9月14日代表選 民主党代表はこの国の首相 脱小沢大連立となれば最悪

(日刊ゲンダイ2010/8/11)

民主党マニフェストの小泉自民党政権の根本的転換をやるのか、やらないのか

菅代表は果たして適任なのか、どうなのか


確たる思想も理念も見えず「最小不幸社会」などとお題目を唱えている小市民主義。その時の政局次第でフラフラと場当たり的に立場を変える日和見主義この先、日本はどう進めばいいのか。どこを目指せばいいのか。

政治もメディアも答えを出せないままだ。

菅首相が何をやりたいのかさっぱり見えないのも、何をすればいいのか分からなくなっているからだろう。
慶大教授の金子勝氏(財政学)が、「世界」9月号で、民主党政権は何をすべきか、分かりやすく説いている。菅首相は、この論文を熟読した方がいい。

「民主党は、闘わなければいけない」と題された論文の趣旨は、ザックリ言えば、「民主党は小泉構造改革を否定したうえで、09年衆院選で掲げたマニフェストを貫け」というものだ。

金子氏は、自民党の安倍、福田、麻生の3つの内閣が短命に終わった理由を、〈小泉政権を引き継いだ首相たちは、いずれも「構造改革」路線を継承しながら、「構造改革」がもたらした社会的歪みを解決するという、矛盾した政策の実行を余儀なくされた〉からだと喝破。小泉改革を引きずったままでは、政権独自の大胆な政策は打ち出せないというのだ。
そのうえで〈民主党は「国民生活が第一」というスローガンに象徴されるように、「構造改革」路線が生み落とした格差や貧困には批判的であるが、「構造改革」路線に対してきちんと正面から批判していない〉と中途半端ぶりを指摘し、〈そこにこそ民主党がなかなか独自の国家戦略を描けない原因が潜んでいるのである〉と結論付けている。

◇「国民生活が第一」の原点に返れ!


実際、民主党がもう一度、国民の支持を取り戻すためには、09年マニフェストの原点に返るしかない。
国民が昨年夏、総選挙で一票を行使し、民主党に政権を与えたのも、「国民生活が第一」という、自民党とは正反対のマニフェストに期待したからだ。
「国民が総選挙で民主党を支持したのは、『国民生活が第一』『コンクリートから人へ』といった理念と、子ども手当、高校無償化、高速道路無料化……などの具体策に賛同したからです。民主党なら、60年間つづいた自民党政治がもたらした閉塞した日本社会をチェンジしてくれると期待した。小泉改革によって生活をガタガタにされた後だったから、『国民生活が第一』の理念が心に響いたこともあったでしょう。民主党が7月11日の参院選で敗北し、いまだに支持率が戻らないのは、民主党らしさを失ったと思われているからです。民主党は、あの時のマニフェストに立ち返るべきです」(政治評論家・本澤二郎氏)
民主党のマニフェストに対しては批判もあるが、考え方は決して間違っていない。子育てを社会全体で支えるという「子ども手当」の発想は少子化を食い止める最後の手段。高速道路の無料化は経済の起爆剤になるし、外国では当たり前のことだ。
行き詰まった日本社会を打開するためには、マニフェストは有効な突破口だったのだ。


◇かつての同志が「信用できない人」と論評

ところが、肝心の菅首相が、民主党の原点を忘れているのだから、どうしようもない。
マニフェストで「次の総選挙まで消費税を上げない」と公約していたのに、財務官僚の口車に乗せられて、参院選の直前に「消費税10%」をブチ上げたばかりか、進めるべき子ども手当や高速無料化はどんどん縮小の方向に切り替えている。「最小不幸社会」のお題目は掲げたものの、小泉デタラメ改革の歪みを埋める作業を進める気があるのかないのか不明だから、参院選でお灸を据えられたのである。
9月14日に行われる民主党の代表選では、菅首相の再選が濃厚だが、この男で本当にいいのか、どうか。
驚いたのは、菅直人が総理に就任した時、以前一緒に市民運動をしていた紀平悌子さんが、テレビで「信用できない人」と言っていたことだ。就任時に、かつての同志から人間性を疑われるなんてよほどのことだ。
また、市民運動を通じて10年以上の付き合いがある市民バンク代表の片岡勝氏は「昔から話していてもおもしろくない男です」と評している。まさにボロクソだ。
菅首相は伸子夫人にまで、思想も信念もない男だと思われている。夫人は著書で〈(夫は)「現実主義」とか「その場対応」とか、「バックボーンに思想がない」と、批判されますが、私は政治というのは「その場対応」でどうにかやっていくしかないと思っています〉と釈明しているのだ。
つまるところ、確たる思想や理念はなく、中途半端な権力欲、上昇志向の小市民主義者であり、場当たり的に立ち位置を変える日和見主義者にすぎないわけだ。

◇鳩山・小沢時代の「理想政治」は消えた

民主党議員は、総理がコロコロ代わるのは良くない、という理由だけで再選させようとしているが、このまま菅首相がつづいたら、民主党のマニフェストは、どこまでも骨抜きになるだけだ。
すでに鳩山・小沢時代に目指した政治主導は姿を消している。予算編成も財務官僚に丸投げ。シーリングは一律10%カットという、自民党時代とまったく同じスタイルで進められてしまった。
「菅首相に対する最大の懸念は、あれもできない、これも難しいと、いわゆる『現実の壁』にことごとく負けていることです。リアリストといえば聞こえがいいが、理想を捨てるのでは、自民党政権と同じです。国民は、自民党にはできないことを民主党に期待したのに、これでは民主党が政権を担っている意味がない。最悪なのは、理念よりも現実対応を重視する菅首相は、いずれ自民党と大連立を組みかねないことです。消費税10%発言も、自民党が10%だからという理由でした。大連立なんてことになったら、日本の政治から理念や理想というものが本当に消えてしまいます」(法大教授・五十嵐仁氏=政治学)
永田町では、小沢抜きの民主党と自民党の旧宏池会が組むという話が盛んに流れている。そればかりか、みんなの党を間に置いて、自民党の小泉残党たちと市場原理主義大連合をするという構想もまじめに語られている。消費税を出したり引っ込めたり、政局次第でフラフラの菅首相だから、最悪の道を選ぶ危険性は十分とみられている証拠だ。

かつての同志や夫人から「信用できない人」「その場対応」と評される総理大臣を持つほど、国民の不幸はない。少なくとも、自民党政治打破の理念だけは持っている民主党議員は、本当に菅直人が一国のトップに適任なのかどうか、よく考えた方がいい。