「もう一度青空の下でお花見がしたい」

そんな桜好きの人々の願いが通じたのか、古都の空も春にはめずらしいほど蒼かった

京都西山善峯寺の桜は今が盛りだった

昨秋紅葉を愛でに参詣した古寺だったが桜花咲く春には初めての訪問となった

善峯寺の桜といえば徳川幕府５代将軍・綱吉の生母、桂昌院お手植えの枝垂れ桜が名高い

しかしこの山寺の春は全山が桜色に染まりその様は秋の紅葉にも引けを取らない美しさがある

境内からは洛中の市街が一望できのどかな春景色が広がる

比叡山や東山の峰々までくっきりと見渡せる遠望は古都の旅情を一層かきたてた

西山の桜の名所を巡りたいところだったがやはり洛中の桜に逢いに行く事にした

上賀茂社の斎王桜が見頃を迎えていると聞いたので北大路から賀茂川べりを花見がてら北上

紅枝垂れ桜の並木が美しい半木の道。古都の春の休日には外せない場所だと思っている

ピクニックにはうってつけの場所だが、この場所ではトンビに気をつけなければいけない

岸辺に座って花を見て昼食をとっていたらトンビに襲われた

手にしていたサンドイッチは無事だったが掠めたトンビのツメで顔に傷を負ってしまった

同じく昼食中だった近くの老夫婦や母子らが襲われなくて良かったと思いたい

気を取り直し上賀茂神社を目指し川べりの道を歩いていく

トンビには水を差されたが穏やかな春の陽気は心を軽く明るくする力があると思った

そよいでいた春風が突如強く吹いた

それまではらはらと舞っていた花びらが風雪のように横なぐりに飛んでいった

桜吹雪のこの道をどこまでも歩いて行きたかった

世界文化遺産・賀茂別雷神社、通称を上賀茂神社という

一の鳥居を抜けてすぐに斎王桜が紅桜色の衣をまとって出迎えてくれた

曲水の宴を翌日に控えて高揚を感じる境内にあってもなお桜たちは雅な佇まいであった

トンビに襲われた厄を転じようと八咫烏のおみくじを引いてみたら「吉」と出た

スッキリと清い心持ちとなって銀閣寺道へと向かい、そこから哲学の道に折れた

水面を埋め尽くす花筏は見られなかったが盛り過ぎて舞い落ちた花弁はあわれであった

疎水を流れ下ってゆく桜花は青もみじの引き立て役に徹していた

水の流れのように季節も澱みなく流れていく

時の経過の無常は平安貴族も平成の民衆にも何ら変わるところは無い

哲学の道も永観堂・南禅寺方面に進むにつれて人が減り寂しい雰囲気になっていった

すでに永観堂の門は閉ざされ南禅寺の境内に着いた頃には春の陽射しは絶えていた

観光客もだいぶ減り巨大な伽藍も静寂の中で眠りにつこうとしていた

また風が吹いた

春風ではない

冷気を帯びた花散らしの風だった

花は散って欲しくない反面、もっと花吹雪が舞ったなら綺麗だろうに…と思ってしまう

そういう矛盾した考えが浮かぶのは私が煩悩に塗れているからなのだろうか

インクラインはこんな時間でもまだまだ賑わっていた

もうその中に割って入っていく気分にはなれなかった

古都の夕空が淡いピンク色なのは舞い上がった桜の花びらで染まったからだろうか…

そんなことを思いながら花の季節の終わりを感じていた .

P.S.

今月末、平成の終わりとともにこのblogにピリオドを打ちます。

長い間のご愛読、誠にありがとうございました。

M

花の舞う頃