「もし、あの時・・・」 きみが居なくなってから、いつしか口癖になっていた。
もし、あの時、足を止めていたのなら。
もし、あの時、後ろを振り返っていたのなら。
もし、あの時、電話を取っていたのなら。
もし、あの時、メールを返していたのなら。
些細な事に後悔する。

もし、あの時、信号に躓いていなければ。
もし、あの時、靴を履くのに戸惑っていたのなら。
もし、あの時、呼吸をあと一回、多くしていたのなら。
もし、あの時、きみに出会っていなければ。
ほんのちょっと何かがすれ違っていたのなら、未来は変わっていたかもしれない。

きみがいなくなったら、 わたしを取り巻く世界は、 終ってしまうとさえ思っていた。
けれど、きみが居なくなっても、世界は何一つ、変わらない。
傷を負った心。
それなのに、季節はそれを見て見ぬ振りして流れてゆく。
目に見える景色は、きみが居ようと居なくなろうと、肩をぶつけ合う人々にとっては何も変わらな い。

明日から、どうやって生きてゆけばいいのか、わからなくなっていた。
昨日まで、どうやって生きてきたのか、わからなくなっていた。

わたしはどうやって笑っていたの?

わたしはどうやって苦しんでいたの?

わたしはどうやって前を向いていたの?
わたしはどうやって道を進んできたの?
今も、まだ、わからないまま。
わがままを言ってしまえば、もう一度、同じ場所で同じ瞬間に、きみと出会いたい。
もし、お互いが離れ離れにしか生まれ変わることができなくたって。

まだ、見る事のできないものがたくさんある。
聞けない音楽も、足を運べない場所も、言葉にするだけで胸がちぎれそうに苦しくなることだって。

けれど、明日という日は、なんとなくだけれど、見えるようになってきたから。
今、見ている景色が、一年後、わたしの目に輝いてうつっているのかはわからないけど、 きみ無しで もわたしは、果てしない輝きを得ることが、出来るのかもしれないって。
そう思えるようになっているから。

それは、きみのことを忘れてしまうという意味ではなく、きみがいなくなった世界でも、わたしはまだ、 それを探し出す力が残っているのかもしれないということ。

忘れることなんて出来ない。
今は、忘れたいとも思わない。

ありがとう。
数ある瞬間の中からわたしと出逢ってくれて。
ありがとう。
数ある出逢いの中からわたしを選んでくれて。
また会おう。
出来ることなら、そのままのきみでいて欲しい。
また会おう。

その時は、笑顔で会えるといいね。