[消費税 首相発言]二転三転で説得力欠く
沖縄タイムス 2010年7月2日 09時55分) http://bit.ly/d90qpO  

(16時間26分前に更新)

 菅直人首相は、消費税の値上げで影響を受ける国民生活について、真剣に考えているのだろうか。就任から1カ月足らずで二転三転する発言を聞くにつけ、そんな不安が募るばかりだ。

 首相は30日、参院選応援のため訪れた山形市内の街頭演説で消費税を引き上げた場合の負担軽減策として「年収が300万円、400万円以下の人には、かかる税金分だけ全額還付する方式を話し合う」と明言。支払った税の一部を払い戻す「還付」の年収水準を初めて例示した。

 低所得者にも配慮した負担軽減策を表明したかったようだが、肝心の例示額は演説の度に変わった。

 最初の青森市では「収入が年間200万円とか300万円とか、より少ない人たちにはその分だけ還付する」としたが、次の秋田市では「年収300万円とか350万円とか」になった。

 首相は、たった1日で例示額がころころ変わるような負担軽減策が国民に受け入れられると思っているのだろうか。一国の総理の増税発言にしては、あまりにも唐突で、数字の根拠があいまいだ。言葉の軽さを疑われ、信を失うだけである。

 そもそも、首相が言及した「10%」の引き上げ幅すら、「自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」としているだけで、積算根拠は不明確だ。

 首相は、消費税の引き上げを前提とした低所得者の負担軽減策を示す前に、財政再建や将来の社会保障制度の在り方を国民に説明することから始めるべきである。拙速な増税論議は禍根を残す。

 参院選では消費税率の引き上げ問題が焦点となっているが、菅首相率いる民主党が増税で一致している訳ではない。党のマニフェスト(政権公約)は消費税について、「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」と明記しているが税率や時期はない。何より昨年8月の衆院選では、任期中に上げないことを公約に掲げ、政権交代を実現した経緯もある。

 10%や低所得者の負担軽減策は、いずれも菅首相の発言に端を発したもので、党内で十分に議論を尽くした形跡はない。

 参院選で各党が提示したマニフェストは具体案を詰め、一定の合意形成を経てつくられたはずだ。政権を担う民主党は、消費税引き上げの是非を具体的に分かりやすく提示する責任がある。党首の発言が一貫しないようでは、有権者の混乱を招きかねない。

 将来の医療・介護・年金などの社会保障制度を維持する上で、消費税の引き上げ論議は避けて通れない。社会保障制度や税制改革について、超党派で議論することは大切なことだ。

 ただし、「はじめに消費税ありき」の議論はあまりに安易である。国民が安心して暮らせる社会保障とはどうあるべきかの議論から始めるべきだ。時間はかかるかもしれないが、幅広い国民論議と合意形成の努力がスムーズな改革につながる。増税ありきではない、建設的な議論が必要だ。