もがく菅首相の断末魔 小沢一郎は山の如く動かない

(日刊ゲンダイ2010/7/16)

恐らく「落選大臣」の続投が命取りになる

◆これから再スタートすると政権にしがみついたが先行きの政権運営に一体どんな成算があるのか、死に体の菅首相の末期は哀れなことになる
菅政権がいよいよ死に体になってきた。連立組み替えだの部分連合だのと騒がれる中、目先を変えて新しい手でも打ってくるかと思いきや、ちっとも動く気配がない。
野党に奪われそうだった参院議長のポストは、西岡議運委員長を充てることでクリアできそうだが、この5日間の進展はそれだけだ。野党は共闘態勢に向けて、会談や駆け引きを始めているのに対し、菅政権はまるで無策。どう対抗するのか、これからどう政権を運営するのか、何もシナリオが見えない状態なのだ。
「アイデアがないだけではありません。求心力を失った菅首相は、早くも周囲からソッポを向かれ始めています。官邸への来客がまばらで閑古鳥が鳴いているのです。首相の選挙後の主立った公務は13日の閣議と、きのう(15日)の英外相の表敬訪問くらい。きのう午前は公務も来客もなかったから、官邸入りを当初の予定から2時間近く遅らせ、報道陣をア然とさせた。選挙翌日の12日夜からは3日連続でホテルのレストランなどで夕食をとったが、相手は荒井国家戦略相ら菅グループの議員ばかり。13日は伸子夫人が一緒でした。裸の王様になりつつあります」(政治ジャーナリスト)
参院選直後は、公明党やみんなの党との連立案も浮上したものだが、裏で動く人間がいないから話が前に進まないのだ。「再スタート」と大見えを切って政権にしがみついたものの、これでは、死を待つのみ。文字通り、死に体政権である。


◆法相問題で支持率は下落の一途
こんな菅政権にとって致命傷になりそうなのが、千葉景子法相を続投させた問題だ。落選した千葉法相を交代させると、次々と人事に手をつけざるを得ない。そうなると参院選惨敗の責任論が高まり、枝野幹事長を代えろ、安住選対委員長もケジメをつけろという話になって、最後は菅首相にもドミノ倒しがやってくる。
それを封じるために、9月の代表選後の内閣改造まで法相交代を引っ張ろうと考えたのだが、これが完全に裏目に出た。
千葉法相問題を例外扱いさせないために、同じく落選した国民新党の長谷川憲正総務政務官や、引退を表明して参院選に出馬しなかった内藤正光総務副大臣らまで続投させざるを得なくなったのだ。矛盾に矛盾を塗り重ねたものだから、案の定、野党からは「民意を無視するのか」「前代未聞の信じがたい事態」と非難ゴウゴウ。菅政権はますます苦しい立場に追い込まれている。政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「国民の目には首相が自らに責任が及ばないよう、保身に走ったとしか映りませんよ。幹事長も代えず、誰も責任をとらないのでは、反省していないと思われても仕方がない。千葉法相の問題は、ダラダラと締まりのない菅政権の象徴のようになってしまっている。残念ながら、今回の人事は、菅政権だけでなく、民主党全体の信頼を失墜させることになります」
参院選の責任問題では党内からも不満は噴出しているし、菅政権は9月の代表選までの1カ月半、野党やメディアからの批判にさらされ続けることになる。
30%台の支持率はこの先、さらに落ち込んでいく。結局、自らの首を絞めているだけだから最悪だ。

◆小沢を引っ張り出して政権浮揚図る勘違い
そのドン詰まり首相が、小沢前幹事長に秋波を送っている、とメディアが盛んに報じている。
小沢とパイプのある内閣特別顧問の稲盛和夫日航会長や連合の古賀伸明会長と菅首相が会談し、「小沢氏と連絡を取っているが、会える日時が決まっていない」とボヤいたとか、「会えたらおわびがしたい」と漏らしたとか伝えているのだ。
これには、元参院議員の平野貞夫氏が憤慨して言う。
「菅首相は代表選出馬時、『小沢氏はしばらく静かにしていた方が、党にとっても、日本の政治にとってもいい』などと批判し、小沢氏の言論・政治活動を抑圧した人物です。それなのに、今さら選挙で負けたから会いたい、謝りたいとは、虫がいいにもほどがある。そもそも、今回の一連の報道自体、怪しいものです。マスコミを使って『小沢、雲隠れ』を報じさせ、大事なときに小沢氏は協力してくれない、冷たいという方向に世論を誘導しようという魂胆が透けて見えますよ」
菅の狙いはこうだ。
もし、小沢の協力が得られないならそれでいいし、協力してもらえるとも思っていない。ただ、会談要請にこたえなければ、今後、小沢は口を挟みづらくなる。
そのアリバイづくりというわけだ。
逆に小沢が人事などで口を出してきた場合は、「小沢が横ヤリを入れてきた」と言いふらす。そして“脱小沢”を強調して、もう一度、国民の支持を集める。小沢嫌いの世論を味方につけようという作戦である。
「それが分かっているから、小沢氏は動かないのです。別に隠れているわけでも逃げているわけでもない。それでなくても近ごろ、小沢氏が森元首相や古賀誠元幹事長ら自民党守旧派と会っているなどという“謀略情報”が飛び交っている。首相が細川護煕元首相を介して連絡を取ろうとしたが、小沢氏からの連絡がなかったという報道もある。いずれもガセネタです。首相周辺が『小沢=悪』のイメージを広めようとしているとしか思えない。いずれにしても、小沢氏がこんなときに動くはずがありません」(平野貞夫氏=前出)



◆小沢は連立工作にも動かない
それでは面白くないのだろう。大マスコミは何としても政局の混乱を煽り、9月代表選と小沢を結びつけて大騒ぎしたいらしい。だが、大マスコミの魂胆も分かっているから、小沢は余計に動かない。代表選も今のところまったく色気なし。だから多数派工作なんてしていないし、子分を動かしてもいない。 表に姿を見せる必要もないのだ。
検察審の結論を待ってから動き出すという憶測もあるが、それも見当違いだ。「小沢の側近」と呼ばれ、今期限りで引退する高嶋参院幹事長は、毎日新聞のインタビューでこう話している。

〈小沢さんは権力主義者ではなく、トップが自分の政治信条を実現してくれるならそれでいい。『国民の生活が第一』という政権交代の原点に戻って政策を進める候補者がいれば支持するだろう。菅さんが軌道修正するなら応援するかもしれない〉

小沢にとって一番大事なのは政策や理念。民主党の当初の理念は、菅政権になって大きく歪められた。

国民と約束したマニフェストも昨年の衆院選と今夏の参院選ではまるで別物だ。

こうした変節が国民に愛想を尽かされ、選挙での大敗を招いたのだ。そんな菅民主党を小沢はとっくに見捨てているのである。

だから小沢一郎は山のごとく動かない。菅やマスコミの挑発にも乗らないし、みんなの党や公明党、自民党への連立工作を買って出る気もない。
いずれ早い時期に、菅政権は行き詰まって終わる。そのとき、党内全体が「小沢復帰要請」でまとまれば、そこで考える。それまでに、政策を一から立て直すことにひとり没頭するのだろう。
寄ってたかって排除された身。相手がコケそうだからといって喜々としてシャシャリ出てくるような軽薄な政治家ではないのである。