「菅降ろし」を仕掛ける小沢氏の「2枚の駒」
(フォーサイト2010年7月20日) http://bit.ly/9I5seV
参院選の惨敗で、民主党は政局に突入した。照準は9月5日に行なわれる見通しの党代表選。主役は、やはり小沢一郎前幹事長(68)だ。菅直人首相(63)から「しばらく静かに」と言い放たれ、しばし冷や飯を食ってきた小沢氏だが、代表選を機に完全復権を目指す。
周辺には小沢氏自身の代表選出馬待望論もあるが、その可能性は低い。資金管理団体「陸山会」による土地購入をめぐる2004、05年分の政治資金規正法違反事件で、検察審査会の2度目の議決が月内にも下されるからだ。起訴議決が出れば自動的に強制起訴される。別の審査会が審査していた07年分については7月15日、「不起訴不当」の議決が下された。今後、小沢氏をめぐる「政治とカネ」報道は再び高まりをみせるのは間違いない。その中で出馬するのは、いかに剛腕でも難しい。今回、小沢氏は子飼いの候補を立てて、菅降ろしを目指すことになる。では誰に、白羽の矢が立つか。候補は原口一博総務相(51)と海江田万里衆院議員(61)だ。
「ラグビーボール」と「元首相候補」
原口氏は党内で「ラグビーボール」と呼ばれる。その時の空気で言動をひるがえすのが、どちらに転がるか分からないラグビーボールに似ているという意味だ。その一方で、地方分権、通信行政などに関しては一家言持つ政策通でもある。
海江田氏はテレビ・コメンテーターとして活躍した後、政界入り。税金党を振り出しに、日本新党などを経て民主党に合流した。1996年1月には第3極「市民リーグ」の代表委員として首相指名選挙に臨み、衆院本会議で5票獲得している。つまり14年前に「首相候補」を経験している。
2人には共通点がある。1つ目は「焦りと上昇志向」。党内の次代のホープは岡田克也外相(57)、野田佳彦財務相(53)、枝野幸男党幹事長(46)ら7奉行ということで衆目が一致している。原口、海江田の両氏は、その次の8番目グループに位置する。7奉行に実力では負けないと自負するが、今のままでは出番はない。それを自覚した2人は「8番目」から一気に浮上する時を狙っている。
2人は、小沢氏と近い点も共通する。原口氏は、細野豪志幹事長代理(38)、松本剛明衆院議運委員長(51)とともに「(小沢氏への)ごますり3人衆」と揶揄されてきた。6月以降は、ラグビーボールぶりを発揮して菅氏を支援してきたが、参院選敗北後は、菅氏の財政政策に批判的な言動を始め、小沢氏との修復に余念がない。
海江田氏は党内では鳩山由紀夫前首相(63)の側近として知られてきたが、昨年、党選挙対策委員長代理に起用されてからは小沢氏の薫陶を受け、鳩山氏と小沢氏の連絡役も務めるようになった。
党員・サポーター票の行方
小沢氏は「150人近い国会議員を動かす」とされるが、若手が多く、首相候補は少ない。2人の存在は小沢氏にとっても有力な手駒だ。老練な小沢氏は、2人の「焦りと上昇志向」を利用して、どちらかを「小沢系首相」に仕立てようとしている。
実は、6月の代表選でも2人の名が浮上したことがある。だが、この時には見送った。菅氏が当選確実だったことや、当選しても任期は9月までしかないことなどを考慮し、時期尚早と判断したのだ。逆に言えば2人は6月以降、9月に向けてツメを研いできた。
原口氏は公務のかたわら参院選の応援で積極的にマイクを握った。代表選は、国会議員だけでなく、党員・サポーターも参加できる。彼らが大量動員される参院選での街頭演説は、代表選に向けた格好の運動でもあった。
一方、海江田氏は、自身のグループの立ち上げに向かって動き出しているとされる。メンバー、規模はまだ見えないが、既に鳩山由紀夫前首相のお墨付きも得ているという。鳩山、小沢両氏が「反菅勢力」を結集する展開を海江田氏はイメージしているようだ。海江田氏は東京出身で市民派を自任する点で、菅氏と似ている。だが2人の関係は近親憎悪と言っていいほど悪い。菅政権の誕生時、海江田氏は菅氏から財務副大臣就任を打診されたが即座に蹴った。海江田氏が代表選を強く意識するのは、菅氏への対抗心もあるのだろう。
今回の代表選は原口、海江田の両氏のどちらかと菅氏による事実上の一騎打ちの構図になるだろう。もし菅氏が負ければ、自動的に首相辞任に追い込まれる。党首選で現職首相が敗れるのは、日本では1978年、自民党総裁予備選で福田赳夫総裁(首相)が大平正芳氏に敗れた時以来、32年ぶりとなる。
民主党代表選での菅氏の戦績は3勝4敗。党内基盤は弱い。32年ぶりの波乱が起きない保証は、どこにもない。