パレードが終わった次の日はいつもと変わらずとも妙な静かさだ
「あれだよねー結局その時だけだよね」
しかめっ面をした下士官らしき青年が小荷物片手にため息をついた
「えぇやん、店は繁盛したりしたんやろ?
盛り上がったいう事やがな」
片方はのほほんとした関西弁を喋るメイド
カプチーノカラーのセパレートタイプのフリルがたんまりと使われている制服を着ている
いっけん可愛げだが平均身長の下士官より背が高い
下士官と対等なのかタメ口だ
「いやぁ…ダメダメ、普段から繁盛しなきゃ意味ないよ」
ふいに言葉を止めると小走りになる下士官
メイドも何かに気付くと同じようにあわす
物影から会話が聞こえたのだ
それは今の王様の影で甘い蜜を吸っているのがよくわかる会話だった
だいぶ離れてからまたため息をもらす下士官
「ていうかさぁ 知ってる?最近また裏でさぁ・・・」
「あぁ・・・知ってるけど、ラーユはそう言うことようみつけるなぁ いつか背後から刺されるで」
ガタンという物音に振り返る下士官とメイド
そこには白いワンピースの裾を踏んづけて顔面から倒れてしまっている子供
よろよろと起き上がったその顔には白いお面
下士官が手をさしのべると後方に仰け反ってしまう
其れを見てくすくす笑うメイド
「その子、宮廷の道化師やろ?生を見るのは初めてやわ
怖がられてるでラーユ」
「・・・あれだよ、お腹空いてかりかりしてんだよ たぶん」
片手の荷物から焼き菓子をとりだすと道化に差し出す
道化は表情も変えないが手も出さない
「これ、すごい美味しいって話だよ?僕食べてないけどさ」
「あかんがな」
すかさずつっこむメイドにやっぱり表情一つ変えない道化
「じゃあ…はい!」
焼き菓子を袋に戻すとそのまま無理やり道化の手に握らせてしまう
さすがに動揺したのか慌てて立ち上がろうとしてまた転ぶ
そのすきに脱兎の如く走りさる下士官とあきれたように笑うと慌てるしぐさもせず後を追うメイド
「変わった子やったねぇ」
歩いていたにも関わらずもう下士官に追い付いたメイドが道化がいた方向を見ていう
「・・・楽しくなりそうやね」
小さく囁くと、下士官の肩をぽんと叩いて職場へと戻っていった
僕は理屈屋だとか屁理屈だとかよく言われる
何となく自覚はしてたけどそんなに言われるほどじゃないと思ってる
むしろ事実しか言ってないと思っているくらいだ
可笑しな訛りで喋るウサヤというメイドだって
最初はそんな僕を避けていた気がしたけど
あれ?いつからだっけ普通に一緒にいるよ
昨日は変な子供、道化?だっけ あのお菓子は食べただろうか?
宮廷道化師なんてさらっとウサヤは言ってたけど
僕は初耳だったよ
人だかりが出来ている
慌てている人から上級兵もいる
どうしたんだろう あまり関わりたくないけど
何やら必死に奥で誰かが言い訳をしている
私じゃないとか誤解だとか
あれは…嫌味な髭を生やした大臣じゃないか
どうしたんだ?
同じ下士官の話を聞くにはあの大臣が王様の大事に保管していた鏡を割ったとか
具体的な証拠は大臣の服から割れた破片が出てきたからだとか
こんな事王様にばれたら大変じゃないか
でもこの大臣…よく裏で悪いことをしていたって噂があったはず
僕は事実だと思っているけど
『・・・いい気味』
え?あれ?
今、僕はさらっと何を考えたんだ
誰かに服の裾を捕まれた気がして振り返る
あの小さな道化が僕を見上げている
口元は満面の笑み
僕が何かを言おうとすると手を放してスキップするように走っていく
あれ?
ワンピースから足が覗いてる
昨日は踏んでしまうほど長かったのにきのせいだったかな?