菅と仙谷「小沢は死んだ」 憎悪と恐怖でぶち切れた


暗闘・陰謀・保身・流血 9・14民主代表選のウラ

(週刊現代 永田町ディープスロート 2010年08月30日) http://bit.ly/9E9EmE


■小沢の「大どんでん返し」に怯える菅直人

 

昨年、衆院選で圧勝して政権交代を果たした民主党が新政権を樹立した日(9月16日)から、およそ1年。日本の政界は、再び大きなターニングポイントを迎えることになる。

「この戦いで負けたほうは、政治生命を確実に失うことになるだろう。それが菅直人か、小沢一郎か、仙谷由人か。それはまだ分からない」(民主党長老議員)

 8月19日に軽井沢で行われた鳩山由紀夫前首相グループの研修会。ここに、小沢一郎前幹事長が参加するとの情報が流れた時、永田町は震撼した。

 鳩山・小沢両グループの「反菅・決起集会」と目されたこの会に、小沢氏本人が参加することは、特別な意味を持つ。それは9月14日の代表選に向け、小沢氏が「重大決意」をした可能性を示唆しているからだ。

 一方の菅直人首相は、その直前まで同じ軽井沢で静養し、英気を養った。休暇明け、会見に臨んだ首相は「お久しぶりでーす」などと記者団に話しかけ、妙に上機嫌。

「休暇中に日本の政党政治の歴史をあらためて学んだ。過去には政党同士がスキャンダル暴露合戦で足を引っ張り合い、結果として軍部が台頭、戦争に至った。われわれもこの歴史を考えなければならない」

 などと語り、与野党の協力と、政権の安定化を政界関係者に促した。

 首相が表面的に生気を取り戻したのは、下落を続けてきた支持率が、このところ下げ止まっているからだという(参院選直後の38%から、8月は44%に上昇=読売新聞調べなど)。

 さらに、その結果、党内では「やはり首相をコロコロ替えないほうがいい」という意見も増えた。民主党の石井一副代表は、本誌の取材に対しこう語る。

「現在の党内に、頭(代表)を替えようと考えている者は、それほどいないはず。先の両院議員総会で菅代表が選ばれたことには、民主党全体の責任がある。選挙に負けたからと言って代表をやたらと替えるのでは自民党と同じで、政権運営能力が問われてしまう」

 菅首相は周囲に、

「やるべきことをやっていれば、支持率はきちんと得られるじゃないか」

 そう漏らし、余裕の表情を見せた。


■「小沢にカネは渡さない」


 だが、果たしてそうなのか。首相の周辺からは、小沢前幹事長に対して、どこかヒステリックな批判が飛び出しているのだ。

「8月10日に菅首相が発表した日韓併合100周年に関する談話のことで、官邸は与野党の有力政治家や首相経験者に意見と理解を求めようと電話をかけまくりました。ところがただ一人、小沢氏だけが無視した。官邸幹部の一人は、『小沢は国家のために働く気がない』『過大評価されている政治家に過ぎない』『総理になんてなれるわけがない』と、激しく罵っていましたね」(全国紙政治部デスク)

首相の側近たちが抱く、小沢氏への憎悪。それは、言ってみれば恐怖の裏返しだ。数々の疑惑を抱え、何度も失脚のピンチに陥りながら、その剛腕と奇術師的な政界工作の手腕で、20年以上にわたって永田町に君臨してきた小沢一郎―。

 その小沢氏が復権すれば、この2ヵ月余り、菅政権は「小沢なるもの」を徹底排除して政権運営をしてきただけに、ただでは済まない。冒頭で長老議員が言うように、敗れれば「死ぬ」。その潜在的恐怖が、必要以上に菅首相周辺をナーバスにさせている。

 そして首相自身も、ついに「キレた」。これまで菅首相は、小沢氏に「連絡を取りたい」と言って、懐柔工作も続けていたが、それをかなぐり捨てた。

「政党の資金を握って、党内に派閥を作るような行為は許されない」

 党のカネを使って徒党を組む・・・それは、小沢氏の得意手法。首相はそれを糾弾することで、小沢氏に対して事実上の絶縁宣言を行ったのである。

 だが、果たして菅首相は、この強気な態度をどこまで貫けるのか。首相の強気は、もはや「敵」だと断じられた人々、つまり小沢グループ議員らからの、激しい反発を巻き起こした。民主党は、いよいよ分裂の兆しが高まってきたのだ。

 小沢グループの中堅議員の一人はこうぶちまける。

「やつらは連合赤軍か。連合赤軍は仲間を集めておきながら、どんどん粛清していって、最後は誰もいなくなった。今の民主党執行部は、それと同じ。いくら菅が余裕ぶって見せても、必ず大どんでん返しがある」


