智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

夏目漱石の小説「草枕」の有名な冒頭のくだりですね。没後100年になろうとする漱石の当時の世情に対する所感。それは今に到っても同様のありようだと思えます。

1月19日、米軍普天間飛行場の辺野古移転を主な争点とした名護市長選の幕が閉じた。最終の開票結果は、辺野古移転阻止を訴える現職の稲嶺進氏が19839票を得て、自民・公明推薦で移転推進派の末松文信氏の15684票を、4000票以上の大差で上回り、再選を果たした。(IWJ)

名護市長選の投票率は76.71％。今回の市長選にかける名護市民の思いが伝わってきます。メディアは、名護市長選を米軍基地の是非という争点で煽りました。投票総数35523票。得票率は稲嶺進氏55.8%、末松文信氏44.2%。

この結果は果たして大差と言えるのだろうか？争点は名護市辺野古移設問題だけだったのか？メディアはその辺のところをきちんと分析すべきではないか？争点を単純化することは一見わかりやすいけれど、名護市が直面する課題はそれほど単純ではないはず。・・・と私にはそう思えます。

原発を巡るエネルギー政策、中韓対日批判問題、領土問題、沖縄普天間基地移設、消費税問題、社会保障問題、TPP、少子高齢社会それに伴う生産労働人口の減少等々・・・いずれも世論を二分する目下の日本の課題。

このような日本の現状に対して、その首都・東京の知事選。メディアは、この争点を原発の是非にしたいようですが、これは名護市長選と同じ構図。7年後に迫る東京五輪、そこへ向けての「おもてなし」のインフラ整備は大丈夫なんでしょうか？いつ来るとも知れぬ天災への対応はどうでしょう？

100年前に漱石が言ったように、この世は、ままならない。「儘ならない」とは、十分でない、思い通りでない、といった意味ですね。

漱石は、講演で現代日本の開化は「皮相上滑りの開化」であると指摘しながら、「それは事実やむを得ない、涙を呑んで上滑りに滑って行かなければならない」と述べています。

猪瀬さんの5000万円の授受を問責して退陣に追いやった都議会。その結果50億円をかけて新たな都知事を選ぶことになりました。猪瀬さんの身から出た錆を東京都民は50億円投じて購入したことになります。

日本人が政治に清廉を求めるようになって、日本の政治家は小粒になったような気がします。「清濁併せ呑む」は、かつてはトップの心持に一つでしたが、今は国民の方にそれが求められるときだと、私は思います。

「ままならない」ときのこころの持ちよう～夏目漱石の諦念に想いを馳せながら～