明るい室内のすみっこで小さくなって泣いている少女とそれを見て深いため息をもらす少年
「何だよお前また怖い夢見たのかよ?いい加減にしろよ」
「見たくて見てるんとちゃう・・・もう嫌や・・・帰りたい・・・」
「うるさい、はやく其処に座れ、ほれはやく」
どうにも少年は口が悪いらしい
小さな椅子に座るよう促されると泣きながらもそこに座る少女
「待ってろ」
少女が大人しく待っているとほのかに甘い香りが漂う
出てきた少年の手にあるのはホットミルク
「飲めばいいじゃない」
「ん・・・クランちゃんありがとう」
「別に・・・もう起こすなよ、次殴るから」
小さな拳を振り上げて見せる少年
「ぷっ」
「笑うなこら・・・おい・・・こら!聞いてんのかウサヤ」
「うるさいわ・・・・・・ん・・・?」
ゆっくりとベッドから体を起こす
「懐かしい夢やなぁ・・・クランちゃんあの頃から口悪かったっけ」
何だよお前また怖い夢見たのかよ?いい加減にしろよ
夢かぁ…
あれ?何回怖い夢見てたんやろ いつからやっけ?
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「はい?」
「だかーらぁ、モーランって言う国、ほら隣国の侯爵様」
「あ・・・あぁ・・・確かお若くして王位を継がれたとか??」
一通り窓の高い所を掃除し終わると下で別作業をしている同職の女性に目をやるウサヤ
彼女の名前はヒルナ身長160センチとウサヤからすれば羨ましいくらい可愛らしい女性
「すごいわよね、ものすごくイケメンらしいし・・・いいなぁそんな所でお仕えしてお嫁さんに見初められたりして」
いやいや其れは展開良すぎやろと 突っ込みそうになりながらも一人で盛り上がる彼女にただ笑うしかなかった
「全然興味がなさそうね」
「え?そんなこと無いで?その・・・身分関係はようわからへんけど・・・」
「此処だけの話・・・ウサヤさんってあの下士官君と付き合ってるの?」
「無い」
思わず即答してしまった
いや、心底ないから・・・最初口もきいて無かったし
「なんだーつまんないの」
「勝手に変な噂流さんといてくださいよ?絶対ありえへんから」
あきらかつまらなそうな顔をする、どうにも彼女は色恋話が好きなようでそれに疎いウサヤは
逆にあまり好きではない。
そういう意味で下士官のラーユと一緒にいると楽でいいのかもしれない
「うちの国もモーラン国くらい穏やかやったらえぇんやけど」
箒を道具セットから取り出すと話を変える的な意味でそんな言葉を口にしてみる
「あら、平和じゃない、争いだってないし、そりゃ多少貧困の差はあるのかもしれないけど、こうやってほら使用人として使っていただいてるし」
「せやね・・・そう思う」
でも表向きな平和に気がする
どうにもあのジョーカーという子供に会ってからどんどん自分の周り、この国がおかしくなっている気がする
"深入れすんなよ"
ふと脳裏にあの時のクランの言葉がよぎる、あまり深い意味をもって言ってる様には聞えなかったけど
「貴方達ちゃんと仕事をしているの?? 三時にミーティングがあります、ちゃんと終わらせて来るように」
「は・・・はい!」
気配も無しに現れたメイド長に慌てて返事をする二人
此処に来て絶妙なハモリで
「はよ片付けな・・・ヒルナそっちお願い」
「オッケー!任せて」
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真っ白い月が城を街を照らしている
大きなベランダの柵に器用にも立っている少年、風が金色の髪を綺麗に靡かせている
何を見ているのかその瞳は何処か虚ろ
『待っていてね・・・僕が迎えに行く・・・この世界に・・・僕の世界に・・・アリス見て・・・僕こんなに成長したよ』
両手を広げるそのまま宙に身を任す、体は地面に投げ出される前に滲んで消えた
そこに一枚ふわりと舞い落ちたのは一枚のトランプ
其れもすぐに風に舞い上げられると何処となく消えていった