激震・陸山会事件:/上 市民目線「許し難い」/小沢氏「意外な結果」(その1)(毎日新聞 2010年4月28日)http://bit.ly/9nbwEB
 

◇起訴相当、「秘書任せ」も疑問 検察審、政界実力者にノー

国会議事堂にほど近い東京・永田町の民主党本部。27日午後7時すぎ、夕方以降の予定をキャンセルしていた小沢一郎幹事長がグレーのスーツ姿で報道陣の前に現れた。「今日、検察審査会の議決が出たということでございますが、私としましては意外な結果で、えー、驚いているところでございます」。そう語る小沢氏の表情は弱々しく、時折目を潤ませているように見えた。

 これに先立ち東京・霞が関の東京地裁南門脇にある掲示板前は報道陣でごったがえした。午後3時半、東京第5検察審査会の議決書であるA4判の紙計3枚が事務局を務める裁判所職員の手で1枚ずつはり出された。「被疑者(氏名)小沢一郎」との標記の下、「議決の趣旨」の欄にはこう書かれていた。「本件不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする」

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 東京地裁内にある検察審査会の会議室。4月6日、一般市民から選ばれた審査員11人の前に、1人の検事が呼ばれた。小沢氏の資金管理団体「陸山会」を巡る政治資金規正法違反事件を主任として捜査した東京地検特捜部の木村匡良(まさよし)検事。2月4日の特捜部による小沢氏の不起訴処分に対し、匿名の人物が同12日に審査を申し立てたのを受け、審査会は特捜部から事件の記録一式を提出させたうえ、ほぼ週1回のペースで協議を進めていた。

 「不起訴とした理由は?」「必要な捜査を十分尽くしましたか?」。審査員から木村検事に、厳しい質問が飛んだ。こんな問いも発せられたという。「仮に再捜査を求めた場合、どんな捜査をすることができますか?」

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 小沢氏の40年に及ぶ政治家生活の節目では必ずといっていいほど検察が登場した。

 親代わりに仕えた田中角栄元首相が76年に逮捕されたロッキード事件。小沢氏は公判すべてを傍聴し、検察への不信感を醸成していった。次に頼んだ金丸信自民党副総裁が失脚した92年の東京佐川急便事件でも小沢氏は検察批判を展開。長年の検察不信が爆発したのが、昨年3月の西松建設を巡る違法献金事件と土地購入を巡る今年の陸山会事件だった。小沢氏は公の場で「不公正な国家権力、検察権力の行使」(昨年3月)、「断固として信念を通して戦っていく」(今年1月)と全面対決を宣言した。

 ところが、不起訴と同時に「公平、公正な捜査で、不正な金は受け取っていないという私の主張が明白になった」とトーンダウン。国会などでの説明を求める声に対しては「検察に2度、事情の説明をした。これ以上の説明はない」と、かつての「敵」を盾に「潔白」を強調していた。

 そこに飛び込んできた検察審査会の議決。「(関与を否定する)小沢氏の供述はきわめて不合理・不自然」「絶対権力者である小沢氏に無断で元秘書らが資金の流れの隠ぺい工作をする必要も理由もない」「『秘書に任せていた』と言えば、政治家本人の責任は問われなくてよいのか」「『政治家とカネ』にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い」

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 政界の最大実力者に一般市民が「ノー」を突き付けた。「起訴相当」の激震を追った。


激震・陸山会事件:/上 市民目線「許し難い」/小沢氏「意外な結果」(その2止)(毎日新聞 2010年4月28日)http://bit.ly/avgaDk
 
◇「政治とカネ」疑惑続々
 小沢氏を巡っては陸山会の政治資金規正法違反事件以外にも「政治とカネ」の問題が度々指摘されてきた。

 総務省によると、08年12月時点で不動産を持つ資金管理団体(地方議員分含む)は陸山会を含めて計13ある。陸山会は計9億2400万円の土地建物を所有しているが、他団体は2000万円以下で、突出している。

 小沢氏は問題が発覚した07年に「所有権が陸山会にあることを示す確認書がある」と説明したが、登記上の名義は小沢氏個人だった。このため批判が高まり07年6月には資金管理団体の新たな不動産取得を禁止する法改正につながった。

 自ら率いた新生党と自由党の解党時には、党に残った資金の大半が、小沢氏が実質運営する二つの政治団体に移され、政治活動に使われていたことも判明した。移動資金の総額は約23億円。税金を原資とする多額の政党交付金も含まれていた。自民、公明両党は昨年7月、党解散後にこうした資金移動を禁じる政党助成法の改正案を提出したが、衆院解散で廃案となっている。

 さらに、西松建設を巡る違法献金事件の公判では、小沢事務所が岩手、秋田両県の公共工事で受注の了解を与える「天の声」を出す一方、ゼネコンに選挙支援や献金を要求していたと検察側が指摘。昨年3月に大久保隆規・元公設第1秘書が逮捕されて以降、企業献金禁止の議論が続いている。【三木幸治】

 ◇鳩山首相は不起訴相当 「共謀」証拠で差
 小沢氏が「起訴相当」となる一方、26日には別の東京第4検察審査会により鳩山由紀夫首相が「不起訴相当」とされた。ともに政治資金規正法違反で元秘書らが起訴され、自らは関与を否定して不起訴となりながら、2人の議決が正反対になったのは、関係者の供述など共謀を示す証拠が大きく違ったからだ。

 鳩山首相の場合は、起訴された元公設第1秘書らの供述などから「鳩山氏は一切関与していないということで(供述は)一致し、鳩山氏自身が虚偽記入に積極的に加担しなければならない動機を見いだしがたい」と結論付けた。一方、小沢氏の場合は起訴された石川知裕衆院議員ら2人の元秘書が「小沢氏に相談と報告をした」などと一定の関与を示す供述をしている。

 また、小沢氏は自己提供資金を隠すため行ったとされる銀行からの融資の際、書類に署名したが、鳩山首相には「物証」がなかった点も審査会の判断に影響したとみられる。

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 ■陸山会事件と小沢氏を巡る経緯

 ◇04年
10月29日 陸山会が小沢氏から借り入れた4億円で東京都世田谷区の土地を購入(04年の政治資金収支報告書に借り入れと土地購入の記載なし)

 ◇05年
 1月 7日 土地所有登記(陸山会の05年の収支報告書に虚偽の購入日として記載)

 ◇07年
 5月 2日 陸山会が4億円を小沢氏に返済(収支報告書記載なし)

 ◇09年
 3月 3日 西松建設の違法献金事件で東京地検特捜部が大久保隆規元公設第1秘書らを逮捕

11月 4日 市民団体が土地購入を巡る政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で石川知裕衆院議員らの告発状を提出

12月18日 大久保元秘書が違法献金事件の初公判で無罪を主張

   27日 特捜部が石川議員を任意で事情聴取

 ◇10年
 1月13日 特捜部が陸山会事務所を家宅捜索

   15日 特捜部が石川議員と池田光智元私設秘書を政治資金規正法違反容疑で逮捕

   16日 大久保元秘書を同容疑で逮捕

   23日 特捜部が小沢氏から任意で事情聴取

   31日 小沢氏に2度目の事情聴取

 2月 4日 石川議員ら3人を起訴。小沢氏は容疑不十分で不起訴処分に

   11日 石川議員が民主党を離党

   12日 市民団体が小沢氏の不起訴処分を不服として検察審査会に審査申し立て

 4月27日 東京第5検察審査会が「起訴相当」と議決