■「小沢に天命が降った」


 菅首相がもっとも怖れているシナリオ、言うまでもなくそれは、小沢氏自身が満を持して代表選に出馬してくることだ。

 小沢氏に近い衆院議員のグループ「一新会」に所属する石関貴史代議士は、こう語る。

「一新会の中核議員の中では、『小沢氏本人に出馬してほしい』という声が圧倒的に多い。いまは期待感が醸成されている段階ですが、ご本人が出ると決めれば、話はまとまります。戦後政治を自ら総決算するという意味でも、ぜひ小沢氏自身が出馬して、決着をつけていただきたいと思います」

 小沢氏の側近と言われる平野貞夫元参院議員によれば、小沢氏本人は、「環境がなあ」と話しているという。つまり、小沢氏にとっての「環境」さえ整えば、代表選に出馬する可能性はある、と平野氏は語った。

「岡田克也外相が、『検察審査会の結論が出るまで、代表選に出るべきではない』と公言しましたが、とんでもない話です。憲法上は最高裁で判決が出るまで、たとえ起訴されても推定無罪に過ぎない。本当に東大法学部を出た人間の言葉かと耳を疑いましたよ。

 こんなことが罷り通る菅内閣が続いたら、日本はひっくり返る。私はいよいよ、『代表選に出るべし』という天命が、小沢氏に降ったのだと思っています。『環境が』と言っている小沢氏が、出ざるを得ない環境が整いつつあると思っています」(平野氏)

 17日には、同じく小沢氏側近の山岡賢次副代表が、鳩山由紀夫前首相のグループと合同で開催した「勉強会」において、「強い指導力を発揮できる候補=小沢氏」の擁立に向け、連携を確認しあった。世論とは別に、民主党内での「環境」は、着実に整いつつある。

もしも小沢氏が、自身の体調や検察審査会の問題を押して、代表選出馬を決断したら、菅首相にとっては最悪だ。小沢グループは、ただでさえ数の上で党内の圧倒的多数を占め、いまや鳩山グループとも連携を深めている。小沢氏出馬で両グループがまとまれば、少数派に担がれている菅首相に、勝ち目はまったくない。

 しかも、菅政権発足以来、「脱小沢」の掛け声のもと、煮え湯を飲まされてきた小沢グループは、たとえ小沢氏の出馬が幻と終わっても、主導権を奪回するための「二段構え」で決戦に挑もうとしているという。

 別の小沢氏側近議員の一人が、こう明かす。

「菅や仙谷は、小沢さん以外の候補なら反対勢力がまとまらず、結果的に勝てると思っているのだろうが、大間違いだ。代表選には、最低2名以上の対抗馬を出して票を割り、菅に過半数を取らせない。過半数を取れないような代表は一気に信任を失う。

 決選投票になったら『反菅』勢力が"薩長同盟"を組み、菅を倒す。そのまとめ役になるのが小沢さんということだ。まあ小沢さんは龍馬というより、西郷という感じだが」

 実は小沢氏は、さらに「三段目」の備えも用意している兆候もあるが、これについては後述する。

 いずれにせよ、今回の代表選は、民主党史上、最大の決戦になることは間違いない。敗れ去った者は、政権の中枢から退場を余儀なくされる。そして、その夥しい流血の中から、民主党の新しい形が浮かび上がってくるのだ。


■カギを握る鳩山由紀夫がオフレコで話した「代表選の行方」


 鳩山由紀夫と小沢一郎。二人はともに金銭スキャンダルを抱え、6月に「抱き合い心中」で辞任したはずだった。ところがここに来て、両者は和解を果たし、代表選に向け協調を確認。菅首相にとっては脅威となっている。

 そのキーマン・鳩山前首相が、8月4日に東京・赤坂の韓国料理店で、首相時代の番記者たちと懇親会を行った。会場となった店の名前は「おんがね」。この夜、鳩山氏は記者団に、「店の名前を見ればわかるよね。"オン(の取材)が無え"だから」などと軽口を叩き、上機嫌だったという。

「オンレコ禁止、すべて完全オフレコで」という鳩山氏の意向をあえて無視すると、この日、鳩山氏は興味深い発言を連発した。

 たとえば、菅首相について。「自分と菅さんとの関係は、並の関係じゃないんだよ。菅さんがいなければ、民主党は政権交代を果たせなかった」と持ち上げつつ、こうも語っている。

「菅さん支持は、あくまで"現時点"でのこと。鳩山政権で果たせなかった『新しい公共』や『地域主権』『東アジア共同体』は進めてほしい。財源がないから、と言われて終わりでは、ちょっと立つ瀬がないよね」

