4月21日(火)、マリンメッセ福岡にて2009年のK-1 MAX 世界トーナメントが始まりました。先日、魔裟斗選手が今年限りでの引退を表明し、トーナメントへの不参加の意向を示しました。そういったこともあり、魔裟斗選手が抜ける穴は誰が埋めるのかといったことに焦点が当てられがちでしたが、魔裟斗選手が不在ということを忘れさせるような激しくレベルの高い試合もありました。

最も印象的な強さを見せたのがキシェンコ選手。以前に比べて腕から背中にかけての筋肉が明らかに発達していることが伺えました。より強力なパンチを身に付けたことが一目で分かる体つきでした。試合内容もパワーアップしたことを証明するには十分すぎるもので、相手のリマ選手に何もさせないまま1RでKO勝ちを収めました。リマ選手も決して弱い選手ではなく、パワーもありそうな選手でしたが、キシェンコ選手が力でねじ伏せるかたちとなりました。

また、下馬評通りの強さを見せ付けたのがペトロシアン選手。アスケロフ選手の攻撃のほとんどを受け流し、徐々に追い詰め、3Rにボディへの膝蹴りでKO勝ちを収めました。ペトロシアン選手はキシェンコ選手とはタイプの違う強さを見せ付けました。キシェンコ選手の強さを“剛”とするのであれば、ペトロシアン選手の強さは“柔”といったイメージでした。そのテクニックの高さは、強いというよりも、巧いという表現の方が当てはまるのかもしれません。

少し気の早い話かもしれませんが、2009年のK-1 MAX世界トーナメントはキシェンコ選手とペトロシアン選手が鍵を握りそうな気もします。

山本優弥選手は接戦の中でバックハンドブローを当てて、イム・チビン選手から判定勝ちを収めました。山本選手は前回の日本代表決定トーナメントを通じて一皮剥けたような印象を受けました。山本選手にとってチビン選手は厳しい相手かと思っていましたが、チビン選手の強い精神力にも山本選手の気持ちは折れることなく、ベスト8への切符を手にしました。

コスプレファイターとして話題の自演乙選手は、クラウス選手と対戦しました。自演乙選手は気持ちも強いですし、良い選手だと思いますが、クラウス選手レベルの選手と試合をするのは時期早々だと思っていました。その悪い予感は的中し、自演乙選手はクラウス選手の前に失神KO負けを喫してしまいました。ます自演乙選手とクラウス選手の体格差が歴然としていました。自演乙選手は、今後K-1 MAXで世界の強豪と互角に戦っていくには、フィジカルの面でもきちんと作っていく必要がありそうです。打ち合いになれば自演乙選手にもチャンスがあると言われていましたが、それはもちろんハイリスク・ハイリターンという前提でした。自演乙選手はやや顎が上がり気味なので、そこにクラウス選手のパンチを貰ってダウンを喫してしまいました。ダウンを奪われましたが、まだ打ち合おうという気持ちの強さが仇になり、クラウス選手のパンチの餌食となってしまいました。自演乙選手はまだまだ若いので、この経験を糧にして強くなってほしいと思います。一方のクラウス選手は、非常にコンディションが良さそうで動きもシャープでした。今年のクラウス選手はかなり強いかもしれません。

元シュートボクセのジダ選手と対戦したブアカーオ選手は、1R早々ジダ選手の大振りのフックを貰ってしまいます。起き上がりはしたものの、足元はふらついていて、その後もパンチを被弾するシーンが目立ちました。このままブアカーオ選手がKO負けしてしまうように思いましたが、ジダ選手の攻撃を凌ぎ、徐々にペースを握り始めました。一度ペースを握り始めたブアカーオ選手は手のつけられないほどの攻撃を見せ、執拗にジダ選手のボディへと膝やパンチを畳み掛けました。1Rのダウンが採点に響いたのか、延長までもつれたものの、最後はブアカーオ選手が圧巻の判定勝ちを収めました。

