十倍にものぼる可能性がある。

 流出した資料には、イスラム系外国人の「捜査協力者」との面会記録や行動確認記録、イスラム圏の在京大使館の給与口座照会結果もあった。イスラム圏の国々でも資料を入手して問題視する声があがれば、外交問題にも発展しかねない。


■難航

 警視庁では、サーバーの経由が確認されたルクセンブルクから発信元をたどる作業に加え、資料は誰が入手可能であったかという2本立てで調査をしている。

 外事3課には、庁内LANのみに接続する「庁内」パソコン▽インターネットのみに接続する「外部」パソコン▽どこにも接続していない「独立」パソコン-の3種類がある。

 流出した資料の中には、誤字・脱字があるなど作成途中で、上司の決裁を受ける前のものとみられるものがあった。通常、資料は庁内パソコンで作成されるが、現場に出る機会が多い捜査員は独立パソコンで作成することもあるという。

 独立パソコンは外部記憶媒体にも保存が可能で、ここからデータが抜き出された可能性がある。だが、資料の作成者と抜き出した者は一致しないとみられ、警察幹部は「追跡は容易ではない」と調査の長期化を示唆している。


■苦悩

 警察当局は依然、「資料が本物かどうかを含めて調査中」という姿勢を変えていない。海外情報機関との関係を考慮すれば、軽々しく「本物」と認めることはできないが、このまま「調査中」を貫くのも難しく、苦悩は深まるばかりだ。

 「大半は本物でほぼ間違いない」。ある警察幹部はこう話す。インテリジェンスの世界で最も秘匿しなければならないのは、外部協力者の情報。それすら守れないとなると国際的信用は完全に失墜する。「海外でも情報流出や内部の暴露があった際、情報機関は『知らない』で押し通すのが常識」(警察幹部)なのだ。

警察幹部は「流出元が判明した場合、資料を本物と認めて刑事責任を問えば、さらに信用を失いかねない。不祥事の隠蔽(いんぺい)といった低次元の話ではない」と説明する。

 インテリジェンスに携わる者が流出情報を見れば、どういうたぐいのものかはすぐに分かる。識者からは「他国の情報機関が偽物と思うはずがなく、すでに信用は深く傷付いていることを認識すべきだ」といった声もあがっている。

 警察当局は一定の調査が済んだ段階でFBI(米連邦捜査局)に幹部を派遣し、経緯を説明することも検討している。別の警察幹部は「まずは流出元を特定し、第2の犯行の芽を摘まないと。対応はそれからだ」と苦悩をにじませた。