歪んでいない小沢の正しい評価と見方 (日刊ゲンダイ 2010/10/9)

小沢一郎はどうすべきか

─議員辞職やら離党勧告と騒がしいが、自分は辞職も離党もせず裁判で無実をかち取るという生き方にこれだけの声

大新聞やテレビは「ケシカラン」と騒いでいるが、「政治活動は淡々と続けていく」という小沢一郎・民主党元代表の選択は間違っているのだろうか。 小沢は「国の正式な捜査機関である検察当局の1年余りにわたる強制捜査の中で、起訴するような不正な事実はないことが明らかになったのだから」と主張し、議員辞職や離党について「同志、党のみなさんにも、そのことは十分理解していただけると信じている」と拒否した。その上で、「法廷で自分の身の潔白を決めてもらいたい」としている。この姿勢は批判されるようなものなのだろうか。
情報番組のコメンテーターとしても活躍するタレントの松尾貴史氏はこう言う。
「起訴された事実を軽んじることはできませんが、この段階で辞職や離党をする必要はないと思います。小沢氏は裁判で闘うわけですから、判決を待ってからで十分でしょう。それまでは推定無罪です。また、議決を出した平均年齢30・9歳の審査員は、どういう人たちなのでしょう。『参加する』と表明する人が優先されるそうですし、時間のある若者が多く、多忙な年配者の辞退も多いはず。
もしそうなら、その偏りからして『市民の代表』と言えるのでしょうか。議決が出されたのは民主党の代表選当日。メディアが競うように世論調査を実施し、あちこちで『小沢ノー』の結果が報じられていたころに重なっているのも気になります」

これが冷静で常識的な見方である。大手メディアが作り出している「小沢=悪人」の虚像に惑わされなければ、こんな理性的な判断ができるのだ。─民主主義の根幹である選挙を否定する議員辞職

◆検審による起訴は「有罪率99%超」の起訴と同じではない

確かに強制起訴となれば、小沢は刑事被告人となる。これまでの国会議員は、そのタイミングに合わせて、離党したり辞職したりすることでケジメをつけてきた。
しかし、今回は政治家が検察審査会によって強制起訴される初めてのケースである。捜査のプロである検察が証拠に基づいて行った起訴と、くじ引きで選ばれたシロウトの集まりである検察審査会が感覚的に行った起訴が、イコールであるはずがない。起訴されたからといって、すぐに政治活動が制限されるのはおかしい。

名城大教授で弁護士の郷原信郎氏は、こう言っている。
「検察の起訴と検審の起訴強制では、“社会的効果”が違います。検察の場合、有罪率99%超のため、社会的には、起訴された時点で有罪のように受け止められます。しかし、検審の起訴は、国家の訴追機関たる検察の処分は不起訴で確定しているわけで、有罪率が著しく低くなります。起訴=有罪のように扱うのは疑問です」
小沢には、身を引かなければならない理由などないということだ。だから、小沢の判断は支持されるのだ。
それでも、メディアや野党は「小沢辞めろ」の大合唱を続けている。自民党の谷垣総裁は「議員辞職すべき」と迫った。憎き民主党叩きのネタにしたいのだろうが、民主主義を守るためにも、小沢は踏ん張らないとダメだ。

ジャーナリストの上杉隆氏が言う。

「小沢氏は、昨年の衆院選で13万3978票を獲得しています。それなのに、司法が選んだ匿名の11人の判断によって辞職に追い込まれるとすれば、議会制民主主義の根幹である選挙が否定されることになります。わずか11人の判断が、十数万人の有権者の民意を上回るはずがありません。小沢氏に議員辞職を迫る勢力は、民主主義をないがしろにしているわけです。小沢氏は幹事長時代に起訴された石川知裕衆院議員の離党を許しています。そのルールにのっとれば離党すべきだと考えますが、辞職の必要はありません。小沢氏を辞職させたい人たちは、小沢氏の政治生命を絶つことで自分たちの利権を守ろうとしているだけです」
そもそも、問題にされている陸山会の政治資金規正法違反容疑は、04年の土地取得を翌05年の報告書に記載したという程度のもの。しかも、小沢が共犯だという明確な証拠はない。
それでも、「国民は裁判によって無罪なのか有罪なのかを判断してもらう権利がある」というトンチンカンな理由で起訴されるのだ。

「特捜部は、がんがん無理な捜査をやり、さすがにもうそれ以上は進めないというところまで行って力尽きた。その程度の“疑惑”が、“市民感覚”を追い風にした検察審査会によって蒸し返されようとしている。これは“検察の不起訴処分の不当性”を審査するために設けられた検審の本来の趣旨に反する“暴走行為”です」(郷原信郎氏=前出)
検審の議決は「公正な刑事裁判の法廷で黒白つけようとする制度」なんて極めてユニークな解釈もしている。こんなヘンチクリンな議決内容も、小沢の主張の正当性を浮き彫りにするから皮肉だ。


◆離党勧告や除名処分はそぐわない

民主党は12日の党役員会で、小沢の処遇について議論するという。だが、ありもしない疑惑で、小沢に離党勧告や除名といった処分を下せば、物笑いのタネになるだけだ。民主党もジタバタしない方がいい。

政治評論家の小林吉弥氏が言う。
「審査の過程が不透明なのに結論だけを示され、それを疑いもなく“市民感覚”と受け止めることに違和感を覚える人は少なくないと思います。辞職も離党もしない小沢氏の判断はムリもありません。党の処分もそぐわない。小沢氏は、国会の決定にいつでも従う、と言っています。まずは衆院政治倫理審査会で話を聞くのが筋でしょう」
朝日新聞は9月12日の天声人語で、〈きのう公開された映画「悪人」を見て、人を善悪で二分する愚かしさを思った。私たちは善にもなれば悪にもなる〉と訳知りふうに書いていた。それでも小沢だけは「絶対的な悪人」と決めつけ、〈有罪が確定しない限り、「推定無罪」の原則が働く。しかし、そのことと、政治的な責任とはまったく別問題である〉(10月5日社説)と辞職を求めるのだ。ここまでえげつないと、いったい、本当の悪人はだれなのか、という気にさせられる。

小沢は口べたで、あれこれと説明したがらない。それが周囲に誤解を与えることもあるだろうが、正々堂々と裁判で無実を勝ち取ろうとしている姿は、少なくとも悪人のそれではないだろう。