混乱の中にある政治・日本の場合 小沢一郎と民主政権は
(日刊ゲンダイ2010/4/26)
日本ばかりかそれは世界中で起こっている
◇ひとり勝ちは共産制資本主義なのかと中国の高笑い
---グローバル経済とネットの時代に完全に取り残されている議会制民主主義や大統領制民主主義と政党政治---
米ソ超大国による二極構造の崩壊から20年。世界の政治・経済構造は激変し、主要各国はいま、軒並み混乱の極致にある。
自民党腐敗政権が崩壊した日本は、民主党政権になったものの、普天間基地返還問題や高速道路無料化問題、弱小新党乱立で混乱、迷走の真っただ中だ。
5月に総選挙を控えた英国は、保守党、労働党の2大政党制時代に風穴をあけるような事態が起きている。「2大政党は古い政治」と批判する第3党の自由民主党の支持率が、労働党、保守党を抑え104年ぶりに1位に躍り出たのだ。
オバマの米国も大揺れだ。昨年、7870億ドル(約72兆円)規模の巨額経済対策を実施、今年になってからも医療保険制度改革を進めるなど、経済の立て直しに必死のオバマ政権だが、草の根の保守派市民たちが反オバマの「茶会運動(ティー・パーティー・ムーブメント)」を各地で繰り広げている。
「11月の中間選挙を控え、ネットやツイッターを通じてドンドン広がりをみせています。集会に出席した参加者は“国家介入強化で個人の自由を奪う社会主義者オバマ"といった批判をブチ上げるのです。最近の世論調査では18%が茶会を支持、支持者の9割近くがオバマ不支持を表明しています」(在米ジャーナリスト)
笑っちゃうような話だが、彼らの象徴的存在というか守護神的存在になっているのが、共和党の副大統領候補だったペイリンだという。
「偏狭な国家主義者たちが主流ではあるのですが、E・ケネディの死去に伴って行われたマサチューセッツの補選では、民主党候補が落選した。これも茶会の影響とみる向きもあるから、中間選挙に向け侮れない存在になっています」(前出の在米ジャーナリスト)
◇世界中がカオスの真っ只中
そしてEUは、国家破綻の危機に直面しているギリシャをはじめ、財政破綻予備国家の尻ぬぐいでてんてこ舞い。そんな中、フランスでは3月に行われた地方議会選挙で、サルコジ大統領率いる中道右派の与党が26の自治体・地方圏のうち勝利はわずか3という屈辱的な惨敗を喫した。ベルギーでは22日、連立政権が崩壊。世界中がカオス(混沌)の中にある状況だ。
◇マネーの暴走・破滅に対応できない政治システム
この大混乱をよそに、ひとり高笑いしているのが5月に上海万博が開幕する共産制資本主義国家の中国である。GDPは日本を抜き世界2位に躍り出ることが確実。つい最近は、世界銀行の出資比率で独、英、仏を抜き、米、日に続く3位に上がる見通しだと報じられた。
「米国はじめ世界各国は、ホンネでは人民元切り上げを求めているが、経済絶好調の中国の機嫌を損ねたくないため、23日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも表立った議論を控えたほどです」(経済ジャーナリスト)
国内のゴタゴタに目を奪われている間に、世界の政治・経済構造はとんでもない状況になってきているのだ。
なぜこんなことになってしまったのか。経済評論家の広瀬嘉夫氏は「混乱の最大の原因は、先進各国の経済牽引力が衰え政治がグローバル化する時代に対応しきれなくなったからです」と言う。
グローバル化経済の中で、富、利益を求めるマネーは国境を越えて奔流。そこにハゲタカのような連中が飛びつき、金融工学を駆使した高リスク商品を次から次へと繰り出す。議会制民主主義も、大統領制民主主義も、このマネーの怪物の暴走を規制することも取り締まることもできなかった。そして破綻が訪れる。08年のリーマン・ショックだ。
