如何にも威厳の有りそうな髭を生やした隊長が物動じない様子で室内に入ると同時に騎士たちが一斉に立ち上がり左腕を胸に当てる
「本日集まってもらったのは他でもない、きみ達スペード隊に我が国とモーラン王国の同盟にあたって訪問なされる事となった伯爵様の護衛に付いてもらいたい」
ざわめき声が聞こえる
「おっぷす・・・何か空気が重い」
「いや・・・まさかあの国とだ、殆どの奴らが動揺してるよ。あの大きな国がこんな小さな国と同盟するなんて・・・」
空気がいまいち読めない新人のタイゾに先輩らしき騎士が小さく返す
「君達には下士官の三等兵所属と協力してもらい伯爵様護衛、城内と城下それぞれに護衛についてもらう、各配置場所はチームの班長に渡してあるそれぞれの職務に就くように」
「イエッサー!」
左拳を心臓に押し当てその拳をぴんと伸ばすと高らかとあげてイエッサーと答える
この回りくどい返事の仕方にいまいちついていけていないのがタイゾ
「まぁお前はまだ新人だから、比較的安全な場所だろうよ、伯爵様護衛も伯爵様が通るルートなんてまず当たらないだろう」
「お・・・おっぷす・・・」
「では各自持場に戻る様に」
「お・・・イエッサー!!」
隊長を見送った所で体の力が抜けてしまう
「お前何その変な口癖・・・」
「あぁ 気付いたら言ってるような・・・そういえば三等兵の人たちはいなくて良かったんでしょうか??」
三等兵という言葉が出てきたわりにそのミーティングに三等兵の姿は無かった
「あぁ・・・三等兵は忙しんだよ、護衛だのなんだの言って仕事が無けりゃ奉仕にも回されるらしいし、この前は草むしりとかやらされてたらしい」
「おっぷす・・・」
「もはや雑用だな」
正直剣振るったりするより平和でいいようなそんな事が脳裏を抱きつつ、
草むしりをしているラーユの姿が安易に浮かんでしまうタイゾだった。
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「あれ・・・?俺どっちから来たっけ?」
大広間に出た刹那左右をきょろきょろ見渡すタイゾ
外から見る以上に複雑な構造になっているとはここに来た時に下士官のラーユにも聞いていたものの
まさか城内で迷子になるとは思わなかった
(誰かにでも聞いて・・・お?)
廊下の奥に赤いコートのような服を纏った小柄な青年らしき姿が視界に入る
(あれ?クランさん?何でここに??)
遠巻きで解りにくいものの髪の長さも体格もパテシエクランに似ている
そんな思考に気付いているはずもなく、そのまま曲がり角へ姿を消してしまう
(クランさんだったら聞けるし、違ったら違ったらで道を聞こう・・・)
同じように廊下の曲がり角に入る、視界にクランの後ろ姿が再び奥へ消えていく
妙に距離感に違和感を覚えながらも後を追うタイゾ クランは後ろの存在すらも気付いていないのか
すぐに視界から姿を消してしまう
急に視界が広くなるとそこは大きなバルコニー
見渡しの良さそうな場所に先ほどからタイゾが追っていたクランらしき後ろ姿
ただその髪は金色に近い髪でタイゾの知っている焦げ茶色のクランとは違う
「あのー、すいません俺道に迷ったみたい・・・で」
タイゾが声を出すとそれに気づいた様に振り返る青年、その顔はどこか記憶にあるクランに似ている
もしかしたらクランの顔をはっきり覚えてないだけかもしれないものの今にでも”どーしたのタイちゃん”と言い出しそうなそんな雰囲気で。
ただ少しクランより小柄で幼い、胸元の大きなリボンを見るとまだ子供なのかもしれない
「おっぷす・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
青色の目を大きく見開くと静かにタイゾの前に来る、歩いたというよりわずかに足が浮遊しているように見える
ふいに伸ばした手をタイゾの胸元にあてる、少しして驚いた様に見上げると僅かに首をかしげて数歩下がる
「ええとすいません俺は、スペード隊所属なんですが、まだここ慣れてなくて・・・道を・・・」
「どうして君には黒い物が無いの?みんな必ずくらーい闇があるのに」
「はい?」
成立しない会話に動揺してしまう、しかしこの少年はいたって真面目そうなのが逆に怖い
「僕の手の届かないくらい深い場所にあるのかなぁ…」
目を細めると嬉しそうに笑う
やはり何処かクランに似ている
「ねぇ、お兄さんは僕の味方になってくれる人なの??」
「はい?まぁ・・・俺で出来るであれば…たぶん」
「ふうん・・・じゃあちょっと目を閉じて」
「お・・・おっぷす」
よくわからないままとりあえず会話が安定している事を維持するために目を閉じる
『でも君は・・・にはなれない様だから・・・を守る騎士してあげるね、その時にはもっと深い部分所から引き出してあげる・・・みを・・・』
直接頭に聞えてきたようにどこか聞き取りにくい声に思わず目を開ける
其処は教えて貰ったばかりの休憩室
(・・・・・・あれ・・・・・・?)