スウェーデン王立科学アカデミーは15日、今年のノーベル経済学賞を、アルビン・ロス米ハーバード大教授(60)と、ロイド・シャプリー米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授(89)に贈ると発表した。

 2人はゲーム理論を使い、臓器提供者と患者や、学生と学校などの組み合わせを理論的に解析できるようにする「マーケットデザイン」を確立した功績が評価された。シャプリー氏が1960年代に理論を構築し、ロス氏が80年代に発展させ、具体化した。市場が存在しなかったり、市場がうまく機能していなかったりして、需要と供給の双方に不利益が生じている状態から、その組み合わせをいかに改善させ、効率的にするかを研究した。

 ロス氏は電話での記者会見で、「私たちが研究しているのは経済学で新しい分野だが、すでに米国の医療や学校の現場で実際に使われている」と語った。発表されたときに早朝の米カリフォルニア州にいたロス氏は寝ていて、受賞を知らせる最初の電話をとれなかったといい、「コーヒーが飲みたい」と笑った。

 ロス氏は、米スタンフォード大で応用数学の一つである「オペレーションズ・リサーチ」の博士号を取得後、イリノイ大などを経てハーバード大で教えてきた。シャプリー氏は米陸軍を経てハーバード大で学び、プリンストン大で数学の博士号を取得した。

 授賞式は12月10日にストックホルムである。2人に合わせて800万スウェーデンクローナ(約9400万円)の賞金が贈られる。

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 〈アルビン・ロス氏〉 1951年米国生まれ。74年米スタンフォード大博士号取得。ゲーム理論を、市場の制度設計に応用した。

 〈ロイド・シャプリー氏〉 1923年米国生まれ。53年米プリンストン大で数学博士号を取得。ゲーム理論の発展に貢献した。

スウェーデン・アカデミーは11日、今年のノーベル文学賞を、中国の作家、莫言(モーイエン)氏(57)に授与すると発表した。授賞理由を「幻覚を伴ったリアリズムによって、民話、歴史、現代を融合させた」「西欧かぶれしていないユニークな作家。アジアの重要性が高まっていることの表れともいえる」と説明した。中国国籍の作家の文学賞は初めて。中国出身では、フランスに亡命した後の2000年に受賞した作家の高行健(ガオシンジェン)氏がいる。欧米のメディアなどで有力視されていた村上春樹氏は受賞を逃した。

 授賞式は12月10日、ストックホルムである。賞金は800万スウェーデンクローナ(約9400万円)。

 莫言氏は1955年、中国山東省高密県生まれ。本名は管謨業(コワンモーイエ)。85年に発表した「透明なにんじん」で注目を集めた。86年の長編小説「赤い高粱(コーリャン)」では、故郷を舞台に抗日戦争を描き、生命力に富む女性の造形が高く評価された。この作品を原作とした張芸謀(チャンイーモウ)監督の映画「紅いコーリャン」は88年、現実と幻想が混ざり合った魔術的リアリズムの世界が評価され、ベルリン国際映画祭グランプリを受賞している。

 スウェーデンのカロリンスカ医科大は8日、今年のノーベル医学生理学賞を、京都大の山中伸弥(しんや)教授(50)らに贈ると発表した。皮膚などの体細胞から、様々な細胞になりうる能力をもったiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功した。難病の仕組み解明や新薬開発、再生医療の実現に向けて新しい道を開いた。

 日本の受賞は19人目で2010年以来。医学生理学賞は利根川進さんに次ぎ25年ぶり2人目。共同で受賞するのは英ケンブリッジ大のジョン・ガードン教授(79)。授賞理由は「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」。経済危機の影響で今回から2割減額された賞金800万スウェーデンクローナ(約9400万円)は2人で分ける。授賞式は12月10日、ストックホルムである。

 神経や皮膚など様々な細胞は1個の受精卵から分かれてできる。受精の直後は体のあらゆる細胞になる「万能性」をもつが、特定の役割を持つようになると、元の状態に戻る「初期化」はしないと考えられていた。

