菅政権への正しい評価 悪いのは仙谷なのか、小沢なのか  (日刊ゲンダイ2010/11/9)

菅首相は政権運営のナンバー2を間違えていないか

―内外の厳しい情勢の中でこの国の進路のために良くやっているという声と支離滅裂で一体何を目指している

のか不明という酷評の中で

―なぜ菅首相は脱小沢の首謀仙谷官房長官に乗り、その路線で支持率が低下し民主党政権の不評を招いているのか

さすがに、ノーテンキな民主党議員も真っ青になっているのではないか。菅内閣の支持率が急落しはじめたからだ。
NHKの調査では「支持31%」「不支持51%」とついに逆転。読売新聞の調査でも「支持35%」「不支持55%」だった。深刻なのは、不支持の理由が「実行力がない45%」「政策に期待がもてない31%」と、菅内閣の力量そのものを否定していることだ。

支持率が急落するのも当然だ。菅内閣のスタートからすでに5カ月。「脱小沢」を叫ぶだけで、なにひとつ具体的な実績を挙げていない。目につくのは、尖閣諸島問題など外交の混乱や、情報流出など政府の失態ばかり。ハッキリ言って政権の体をなしていない。30%の支持率があるのが不思議なくらいだ。
「支持率急落の要因は、尖閣問題や景気対策など個別の問題もあるが、一番大きな理由は、やっていることが支離滅裂で、一体なにを目指しているのか、まったくビジョンが見えないことです。尖閣諸島の問題だけでなく、すべてがチグハグ。国会運営も右往左往するだけで、10月1日に臨時国会を召集したのに、いまだに法案一本、成立させられない。中国漁船の衝突は、たまたま起きたハプニングかもしれないが、菅内閣は問題が起きるたびに、ガタついている。これでは国民が『この内閣はダメだ』と呆れるのも当然です」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)



◆判断ミスを連発している「陰の総理」

なぜ、こんなヒドイ状況になっているのか。菅内閣が混乱し、シッチャカメッチャカになっている理由はハッキリしている。
ヤル気のない菅首相が、なにもかも「陰の総理」の仙谷官房長官に丸投げしてきたツケだ。
最近の首相は「俺は疲れたよ」を連発し、官邸スタッフが執務室に報告に行くと、「なんでもかんでも俺のところに持ってくるな」と怒鳴り、「俺に判断しろというのか!」とキレるらしい。
総理が判断しないで誰が判断するのか疑問だが、結局、官僚も閣僚も民主党議員も、仙谷長官に相談し、頼るようになる。内政から外交まで、すべて仙谷長官が決定しているという。「仙谷内閣」と呼ばれるのもそのためだ。
ところが、仙谷長官はことごとく判断を間違えているというのだ。

「答弁はもちろん、国会運営から人事まで、仙谷長官が一手に引き受けている感じです。自信家の本人もうれしそうに政権を仕切っている。しかし、しょせんは当選6回の中堅議員。与党経験は1年しかない。ギリギリの場面でいつも判断を間違えている。たとえば、尖閣問題です。外務省の頭越しに知り合いの民間コンサルタントを中国に派遣し、ビデオを公開しないことを約束してしまった。結果をみれば仙谷長官のミスは明らかです。国会運営でも、公明党と対立している矢野絢也・元公明党委員長への叙勲を認めたことで、公明党の協力を得られなくなってしまった。『陰の総理』などと持ち上げられているが、仙谷長官の判断ミスが足を引っ張っているのは間違いない」(民主党関係者)

「反小沢一派」は、支持率下落の原因を「政治とカネ」の問題だと言いはじめているが、見当違いも甚だしい。なんでもかんでも小沢一郎の責任にするのはやめるべきだ。



◆国家ビジョンがないのが致命傷

菅首相は仙谷長官を頼り切っているが、政権運営のナンバー2を間違えている。このまま仙谷長官の路線に乗っていたら、野垂れ死にするだけだ。
そもそも、仙谷長官は政治家として本当に有能なのか。ある民主党議員がこう言う。
「仙谷さんがそれなりに優秀なのは確かです。ただ、いま力を持っているのは、官房長官というポストに就いているからです。そこが“無役”でも影響力を持ちつづけている小沢一郎とは決定的に違う。官房長官の力の源泉は、年間15億円の官房機密費だけではない。意外かもしれないが、閣議を牛耳っていることが大きいのです。閣議にかける案件は、必ず前日に官房長官にサインをもらう必要がある。サインを拒否されたら、閣議にかけられず閣僚も官僚もお手上げ。役所の仕事がストップしてしまう。だから、大臣も役人も官房長官には異常に気を使う。それなりの政治家なら、誰でも官房長官をやれば力を持つのはそのためです。あの福田康夫さんも『大官房長官』と呼ばれたものです」

仙谷長官が政治家として致命的なのは、菅首相と同じく「国家ビジョン」がないことだ。仙谷長官から目指す「国家像」を聞いた民主党議員は、ほとんどいない。日本をこうしたいという理念がないから、想定外の危機が起きると首相と同じように右往左往してしまう。
もちろん、甘ちゃんばかりの民主党のなかで、仙谷長官が異彩を放っているのは事実だ。暴力団と平気でつきあい、同僚大臣を「おまえ! 次の人事でどうなっても知らんぞ」と怒鳴りつけるような恫喝は、ほかの議員は誰もできない。民主党議員は震え上がっている。
しかし、難問山積の内閣の官房長官がつとまるような器じゃない。それは菅内閣の混乱ぶりが証明している。



◆小沢一郎に協力を求め、政権を安定させよ

いまからでも遅くはない。政権を維持したいなら、菅首相は仙谷長官を切り捨ててでも、小沢一郎に協力を仰ぐことだ。
もし、菅首相が代表選後、負けた小沢一郎を幹事長や官房長官に就けていたら、ここまでブザマな姿をさらすこともなかったはず。
「好き嫌いは別にして、いまの民主党の中で、小沢一郎以上の政治家はいない。当選14回、国会議員40年の経験はダテじゃない。もし、小沢が幹事長として菅内閣を支えていたら、これほど対中関係も悪化しなかったでしょう。公明党との太いパイプを生かして、国会運営もスムーズにいっていたはず。なのに、菅首相は仙谷長官の『脱小沢』路線に乗っかって、小沢排除に動いているのだから、自分で政権を弱体化させているようなものです。小沢排除に動けば、小沢グループ150人も敵に回してしまう。なぜ、味方に取り込まないのか、理解不能です」(政治評論家・山口朝雄氏)

「陰の総理」として得意絶頂の仙谷長官は、神奈川県知事から「日本で一番の有名人」とおだてられると、「小沢なき後のなにか悪いイメージの……」と小沢を小バカにするほど調子に乗っている。支持率を回復するために、年内にも小沢一郎を「除名」にするつもりだ。しかし、これ以上、仙谷長官を増長させたら菅内閣はさらに支持率を下げ、あっという間に倒れるだけだ。




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