リオ・ブルーの三番街表通り。ここはまだ芝生が残っている。空も一段と青が綺麗に見えるし、空気も心なしか澄んでいるような気がする。何より機械的な雰囲気を帯びていない。実に自然的で、快適で、居心地がいい。しかし今はそれどころではない。
僕は馬鹿な幼馴染を探している。その馬鹿は少しでも目を離すとすぐどこかへ消えてしまって、一番仲が良いとか席が三年連続で隣だとか不運にも幼馴染だとか、いわゆる彼女と腐れ縁である僕が、教官に命じられてその馬鹿を探さなくてはならないのだ。おまけに彼女は極度の方向音痴で、好奇心からいろんなものにすぐ飛びつく傾向があるが、道に迷って帰って来れなくなる究極の馬鹿なのである。本当に馬鹿だとしかいえない。馬鹿以外に彼女に相応しい表現があるのならぜひ教えて欲しい。僕は別に彼女が永遠に帰ってこなくたってまったく問題ないのである。むしろ静かに講義が聞けて嬉しいくらいだ。
それでもなんだかんだで彼女を探しに行ってしまうあたり、まだ僕は優しい人間だった。クラスの連中なんて、彼女がどこかへ消えても知らぬ顔。さすがは他人に興味なしのエリートがそろった学校なだけある。
ふらふらと歩いて彼女が好奇心に目を輝かせてしまうようなものを探していると、見慣れた小さな後姿を前方にみつけた。あのひょこひょこ弾むような歩き方は僕が知る限り彼女で間違いなし。
僕は目標地点まで黙々と歩き、道に迷って困っている様子の彼女に声をかけた。
「こんにちは、迷子さん」
「おお! リル! こんなところで奇遇だね!」
案の定、期待を裏切らない返答が返ってきた。ほんとに馬鹿。
「申し訳ないけど無駄口叩いてる暇があるなら僕についてきて」
「はい? リル、なんか怒ってる?」
「怒ってないよ」
出来る限りの完璧なスマイルでそう返して、僕は彼女の透き通るような淡いライトブルーの瞳を見つめた。ノア。それが彼女の名前だ。馬鹿には似合わない、綺麗な名前。僕がノアに始めて出会ったのは五歳の誕生日。否、もっと前に出会っていたのかもしれない。幼いころの記憶なんて誰でもぼんやりとしてはっきりしないものだ。
ノアは耳の上で二つに結った短いツインテールをゆらゆらと揺らしてあたりを見回している。ここは毎朝二人で歩いている通学路だ。無論、彼女は僕の後をついてきているだけなので、道なんて頭にないのかもしれないけれど。
「いつも通ってる道くらい覚えたら?」
「覚えてるよ! あそこのアイスクリーム屋さんはミルキーバニラソフトが美味しくて、あっちのケーキ屋さんは木苺ムースのキャンディ包みが絶品なの!」
「……おまえって食べ物のことしか頭にないよね」
うん!
自信満々に頷くノア。皮肉も通じないなんてある意味最強だ。どんな攻撃も彼女には効かない。こうやって迎えに来てあげたって、お礼の一つもないし。ノアにとっては当たり前のことなのだ。他の誰もおまえのことなんて興味ないのに。
「リル!」
気がつくとノアが僕のことを呼んでいたようで、ライトブルーの宝石みたいな瞳でじっとこちらを見ていた。
「なに」
「昨日のね、作文の課題!」
「うん」
「リルのこと書いたよ!」
思わず息を呑んだ。
昨日の作文の課題。お題は家族や恩師に対する感謝の気持ちを原稿用紙一枚にまとめるものだ。僕はじつに流暢な文章で嘘を書いた。お父さんもお母さんも大好きで、兄のことも慕っているって。なのに。
「わたし親いないから、じゃあリルでいいじゃん! って!」
「……じゃあってなに。なんか腑に落ちないんだけど」
どうして素直になれないんだろう。ノアが親の次に思い出してくれたのは僕なんだ。その事実に、素直に喜びたいのに言葉にはできない。幼馴染って一番近いようで一番遠くて。そして一番愛を、伝えられない。
「リルがいなかったらわたし迷子になっちゃうからね! いつも感謝してるよ!」
「はいはい、無駄口はいいから帰るよ」
「はーい」
ふらふらとあちこちに気を引かれているノアを引っ張りながら、商店街を抜ける。今ではもうリオ・ブルーでしか見られない光景だ。今度の課外授業のときにアクア・セプタの中央街に行くらしいけれど、地元でもこれなのだ。きっとノアはまた迷子になって僕が探しに行くことになるだろう。でも次はそうなる前に、僕がずっとノアのそばにいればいいのかなって、そう思った。
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すごくひさしぶりに文章を書いたせいで感覚がつかめない。