※喪失と死、心の病に関する表現があります

苦手な方、感情が不安定な方は

ご注意いただけますと幸いです





私には幼馴染たちがいます

近所に住んでいた同じ歳の男女数人で

その中の1人がユイカでした


いつもみんなで遊んでいたけれど

ユイカと2人で遊ぶようになったのは10歳頃

クラブ活動で一緒になったことをきっかけに

長い付き合いが始まりました


中学に進学して同じ部活に入部して

毎日一緒に登下校したし

休日も部活があったので1日一緒で

家族と過ごす時間よりも

ユイカと過ごす時間の方が長かったです



ユイカはひとりっこ

祖父母両親から大事に育てられていて

ワガママなところもあったけれど

持ち前の明るさと気の強さで

小柄ながらも存在感のある子でした



もちろん喧嘩することもあったけれど

それでも登下校は一緒にしていました

家族みたいな

とても大事な存在でした




高校進学のときに進路が別れました

ユイカは市外、私は市内の高校

すぐに会える距離だったし

学校は違えど部活動は同じだったから

寂しさはなかったです


会う時間は極端に減ったけれど

大会の話や定期発表会なんかに招待しあって

相変わらずの関係を続けていました

吹奏楽部だったので定期演奏会のたびに

お互いお花を送りあっていました


そんな普通の高校生活を終えて

お互いの進学が決定

私は一人暮らしが決まっていました


ユイカに遊びに来てもらおうとか

ユイカと旅行にも行けるなとか

これからどんな大人になるんだろうとか

未来にワクワクするばかりでした



私の所属していた吹奏楽部は

定期演奏会が3月下旬に開催されるのですが

卒業したての3年生は

都合がつく限りOBとして参加して

舞台裏のサポートをするのが慣例でした

可愛い後輩たちの晴れ舞台を見届けてから

新生活を始めるのです


演奏会は夜開演なので全て終了するのが22時

後輩たちとの涙のお別れを済ませて

母の運転する車で自宅に帰っていました



帰り道、ユイカの家の前を通ったとき

人だかりができていました

23時前にしては騒々しいし

KEEP OUTのテープが貼られていました


「何かあったのかな?」

泥棒か何かかなと思いつつ

遅い時間だったこともあり真っ直ぐ帰宅


翌日は当時の彼氏と

地元最後のデートだったこともあって

特に連絡することもなく眠りにつきました




朝から彼氏と待ち合わせてお昼を食べて

これから始まる遠距離恋愛に向けて

計画を立てたりしていました


映画を見終えて携帯電話を見ると

自宅から大量の着信

何かと思ってコールバックすると

母が半狂乱で泣きながら言います



「ユイカちゃんが亡くなったって!」


それはまるで叫んでいるかのようでした



全く理解が出来ない

言葉の意味がわからない

どういうこと?

ユイカが亡くなった?

なんで?

何があったの?

間違いじゃなくて?

事故?病気?

嘘でしょ?


「落ち着いて聞いてね」

泣く母が深呼吸して言いました




「ユイカちゃんが亡くなったの

ユイカちゃんのご両親も亡くなったの

事故でも病気でもなくて

お父さんによる無理心中ですって…

今すぐ帰ってきなさい」



そこからの記憶は曖昧なので

彼氏から聞いた話になってしまいますが


私はその場で膝から崩れ落ちて

携帯を持っていた手もぶらんと下げて

声も出さず焦点の合わない目で

ただただ泣いていたそうです


どうしたのか聞いても返事もなく

通話が切れていなかったから母と話をして

なんとか立たせて手を引いて

自宅まで連れて帰ったと…


ぼんやりと覚えているのは

隣で歩く彼氏が泣いていたことと

ユイカと何年も一緒に登下校した道の

桜並木が満開だったこと


ピンクに染まった木とアスファルト以外

一切の色は感じられませんでした




Sさんのことで感情がフワフワしている中、

気付きを与えてくれた彼と

1対1で話す機会が突然やってきました


その人のことは便宜上Yさんとします



その日は仕事でトラブルが発生

急遽出張となってしまったのですが

万が一に備えて一度帰宅し

1泊分の荷物を慌ててパッキングしていました


SMSの通知に目をやるとYさんからで

今夜の都合はどうか、という連絡でした


大慌てで新幹線に乗り込んでから

今日は出張で泊まりになる可能性があり

別日の提案をしたところ、

彼も出張で目的地周辺にいるので合流しないか

と返信があったのです


終わる時間が掴めないことを伝えたら

それまでは仕事もあるから待つ

とのことだったので

申し訳ないと思いつつ

終わり次第で合流することになりました


それからはあっという間

現地について客先訪問ののち

オフィスに戻ってリカバリー計画と

立て続けの会議、ミーティング…

お昼を食べる間もなくバタバタと過ごし

気付くと20時を回っていました


解決の目処がたったものの

明日もう一度客先訪問となったので

慌ててホテルを抑えてその日の仕事は終了

急いでYさんにメッセージを送ると

即コールバックがありました



お疲れ様です、お待たせしてすみません


『そちらこそお疲れ様、いま◯◯?』


そうです、これからオフィスを出ます

どちらに向かえばいいですか?


『OK、じゃあ駅前まで来てくれる?』


駅前ですか?Yさんはどちらにいます?


