さっぱり分からぬ管政権のやりたいこと   (日刊ゲンダイ2010/7/20)

疑わしい管首相の政治能力

---大蔵官僚に簡単に取り込まれ民主党政権を限りなく旧自民党化させられている彼の言動に内外から厳しい声---

---「日本の洗濯」より「自分の洗濯」が先だと中曽根元首相におちょくられた保守なのか改革派なのか正体不明の市民運動出身首相に果たして資質があるのかないのか---

参院選の終了と同時に菅首相は勝手に夏休みに入ってしまったようだ。選挙大敗の脱力感で、何もしたくないのは分からないではない。取り巻く政治環境も八方ふさがりだ。しかし、首相がふさぎ込んで、引きこもりでは話にならない。クソ暑い中、それでもヒーヒー言って働いている庶民からすればフザケルナだ。
「公務の少なさは記者会見でも話題になった。仙谷官房長長官は“じっくり考えるのも総理の仕事だ”と釈明していました。ヒマであることを認めています」(官邸関係者)
仕方なくか、18日は岐阜の豪雨被災地を視察していた。参院選後、首相がニュースになったのはこの程度である。民主党ウオッチャーである評論家の塩田潮氏は週刊誌で「参院選で示されたねじれ選択、菅体制ノー、首相交代不要というまだら模様の民意をどう読めばいいのか、判断できずにいる」と語っている。世間が自分をどう思っているのか分からないから、沈黙して動かない。だとしたらオソマツすぎる。


◇「自民党内閣と一緒」と前副長官
しかし、よくよく考えてみると、参院選後の1週間で菅直人という政治家の正体が見えたといえる。問題は、「今やることがない」ではなくて、「やりたいことがない」のではないのか。政治評論家の浅川博忠氏がこう語る。
「参院選で菅首相は消費税増税を打ち出した。強い財政、強い経済、強い社会福祉を訴えた。それが温め続けてきた国家ビジョンであるなら、選挙で負けたって簡単に引っ込めるのはおかしい。ていねいに国民に説明し、修正を提案し、理解を求める努力をすべきです。ところが選挙に負けると、あっさり消費税論議を来年度以降に先送りし、“強い経済”もどこかへ行ってしまった。何のために、あえて参院選の目玉にしたのでしょう。初志貫徹がまったく見えない。小沢前幹事長に対する姿勢も同じです。“国のため、党のため、しばらく静かに”と突き放しておきながら、1カ月で手のひらを返して、“お会いしたい”“相談したい”と助けを求めたから驚きです。言動すべてが行き当たりばったりで、一貫性と戦略がないのです」 最近は“空き菅”とバカにされている菅首相だが、そう言われても仕方ない。中身のない政治家は、官僚が一番操りやすい。消費税増税で財務官僚に取り込まれた菅首相は、国家戦略室の設立もあきらめてしまった。官僚に丸投げだった予算編成を政治主導に変える司令塔が国家戦略室。これは民主党結党以来の理念であり、マニフェストの柱でもあったのだが、簡単に旗を降ろしてしまった。財務官僚たちは大喜びだろう。
鳩山内閣で戦略室立ち上げに苦労した松井孝治・前官房副長官は官邸に抗議し、こう嘆いた。
「財務省主導でない官邸主導での予算編成。これが国家戦略局構想の肝の中の肝。首相、官房長官、財務相、政調会長で予算を編成するなら、自民党内閣と一緒だ」
首相にやりたいことがなく、政策や政治スタイルが旧自民党時代にどんどん逆戻りでは、民主党政権を続けさせる意味がない。


◇昔から「状況論者で原則論に欠けている」の指摘
それでいて、菅首相は政権しがみつきの権力欲だけは人並み以上である。参院選大敗の責任をだれもとらないばかりか、落選した千葉景子法相を1カ月以上も留任させる禁じ手も使ってきた。すべて9月の代表選をにらんでのことだ。敵をつくらず、代表選後の内閣改造・党人事をエサにして、批判票を封じる魂胆だから潔くない。
「小沢氏に急に接近したのも、代表選の協力要請が目的です。条件があるのなら出してくれと、メディアを通してメッセージを送っているわけです。でも、やりたいことがない人が、続投を画策するのは本末転倒でしょう。菅首相という人は、野党の代表時代のように攻める側にいると強いが、一転、守りに回ると何の策もない。反転攻勢ができない。保身だけのつまらない人間だったということです」(浅川博忠氏=前出)
評論家の佐高信氏は、10年以上前から、菅首相を「状況論者で、原則論が欠けている」とバッサリ切ってきた。それが当たっていたのだ。実際、「私は庶民出身、サラリーマンの息子」「ミニ政党からの出発」とか言いながら、総理になったとたんに保身だけに汲々(きゆうきゆう)としている姿を見せられるとガッカリだ。市民運動育ちの改革者のように見えたが政界遊泳術と上昇志向だけの人物――それが正体だったのかもしれない。


◇このままでは政権は衰退一直線だ
これなら鳩山・小沢時代の民主党政権の方が、はるかに芯が通っていたというものだ。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が言う。
「民主党政権は一種の革命を成し遂げたのだから、何があろうと逆戻りしてはいけない。戦前から続く官僚支配を打ち砕き、日米従属外交をまともなものに変えるという政治信条が、鳩山前首相や小沢前幹事長にはあった。だからこそ、旧体制に狙われて寄ってたかって失脚に追い込まれた。それなら、後継者はさらに戦うべきです。政権交代の旗を守るために挑み続けるべきです。その姿勢が見えれば、国民は支持します。菅首相が、鳩山・小沢両氏の失脚の二の舞いはイヤだと、旧体制に媚(こ)びるように増税を言い出し、官僚支配打破に腰砕けになったから、民主党らしさが失われ、選挙に負けたのです」
そこが分からなければ、代表選で再選を果たせても、民主党政権は衰退の道を一直線だ。
読売新聞で中曽根元首相がこう書いていた。
〈菅首相のテレビ演説を見ると、額にシワが寄っていて同情を呼ぶものの、票にはなりそうにない。熱心で真面目だが、少々生真面目すぎて余裕という点では容量が大きいとは見えないからだ。「日本を洗濯する」と言って白布をかざすが、自分の洗濯が先だと聴衆は言いたそうである〉
本来なら、自民党政治をぶっ壊してカリカリさせるべき相手に、余裕でおちょくられてしまう。足元を見透かされているということだ。菅首相、潮時である。