菅支持暴落 小沢の出番 (日刊ゲンダイ2010/7/14)

未曽有の混乱に突入したこの国 それは小沢一郎排除から始まった

◇民主敗北後、雲隠れした小沢一郎は何を考え何をしているか…
これから先どうしたらいいのか右往左往するばかりの政権や政党のおかげで景気や国民生活は先行き不明で読めなくなった
混乱を煽るメディア、煽動されてクルクル変わる民意とやらでさらに混乱が拡大するこの国の異様な政情は一体いつまで続くのか
参院選大敗を受けて、菅内閣の支持率がさらに急落している。
選挙で負けた直後は得てしてこんなものだが、支持36%、不支持52%という共同通信の数字はちょっとヒドすぎる。
ホンの1カ月前(6月12、13日調査)は支持58%、不支持30%。国民の菅内閣離れは予想以上に急ピッチだ。永田町では「もう菅首相はあきられた。30%割れは時間の問題」なんて声がもっぱらである。熱しやすく冷めやすい移り気な民意を考えれば、それもありだ。
総理就任から1カ月で賞味期限切れの扱いとは、菅首相も哀れなものである。
選挙や世論調査の数字を見て、大マスコミも完全に落ち目の菅を見捨てたようだ。1カ月前のヨイショがウソのように、“水に落ちた”菅を叩いて、民主党内の混乱を煽り始めた。「首相、人事先送りで責任論封じ」「閣僚からも執行部批判」「連立交渉、難航必至」「9月5日代表選、小沢グループ勢いづく」と連日やっている。大新聞はこの間まで、菅の「小沢外し」路線を持ち上げ、「消費税増税」に賛成の論陣を張ってきた。それなら「消費税」で苦境の菅を支えてやるのが筋なのに、そんな一貫性はない。手のひらを返して無責任に菅政権の混乱を喜ぶ始末だ。これじゃあ、また世論は煽動されて、菅内閣の支持率20%台突入は時間の問題かもしれない。◇政権混乱のツケは選挙民に
この混乱に乗じて、自民党など野党もゾンビのごとく蠢(うごめ)き始めている。自公政権末期の仕返しとばかり、与党少数に陥った参院をターゲットに、議長や議運委員長のポストを分捕り、参院をマヒさせる作戦だ。
「民主党は簡単には新しい連立相手が見つからない。再議決に必要な衆院320議席もないから、麻生自公政権時代よりも国会運営は難しくなります。臨時国会で郵政見直しや公務員改革の積み残し法案をひとつも処理できないと、政治マヒは明らかで、11月には“解散して出直せ”の声が一気に強まる。自民党などはそこに持ち込もうとしている。野党が解散要求でまとまると手ごわいもの。菅政権は一歩も前に進むことができず立ち往生ですよ」(政治評論家・浅川博忠氏) 政権の混乱、政治マヒは長期化する。それは間違いなく、国民の暮らしや景気を直撃する。
明大教授の高木勝氏(現代経済学)がこう言う。
「経済は生き物。政治が安定するのを待ってはくれません。景気が絶好調なら、政治が多少ガタガタするのも許されますが、今はまったく逆です。デフレ、株安、円高、雇用不安と、日本経済にいいことは何もありません。本来なら次々と景気対策が必要なのに、この政治混乱では、何も決まりそうにない。辛うじて消費を支えているエコカー減税は9月で切れるし、家電や住宅のエコポイント制度も今年度限りです。延長できるのか、その政治力があるのか。一体どうするんでしょうか。先行きはまったく不透明になってきました」
参院選で民主党を負けさせたのは選挙民。政治空白が続き、それで景気が悪くなれば自業自得なのだが、大マスコミや野党はそれも指摘せず、ただ混乱を煽るだけだから真っ暗闇だ。
◇なぜ未曽有の政治危機なのか、誰が悪いのか
昨年の今頃も政治は大混乱だった。総選挙を前に、自民党内では麻生降ろしが始まり、グチャグチャ。大事なことが何も決まらなかった。
だが昨年の場合は、政権交代という“希望”へつながる生みの苦しみであり、かつ自民党政治の断末魔だと、国民は冷静に受け止められた。ところが、今度の政治混乱は、待っていても先に明るい展望は開けない。自民党政権の復活なんて悪夢でだれも期待していないし、民主党政権よりもまともな政権があるわけじゃない。民主・自民の大連立だ、ガラガラポンの政界再編だという声もあるが、一朝一夕にできるものではない。むしろ政治の混乱は拡大し、エンドレスになるだけである。
それだけに、この国は未曽有の混迷に突入したというしかない。
考えてみれば、この混迷は小沢一郎排除から始まった。民主党のような、政権運営が初めてのシロウト集団には小沢のような剛腕がタガとして必要不可欠。党内の異論・不満を抑え込み、スキを見せないためには強権政治も必要だった。官僚組織や業界団体も、相手が小沢だから恐れて従っていたのだ。
善くも悪くも、この20年、政界は小沢を軸に動いてきた。
その貴重な人材を排除し、お子ちゃまクラスの前原、枝野、玄葉、安住なんて若造たちが浅い経験をもとにシャシャリ出たら、選挙で自民党にしてやられるのは当然。ナメられて参院の連立交渉が進まないのも当たり前なのだ。
菅民主党は「小沢外し」の失敗を潔く反省することから、再出発を図るしかないだろう。
◇菅は小沢に頭を下げるしかない
筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が言う。
「民主党が参院選で負けたのは、“らしさ”を失ったからです。官僚支配と戦い、彼らが築き上げてきた税金の無駄遣いシステムを壊し、庶民に還元する。その政治姿勢が民主党の原点だった。ところが菅内閣になって、財源がないから子ども手当や高速無料化はやめます、さらに消費税も上げますというのでは、支持者はやってられない。民意が離れ、公務員削減を掲げたみんなの党に票が流れたのも仕方ありません。民主党はもう一度、原点に戻る、官僚や大手メディアと戦ってでも、自民党政治と違う方向を目指す。そうすれば支持は戻る。国民が支持する政権なら、参院での野党の抵抗も意味がなくなるというものです」
菅首相は近く小沢に会う予定だが、頭を下げた方がいい。代表復帰が無理なら、幹事長ポスト復活を懇願すべきだ。
民主党混乱の材料にされるのを嫌って、小沢は先週末から雲隠れしている。また八丈島で好きな釣りをしているという話だが、関係者はこう漏らした。
「すべては、今月中にも出る検察審査会の2回目の判断待ちです。上申書を出したことで、本人は“無罪”を確信しているが、それまでは表には出ないでしょう。晴れて無罪となれば、動き出す。菅総理が全面協力を要請するなら協力するだろうし、これまでのようなロコツな小沢外しを続けるならば、9月の代表選で最後の勝負をかける。腹は決まっているはずです」
小沢の復帰と復活――そこに民主党政権の再生を期待するしかない。政情混乱もそこまでは出口が見えないと覚悟した方がよさそうだ。