「米国をはじめ世界各国はあわてて対策に乗り出し、巨額の景気対策を打ち出しました。ところが、各国とも経済的には老大国で税収減に苦しんでいる。結局は国債、借金頼みです。世界崩壊危機は何とか食い止めたものの、残されたのは膨大な財政赤字です。米国は09年度の財政赤字が132兆円ですよ。失業率は10%前後、住宅市場はドン底のまま。8人に1人がフードスタンプ(食料配給券)をもらうという惨状は変わりません。英国は09年度の財政赤字のGDP比が12・6%とギリシャ並みに悪化しています。日本だって例外ではありません。これでは国民が、今の政権に不満を持ち、声を上げるのも当然ですよ。しかもネット時代ですから、その動きは瞬時に広まります」(広瀬嘉夫氏=前出)
しかし、現在の政権に取って代わる政党が出てきて状況を改善できるかといえば、各国ともとても期待できない。いまの政治システムそのものが、無極化したグローバル経済、融合化したネット社会に対応しきれないからである。
となると、人々は次のアクションを引き起こす。政党不信の行き着く先は、絶対的なリーダー待望論である。第1次大戦後の戦後賠償でハイパーインフレに見舞われ、ドン底の経済苦にあえぐドイツで、類まれな演説で大衆の心をつかみ、やがて独裁者となったヒトラーの登場がその最たる例である。再び、歴史は繰り返すのだろうか。
◇この国の民主主義は一体どこへ向かうのか
最大の問題は、地球規模で起きている21世紀型の時代変化の潮流に、日本の政党政治が対応しきれるかどうかである。
ハッキリしているのは、消滅寸前の自民党と、その自民党から飛び出した連中らがあわててつくった弱小新党には、とても無理だということ。政官財癒着、対米追随の有権者無視の政治を半世紀以上も続けてきた自民党は、旧体制そのもので、変化に対応する能力は皆無である。それは自己改革力がなく、離党者が続出する現状を見れば歴然だ。
「相次いで登場した新党も期待できません。理念も政策もなく、志が見えない。有権者はついていかないし、期待もしていませんよ。その点、民主党はグズグズ感はあるが、政治主導、国民生活第一というマニフェストの方向性を見る限り、対応力はある。問題は実行力です」(政治評論家・山口朝雄氏)
たしかに、最近の普天間や高速道路無料化をめぐる鳩山内閣の迷走ぶりを見せつけられては、国民は期待を持てといわれても無理だろう。大マスコミの洗脳的なネガティブ・キャンペーンもあり、有権者の政治不信、政党不信は強まる一方だ。
◇小沢は党ではなく内閣の柱になれ
そこで改めて注目されるのが、強力なリーダーとしての小沢一郎の存在である。政権交代以来、旧体制による執拗な政治とカネの攻撃にあい、国民的人気は低い。首相待望論もほとんどない。
しかし、この男をこのまま政界から退場させてしまっていいのか。それが本当にこの国の民主主義、政治改革、構造改革にとってプラスになるのか。
「今こそ、小沢という構想力と決断力を持った政治家の出番ですよ。これまでのように党の要にいるのではなく、副総理でも財務相でもいいから内閣の枢要なポストについて、率先してリーダーシップを発揮していくべきです。そうすれば、内閣が迷走することもなく、マニフェストの実現化も進むはずです。鳩山首相がすべきことは大胆な内閣改造を断行し、難局を乗り切ることです。世界的な潮流の変化に対応し、日本の改革を進めていくには、小沢を表舞台に引っ張り出すことが欠かせないですよ」(山口朝雄氏=前出)
旧体制のドス黒い野望の前に、民主党政権が翻弄され、小沢の政治的影響力が失われるようなことになったら、この国の政治は一気に液状化する。その先にあるのは、政党政治の死と、不気味なナショナリズムの台頭という悪夢である。
世界を覆う政治の危機――。日本も決して例外ではない。