 その育ちや風貌と違い、意外としたたかなことで知られる鳩山氏だ。菅首相に対し、支持を明確にする場合の「交換条件」を、巧妙にほのめかしたように見えなくもない。

さらに鳩山氏は、若い記者の「小沢のどこが凄いのかわからない」というフリを受け、「それはマスコミが作った虚像というものじゃないの」と、あっさり答えている。そして、「彼はいい男なんですよ」などと、妙に上から目線の話をした後、「いまから呼んでみよっか」と言って、携帯電話を取り出す素振りを見せた。小沢氏が知ったら、苦笑するほかないシーンだ。

 問題は次のやり取り。小沢氏本人が代表選に出馬し、総理を目指す可能性について、こう話している。

「(総理の椅子は)望んでいないよ。体調のこと(小沢氏は心臓に持病を抱えている)もあるし。前提として総理はムリと考えているようだ。国会答弁などで拘束されるのも嫌がる人だしね。それより、自分で動けるポジションにいればいいと思っている」

 こうした発言からは、鳩山氏が「小沢氏は代表選に出ない」前提で、菅支持を打ち出していることが分かる。小沢氏本人が出馬する場合、本人も「現時点では」と但し書きをつけていたように、あっさり菅首相を見限り、小沢氏支持を打ち出すつもりかもしれない。

 実際、鳩山氏は菅首相に、それなりの鬱憤を抱えている様子も垣間見える。

「(小沢氏と7月末に会った際)、『参院選で44議席しか取れないなら、自分たちが辞める必要はなかったよなあ』という話をした。小沢さんが(幹事長で)いたら、もっと取れたはずなのに、とボクも思う」

「消費税は、菅さんが前から、『政治とカネの問題や普天間問題を消すには、もっと大きなテーマが必要だ』と言っていた。小沢さんは『与党が消費税を持ち出したら選挙の争点になるからダメ』と危惧していて、自分もそう伝えたのに、菅さんは言っちゃった」

 何しろ鳩山氏は、「宇宙人」だ。もともと、「次の選挙は出ない」「政界を引退する」と言っていたのに、こうして記者を集めて政局の綾を語っていること自体、常識的地球人の感覚からは遊離している。

 菅首相は鳩山氏の「外交をしたい」という望み通り、特命全権大使的なポジションを与え、8月16日から18日まで、中国に送り出した。9月には、首相名代としてロシアの国際会議にも出席する予定だ。

 だがそうした「懐柔工作」も、宇宙人の前には何の意味もなさないのではないか。鳩山氏自身、この日の懇談でこんなことを話している。

「(夫人の)幸は占い師から『五次元の人間だ』と言われているが、ボクは『六次元の人間』なんだよ。次元が違うのだから、やっぱり総理に向いていなかった」

 われわれ日本国民は、大変な人物を総理に戴いていたらしい・・・。

 7月末に鳩山氏と小沢氏は会食。「反菅」で盛り上がった


■天敵・仙谷が「小沢を検察に売り飛ばす」


 菅政権から疎外されている小沢グループ、鳩山グループの議員らから、目の敵にされているのが、仙谷官房長官だ。ベテラン代議士の一人は、こう話す。

「参院選惨敗以来、思考停止に陥った菅首相の代わりに、政府を仕切ってきたのが仙谷氏。内閣が表面上、菅支持でまとまっているのも、仙谷氏が前原誠司国交相や岡田克也外相、野田佳彦財務相を押さえているから。菅政権は、実質的に『仙谷政権』になっている」

 仙谷氏の本願は、民主党から「小沢なるもの」を根絶やしにすること。仙谷氏は以前から周囲にこう語っていた。

「今の時代に、いわゆる小沢流の選挙、旧自民党的なバラマキ型選挙は通用しない。そんなものを続ければ民主党は破綻する」

 そこで、小沢一派の天敵・仙谷氏が小沢潰しとして画策しているのが、「検察に小沢氏を売り飛ばすこと」だという。

「小沢氏の疑惑を審査している東京第五検察審査会が、強制起訴に繋がる『起訴議決』を出す公算が大きいという情報をしきりにリークしているのは、自らが弁護士で、法曹界に太いパイプを持つ仙谷氏です。担当の弁護士や審査員が交代した検審が、次の決議を出すのは10月以降。

 『起訴議決が出る可能性が高い小沢が、代表選になんて出られるわけがない』という世論を醸成し、小沢氏を担ごうとする議員と検審メンバーの双方に圧力をかけている」
(全国紙司法担当記者)

 自らの側近から、「あれほど頭がいい政治家は見たことがない」とまで絶賛される軍師・仙谷氏。対小沢牽制工作は他にもある。

 8月10日、菅首相は日韓併合100周年に当たり、談話を発表。韓国に対して「痛切な反省と心からのお詫び」を表明した。

 この談話には、「韓国への補償を『解決済み』としてきたこれまでの日本政府の見解を、覆す暴挙」などという批判の声も上がったが、それとは別に、この談話には菅首相と、そして仙谷氏のある意図が秘められているという。