 山中さんらはこの生物学の常識を覆した。突破口を開いたのが、ガードンさん。1960年代に脊椎(せきつい)動物で初めて体細胞からクローンを作製。オタマジャクシの体細胞から核を取り出し、核を除いた未受精卵に入れると初期化されることを突き止めた。

 山中さんは、難しい核移植をしなくても、初期化できることを発見した。06年8月、マウスのしっぽから採った体細胞に四つの遺伝子を導入することで、様々な細胞になりうる能力をもつiPS細胞を作ったと発表した。07年11月にはヒトの皮膚の細胞でも成功したと発表。すでに特定の役割を持った体細胞を再び受精卵のような万能の細胞に戻す常識破りの成果だった。

 それまで「万能細胞」の主役だった胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は、受精卵を壊して作る必要があり、受精卵を生命とみる立場から慎重論もあった。ヒトiPS細胞はこうした倫理的な問題を回避できる。

 iPS細胞は、新薬開発への応用が期待されている。アルツハイマー病やパーキンソン病など様々な病気の患者の細胞からiPS細胞を作り、神経や肝臓などの細胞に分化させ、薬の候補になる薬剤をふりかければ、効果があるのか、毒性がないのか、調べることができる。

 また、将来的には再生医療の実現への期待も大きい。iPS細胞から神経幹細胞を作って脊髄(せきずい)損傷の患者に移植したり、心筋細胞を心不全の患者に移植したりして、病気を治す再生医療の実現に向けて世界中で研究が進んでいる。

■山中さん「日本という国が受賞」

 《山中伸弥さんの話》 名目上、私に贈られたことになっているが、日の丸のご支援がなければ、こんな賞は受賞できなかった。大きな支援をいただき研究を発展させることができました。まさに日本という国が受賞した賞だと感じています。

 喜びは大きいが、責任を感じます。iPS細胞は医学や創薬において大きな可能性がありますが、まだ実際に役立っていません。

 来週からは研究に専念したいと思います。論文も早く出さないといけません。それが私の仕事、この賞の意味でもあると思います。

 ガードン先生と同時に受賞させていただく、それが一番うれしい。これからの私の研究者としての人生に大きな意味を持っています。ガードン先生は現役の研究者として活躍しているので、私も頑張っていきたいと思います。

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 〈山中伸弥氏〉やまなか・しんや 1962年、大阪府生まれ。神戸大医学部卒業後、87年から整形外科の臨床研修医として勤務したが、基礎研究の道を志し大阪市立大大学院医学研究科へ。米グラッドストーン研究所に留学し、研究者としてのトレーニングを積んだ。99年に奈良先端科学技術大学院大助教授となりiPS細胞の開発につながる研究をスタート。2004年に京大再生医科学研究所教授になり、06年にマウスでiPS細胞を作製、07年にヒトでも成功と発表。08年に京大iPS細胞研究センター長、10年に京大iPS細胞研究所長に就いた。朝日賞やラスカー賞、ガードナー国際賞、ウルフ賞、恩賜賞・日本学士院賞、京都賞など受賞。

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 〈ジョン・ガードン氏〉 1933年英国生まれ。英オックスフォード大卒。62年、オタマジャクシの細胞の核を、あらかじめ核を抜いた卵に移植すると、受精卵のような多能性をもつようになり、核が初期化することを示した。現在は英ケンブリッジ大教授。ウルフ賞、ラスカー賞など受賞。

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 《iPS細胞》 皮膚や髪の毛などの細胞を操作して、心臓や神経、肝臓など体のさまざまな細胞になれる能力を持たせた。一定の条件で培養すれば、無限に増やすことができる。様々な細胞になる「万能性」は、1981年に作られた胚性幹細胞(ES細胞)と同じだが、受精卵を壊して作るES細胞と違って、倫理的な問題を避けられる。induced Pluripotent Stem cell(人為的に多能性を持たせた幹細胞)の頭文字で、山中伸弥教授が名付けた。