小沢首相なら状況は変わっていたか (日刊ゲンダイ2010/10/13)

菅内閣は貧乏神である

─不景気ヅラそのものの首相と官房長官。なにか全く余裕が感じられないプロレタリア政治。資本主義経済のこの国は一体どこへ向かっているのか

─一例をあげれば、全く景気対策に役立たずの補正予算、エコカー補助廃止とエコ家電半減の愚策、通貨戦争への対処法、この政権は経済政策に対して全く無知無能である

内閣府が調査する景気指数のひとつに、「消費者動向」というのがある。いわゆる消費者心理から見た景況感だが、きのう発表された9月分は、3カ月連続の悪化だった。
驚いたのは、3カ月連続悪化はリーマン・ショック直後の08年10~12月以来ということ。これは深刻だ。どうりで、「景気が悪い」という声が巷にあふれるはずである。
もうひとつ注目すべきなのは、菅内閣のスタートと同時に、消費者の心理が冷え始めたことだ。大マスコミは、「政治とカネ」問題をことさら騒ぎ立てて鳩山政権を潰し、さらに「脱小沢」で菅政権を誕生させたが、何のことはない、大マスコミ主導の菅政権が、景気の貧乏神みたいなものなのだ。「政治とカネ」を国政の最大テーマにして、「クリーンでオープン」な菅政権に代えても、中身がなければ、国民の腹の足しにも景気の足しにもならないのである。
だから、ボソボソ声でいつも眠たそうな不景気ヅラの菅首相や仙谷官房長官が国会で補正予算をいくら説明しても、話題にもならない。円高は勝手に進み、株価はストンと200円下落した。大マスコミが絶賛した日銀の金融緩和も、海外の投資家やマーケットに何のメッセージも送れなかったことを証明している。政権の質が悪いと、何をやったところで効果は出ないのだ。

◆官僚任せの単なるアリバイ対策
明大教授の高木勝氏(現代経済学)が言う。
「菅内閣に対して感じる不安は、危機感や本気さがなさすぎることです。予算づくりや経済運営で経験がないことは仕方ない。それなら、自民党時代とガラリと発想を変えて、新機軸の景気対策をするとか、一点集中を狙えば、サプライズになります。国民の間にも少しは期待感が生まれる。しかし、今回の補正予算を見て、本当にガッカリです。自民党時代からあった対策をただカキ集めただけで何も新鮮味がない。官僚に任せっぱなしだから、こうなるのです。規模の5兆円も、昨年の20兆円以上に比べてあまりに少なすぎる。
さらに呆れたのは、菅首相自らが来年1月から実行したいと、悠長なことを言ってしまったことです。2カ月半も先のことなら、急いで議論する必要がないと国会がダレてしまうのは当然じゃないですか。まったく真剣さが足りない内閣ですよ」
緊急景気対策のはずの補正予算が、単なるアリバイ対策では、内外で見向きもされないのは当然だ。欧州各国は通貨安戦争で国内経済を守ろうと必死なのだから、円高が止まらないのも当たり前である。高木勝氏がこう続ける。
「言うまでもなく、日本経済はデフレ不況の進行と急激な円高で、ガラガラ崩れてしまうかどうかの瀬戸際です。そんなときに民主党政権は何をしたらいいのか。何をなしえるのか。ひとつの考え方は、マニフェストでうたった“コンクリートから人へ”です。国民生活を直接潤す景気政策を並べる手があった。ところが、国民の間に浸透して需要が多いエコカー補助金を9月で廃止し、家電のエコポイントも半減してしまう。一体何を考えているのでしょう。経済オンチ内閣が中途半端なことばかりやっているから、始末が悪いのです」
予想されたことだが、市民運動出身首相と弁護士育ち官房長官コンビの政権に、経済政策はやっぱり無理。こうも無知無能では話にならない。

◆小沢を抹殺し景気浮揚を潰した救い難い国
それだけに、かえすがえすも残念なのは民主党代表選の結果だ。小沢一郎元代表が首相に選ばれていたら、今ごろ国民は景気浮揚でワクワクできたはずである。経済アナリストの菊池英博氏が言う。
「菅首相は市民運動の突撃隊長で、仙谷官房長官は人権や労組問題の弁護士だったそうですが、そういう人たちがトップに立ったときの限界というのが見えました。権力奪取までは考えられるが、その先の経済運営はズブのシロウトで、頭が回らない。官僚の言いなりになるしかないのです。弱者救済といった政策でも打ち出すのかと思っていたら、いきなり言い出したのが弱者を痛めつける消費税アップだった。政策以前に政治信念もないのです。その点、小沢元代表は若い頃から政権中枢で経済運営に関わってきたし、国家観から景気の処方箋まで持っている。民主党代表選で分かったように、円高対策を質問されれば、内需拡大の必要性や輸出依存体質からの脱却まで、スラスラと戦略も語れる。一括交付金のように、いま沈没しつつある地方経済の活性化策も、きちんと持っている。あの人は、官僚の操り方も、財源の捻出法も分かっているだけに、いま首相として、緊急景気対策の補正を組ませていたら、クロウトもうなる、すばらしいものになっていたはずです」
作家の大下英治氏が、「なぜ子ども手当なのか」と小沢に尋ねたら、「少子高齢化の国に未来はない。子どもが増えない国には経済成長も望めないでしょう」と言われたという。
「そういう大きな方向性を示すことが政治のリーダーの務め。一括交付金や高速無料化も同じ。大きな発想ができる政治家はいまの政界には小沢氏しかいないのです」(大下英治氏)

─つまり、この国の大マスコミがこの国の衰退の元凶だったことになる
◆大マスコミのせいで衰退の一途
代表選であれだけ「雇用」を連呼しながら、官僚に雇用中心の補正を組ませることもできない菅とは、スケールが違うのだ。しかし、そんな経済政策が分かる数少ないプロ政治家を、この国は寄ってたかって潰してうれしがっている。まったく、どうしようもない国民性だ。
「すべて悪いのは大マスコミです。あの代表選だって、本来は消費税増税で参院選に大敗した菅首相の政策がいいのか、小沢氏の経済対策が日本を救うのか、そこを最大論点にするのが当然だし、国民生活のためなのに、政治とカネばかりを報じて争点をずらし、小沢氏を首相にさせなかった。このままデフレ不況が悪化して、国民生活が崩壊していったら、マスコミはどう責任をとるのか。マスコミは“国民の敵”であり、亡国のヤカラであることを知っておかないと、痛い目に遭うのは国民なのです」(菊池英博氏=前出)

朝日新聞以下の大マスコミだって、大不況で経営がどんどん苦しくなり、大リストラを迫られている。それなのに、景気を上向かせることより、無能無策政権をヨイショして、小沢抹殺にトチ狂う。アホなのかオメデタイのか、財務官僚の手先なのか腐敗検察の子分なのか知らないが、この世間知らずの大マスコミがでかいツラをしている限り、この国の衰退は止まらない。