 外務省幹部がこう話す。

「談話は韓国に対してのみのもので、北朝鮮にはまったく触れていません。本来、日韓併合は"朝鮮半島"の問題であって、韓国だけに絞るのはおかしい。この問題は、首相にも官房長官にも何度も指摘したが、聞き入れられませんでした。これは、鳩山内閣時に北朝鮮との交渉を独自のルートで進めてきた、小沢さんへの当てつけです。

 『北朝鮮との交渉は、どうぞお好きにやってください。でも政府は一切、それに関知しません。北朝鮮との交渉で問題が生じたら、小沢さんの責任ですよ』という通告です」

 とにかく、「小沢色」「小沢なるもの」は排除。仙谷氏のこの方針は、徹底しているのだ。小沢グループからは、「菅首相が政権を維持したければ、大幅な人事刷新、すなわち仙谷氏の更迭をせよ」という声が広がりつつある。

 しかし、仙谷氏は記者団にこう言い放ち、逆に小沢グループを挑発した。

「代表選には、小沢さんご自身が出馬されればいいんじゃないですか。それが一番、争点がはっきりする」

 今度の代表選は、小沢か、そうでない者かを選ぶ戦い。官房長官の「宣戦布告」により、民主党内を二分する抗争は、ますます激化の一途を辿ってゆくのだ。


■そして最後に勝つのは・・・


「小沢さんが票をまとめ切れなければ、6月の両院総会と同じ結果だ(菅首相が勝つ)」(枝野幸男幹事長)

 体制維持に向け、強気な姿勢を崩さない、菅政権の幹部たち。一方、

「小沢氏が出れば絶対に勝つ。他の候補になっても、決選投票で菅を倒す」

 と息巻く、小沢グループを中心とした「反菅」勢力。いったいどちらが勝者となるのか、予断を許さない。

 ただ前項で述べたように、今回の代表選で敗れれば、政治生命の終焉に繋がる小沢氏は、「三段構え」で最後の戦いに臨みつつある。

7月の参院選後、公の場からほとんど姿を消し、「潜った」とされる小沢氏は、実際には水面下で忙しく動き回っていた。

 8月16日。京都では夏の風物詩の「五山送り火」(大文字焼き)が夜空を赤く染めたが、その直前、小沢氏は京都入りしていた。

「引退した側近・高嶋良充前参院議員の慰労会の名目で14日に京都入りしました。その際、前の党財務委員長の佐藤泰介氏(前参院議員)と、"金庫番"と呼ばれている党職員を同行させたことが憶測を呼び、菅首相や枝野幹事長ら現執行部は、神経を尖らせています」
(全国紙政治部記者)

 小沢氏は、関西創価学会の西口良三元総関西長とも太いパイプがあるとされ、西口氏との密会も取り沙汰されたようだ。

 そして、同様に政界関係者の密かな注目を浴びたのが、8月6日に都内のホテルで行われた、あるCS放送局のパーティだった。

 この日、ホテルではCS「囲碁将棋チャンネル」の設立20周年記念パーティが行われた。そこに小沢氏が姿を現していたのだ。

「注目すべきは、会の参加者の中に、囲碁仲間の与謝野馨元財務相や、福田康夫元首相ら、自民党、元自民党の重鎮がいたことです。福田元首相と言えば、失敗に終わった'07年の『大連立構想』のカウンターパートナー。彼らは会の最中、ずっと小沢氏と、何やらヒソヒソと囁き合っていました」(参加者の一人)

 さらにこの会に先立ち、小沢氏は自民党元幹部の一人に面会し、「ある件」についてのレクチャーを求めていたという。

「小沢氏が求めたのは、自自公連立政権が発足した時の、自民党サイドの党内手続きと、各議員の行動です。小沢さんは数時間に亘って、この幹部に聞き取りを行いました」
(小沢氏周辺)

 小沢氏が自自公連立の成立過程を研究する理由―。その背後にある狙いに、もはや疑いの余地はない。小沢氏は再び、政界再編に向けて動き出している。

「今度の代表選で自分が勝てば、仙谷氏ら反抗勢力を民主党から弾き出して、政界再編。負けた場合は、自分が党を割って飛び出し、自民党や公明党の一部と連携して、やはり政界再編。

 小沢氏にとっては、生涯最後の大勝負だ。かつて新進党時代、側近らが小沢氏の前に議員バッヂを並べて涙ながらに党首選出馬を要請、ついに小沢氏が腰を上げる・・・という"儀式"があった。今回もあの時と同じ様相を呈してきている」(同)

 9月14日以降、政界は、史上最大の政変劇へと突入していく。