魔裟斗選手が一度も勝てていないサワー選手は、オランダの新鋭ケスナー選手と対戦しました。サワー選手は1Rで2度のダウンを奪い、試合終了も時間の問題かと思われましたが、ケスナー選手も精神力の強さを見せ、試合は最後の判定までもつれました。サワー選手が磐石の強さを見せ勝利したものの、ケスナー選手の精神力も見事でした。若干20歳の選手が1Rに二度もダウンを奪われれば、気持ちが切れてしまうようなこともありそうですが、決してあきらめることなく最後まで戦い抜きました。

地上波放送はなかったのですが、ホルツケン選手VSシャヒッド選手は、ホルツケン選手が判定勝ちを収めたようです。





今大会はメインの試合でどんでん返しがありました。魔裟斗選手引退後に日本人としてK-1 MAXを引っ張っていこうと意気揚々であった佐藤選手がまさかの判定負けを喫してしまいました。佐藤選手のローを受け続けながらも前に出続けた、対戦相手のドラゴ選手の精神力も物凄かったのですが、まさか佐藤選手がここで星を落とすとは思いませんでした。佐藤選手の敗北を予想した人は、あまりいなかったのではないでしょうか。試合内容の方もやや守りに入っているように感じました。もちろん佐藤選手も攻めてはいるのですが、ほとんどは懐の深さを活かしたローキックのみで、最近見られたような鋭いパンチはほとんど見られませんでした。昨年度はブアカーオ選手と打ち合いKOしたり、魔裟斗選手からダウンを奪うなど、そのファイトスタイルにも力強さが見られ、大変身した佐藤選手でしたが、今回の試合をみるとK-1 MAX参戦当時の頃に戻ってしまったような印象を受けました。最後は本人も理解できないスタミナ切れを起こしていたようです。佐藤選手の敗因は定かではありませんが、やはり大晦日に魔裟斗選手と対戦することを意識しすぎたこと、先を見すぎてしまったことが一つにあると思っています。もちろん本人は油断してはいないと思うのですが、無意識に勝てる相手と思い、心の隙があったのかもしれません。または、あまりに自分が優勝しなくてはいけないという想いが重荷になってしまい、体が重くなってしまっていたのかもしれません。もしかすると、そういった精神面での弱さが、魔裟斗選手や他の王者となった外国人選手との差なのかもしれません。この敗戦により、佐藤選手は魔裟斗選手との再戦が難しくなりましたが、まだ0%になったわけではないので、腐らずに奮起して欲しいと思います。



ベスト8の対戦カードが既に決まっています。

ドラゴ選手(アルメニア/チームSHOW TIME)
山本優弥選手(日本/青春塾)

ジョルジオ・ペトロシアン選手(イタリア/サトリ・グラディエートリウム・ネメシス)
アルバート・クラウス選手(オランダ/チーム・スーパープロ)

アンディ・サワー選手(オランダ/シュートボクシング オランダ)
アルトゥール・キシェンコ選手(ウクライナ/キャプテン オデッサ)

ニキー“ザ・ナチュラル”ホルツケン選手(オランダ/ゴールデングローリージム)
ブアカーオ・ポー.プラムック選手(タイ/ポー.プラムックジム)


今大会ではキシェンコ選手とペトロシアン選手が強さが印象的でしたが、そのキシェンコ選手と対戦するサワー選手もここ一番で驚異的な底力を発揮するタイプです。誰が勝ち抜くのか全く予想がつきません。クラウス選手も気になるところです。自ら進んで強豪ペトロシアン選手との対戦を選びましたし、最近のクラウス選手はかなりの自信に満ち溢れていて、ある種のオーラのようなものを感じます。また、ジダ選手との試合では危ないシーンもあったものの、ブアカーオ選手の強さも依然健在だと思います。7月の大会は、誰が勝ち抜くのかの予想がつきにくい分だけ、面白い大会となりそうです。7月の準々決勝も魔裟斗選手のトーナメント不在を忘れさせてくれるような、激しく熱い試合を期待しています。




*城戸選手の試合動画です。