『駅前のカフェだから5分後に合流しましょう』


え?なんで?いや、ほんとすみません


『いやいや、気にしないで。気を付けておいで』


ありがとうございます、では後ほど


電話を切ってから駅前まで走りました

Yさんのオフィスから40分くらいかかる場所

わざわざ来て待っていてくれたようでした



横断歩道で信号が変わるのを待つ間に

Yさんを見つけました


グレーのチェスターコートに

ダークグレーのスーツ

あ、髪切ったんだ

ネクタイしてるの初めて見たかも

相変わらずかっこいいなあ

なんて思っていると

Yさんがこちらに気付きました

持っていたスマホをポケットに突っ込んで

小さく手を振っています


嬉しいけれど気恥ずかしくもあり

小さく手を振り返して会釈

すると信号が変わりました

人混みの中、足早に向かおうとすると

なぜかYさんもこちらに向かって来ます


横断歩道の真ん中で再会


お待たせしてすみません、と頭を下げると

『あはは、大丈夫!とりあえず渡ろうか!』と

私の肩をポンポンと叩くと

私のボストンバックを奪い取って踵を返し

来た道を並んで戻ります


渡り終えた先で立ち止まって

あの、荷物大丈夫ですから…申し訳ないので…

というと

『たまにはいいじゃない、女性には重いですよ』

ただただ申し訳なくって謝るばかりの私に

『じゃあ今日はお酒のんでもらえますか?』

と笑顔のYさん


地元では自家用車も使うのでお酒は避けますが

飲めるので快諾しました


『お腹すいたし、行きたい店があってね』

そう言って歩き出すYさんに着いていく私

ヒールを履いてようやく身長差15cmほど

頑張って大股で歩いていると

自然と速度が遅くなっていきます


お店につくまでの約10分

話が途切れることはありませんでした


『ここです、さあどうぞ』

と案内されたのは雰囲気のよい居酒屋でした

すでにリザーブまでしてくれていて

私はただ恐縮するばかりでした


同時に

今日はあの話をすることになる

そう思って少し緊張もしていました


席について最初のお酒を頼んでから

メニューを見ながら選ぶのですが

気になるものが悉く同じ


食の好みまで合うことに驚いていると

『僕に合わせてない?』

と心配そうに笑うYさん


あの日ペリエを飲んだ時の顔を思い出して

そんなことないですよと笑うと


『それならよかった』

『それにしても気が合うね』


お酒が運ばれてきたので乾杯し

一口飲んだところでYさんが切り出します



『さて、この間はちゃんと聞けなかったから

今日は聞かせて貰いたいと思っているけれど

大丈夫かな?

無理にとは言わないけれど』


まっすぐ私を見つめる目は優しくて

話すことにも抵抗はなかったので

頷いて答えました



大丈夫です

ただ、重苦しい話にはなってしまうので

先に謝っておきますね

それから…


『それから?』


私は聞かれたら話はしますけど

誰かれ構わず話すわけではなくって

無意識でもこの人には話したいなと思った

ということは知って欲しいです


『それは光栄だね、わかったよ』


ありがとうございます

ではさっそくですが…そうだな

最初からお話しますね







ホームパーティを楽しみつつ

シミュレーションに勤しんでみたものの、

色々な気持ちが入り混じります。


過去を振り返ると

①一緒に過ごした時間の中で

不快に感じる瞬間は一度もなかい

②食の趣味が合う

③無理せず気負うことなく話せる

④どんなことも受け止めて貰える

⑤人望が厚く気遣いの人

⑥異性として意識したことはない

と、⑥以外はいいことばかりでした


これからを想像したくても

なんとなくイメージが湧かなかったので

今まで考えてこなかった

Sさんのステータスを考えてみます


①キャリアアップで収入2倍

②世間的に見ても重要なポストに着任

③家族思いだが自立している


①②はSさんご本人が自発的に教えてくださり

③についてはお話を聞く限りは、ですは

事実ご実家を離れて長いことと

お父様が未だ現役で重役を担っていること、

お母様も干渉せず

各自、自由を重んじているとのこと。


結婚、ということを考えたとき

年齢差的にもこの「ステータス」的にも

(この表現は大嫌いですが)

“高物件”と評されると思われます。



ただ

致命的なのは

“異性として魅力を感じたことがない”

ということ。



意識していなかったから、では片付かない

なんとも形容し難い

抵抗のようなものがあるのです。



続けて自問自答します。


Q1:手を繋げますか

A1:繋げるが、指は絡められない


Q2:キスはできますか

A2:難しい


Q3:夜を共に過ごせますか

A3:色っぽいことは受け入れ難い


Sさんは好きですが、現状の気持ちとしては

異性として意識“できない”のです。

つまり

シミュレーションの結果は『NO』ということ。



まるでSさんを否定するみたいで

とてもとても嫌な気持ちになったのですが

あくまでも『現時点では』

これが結論でした。


ただし、Sさんからは

ストレートにアプローチされたわけではなく

関係が変化するアクションもなかったので

私が一方的に考えあぐねている状態です。


これからも縁が切れるわけではなく、

Sさんのお宅へ遊びに行く予定もありますし、

連絡もとり続けます。

(現在も定期的に連絡をとりあっています)



これ以上悩んでも仕方がないですし、

Sさんのことは人として大好きです。

今後関係や気持ちが変わる可能性もあるので

現状維持として総合判断では

『保留』に着地させました。



なんとなく逃げている気もしますが、

心の余裕を保つために下した結論です。


実はホームパーティのあと

Sさんが新天地に旅立つ直前に

件の『過去の出来事を話す』機会を迎えました。