遅ればせながら、K-1 MAXの感想です。

やはり印象的であったのは、準決勝の魔裟斗選手VS佐藤選手、決勝戦の魔裟斗選手VSキシェンコ選手です。

予想通りの熱戦となりましたが、中でも魔裟斗選手の闘志には目を見張るものがありました。人間の精神が肉体を凌駕する瞬間を観たと思います。魔裟斗選手の戦いっぷりは、もはや理屈では説明の出来ない類のものでした。

準決勝の佐藤選手との試合では3Rでダウンを奪われながらも、延長戦に持ち込んでの勝利。並みの選手、それどころか、強豪選手でもあの場面でダウンを取られてしまえば気持ちが折れてしまうと思います。佐藤選手も気持ちの強い選手でしたが、魔裟斗選手のどうしても優勝しなくてはならないという想いが、佐藤選手のそれを上回っていたのかもしれません。判定に関して、多くの物議を醸していますが、魔裟斗選手の闘志が伝染して延長戦まで試合を引き伸ばしてしまった部分もあると思います。

佐藤選手も延長戦の末、敗れはしましたが、魔裟斗選手と同様に世界のTOP選手であることを証明しました。もう日本人No.2という肩書きで呼ばれる必要はないと思います。佐藤選手は試合を重ねるごとに進化を見せてくれるファイターです。この魔裟斗選手との試合での敗戦と経験が、更に佐藤選手を強くすることになると思います。

私は佐藤選手との試合であそこまでの熱戦を演じてしまった魔裟斗選手は、決勝戦で負けてしまうことを予想していました。いくらアスリートとはいえ、人間があそこまで心と体を限界まで酷使した後に、まともに試合が出来るとは思えませんでした。

そのような予想とは裏腹に、決勝戦も準決勝に勝るとも劣らない激戦でした。準決勝に続き、2Rで魔裟斗選手はダウンを喫してしまいます。この日、2度目のダウンとなったためダメージも深刻なもののはずでした。しかし、準決勝と同じように信じ難い気持ちの強さを見せつけ、延長戦まで持ち込み勝利をモノにしました。

キシェンコ選手は敗れはしたものの、その成長振りを評価する声が多く聞かれています。私はキシェンコ選手は元々体の強さ、技術に関しては申し分ないものを持っている選手だと思っていました。今回、目に付いたのは精神面での成長でした。昨年のグランプリの時よりも、精神面が比較にならないほど成長していました。魔裟斗選手の気迫は鬼気迫るものがありましたが、それに臆することなく熱戦を演じました。昨年度は逆に魔裟斗選手の気迫に呑まれてしまったいましたが、この短期間で気持ちをここまで強く出来たのは凄いことだと思います。来年からは間違いなく優勝候補の一角として、トーナメントに出場することになると思います。


選手達のお陰で素晴らしい大会となったK-1 MAX2008決勝ラウンドでしたが、一つのジレンマを露呈した大会だと思います。魔裟斗選手の試合を巡る判定も、その一つです。もう既に多くのメディアやブログで、この判定については意見が交わされているので、敢えてここでそのことについて言及することは避けたいと思います。しかし、常に主催者側には魔裟斗選手に優勝して欲しい、勝って欲しいという意向があったのは確かであり、常に魔裟斗選手はその期待に概ね答えて来てしまいました。魔裟斗選手を売り出すことでスタートしたK-1 MAXでしたし、一つの興行が発展するためにはスター選手が必要不可欠なので当然といった部分もあると思います。格闘技というジャンルにおいて、強い日本人選手というのも非常に貴重です。しかし、それ故魔裟斗選手以外のスター選手を育てることを怠ってしまった部分があると思います。K-1のヘビー級は、世代交代に失敗しているとの批判もありますが、スター選手の育成と言う部分においては巧く行っているのかもしれません。K-1ヘビー級では幸か不幸かカリスマ的に強い日本人選手の出現がなく、結果的に外国人選手に頼らざるを得ない状況でした。そこでアンディ・フグ選手、ピーター・アーツ選手、ジェロム・レバンナ選手、マイク・ベルナルド選手、アーネスト・ホースト選手、そしてバダ・ハリ選手などのスター選手を産み出すことに成功しました。それ故、K-1では例えばホースト選手が引退したからといって興行の致命傷になるようなことにはなりませんでした。

今のK-1 MAXは魔裟斗選手に頼りすぎていて、且つ魔裟斗選手が見事その期待に答えて来てしまっているため、魔裟斗選手が抜けると壊滅的な状態となってしまいそうです。魔裟斗選手の口からは、うっすらと進退をほのめかすような発言も聞かれるようになりました。自身が抜ければK-1 MAXが不味い状態になると自覚した上で、明言を避けているのかもしれません。K-1 MAXも魔裟斗選手以外のスター選手の育成に本格的に着手するタイミングに来ているのかもしれません。