「なんで押したって分かるんですか?」
「スイッチ・・・ないじゃないですか」
「おかしくないですか?スイッチのことは何も分からないんじゃ?」
「いいんですよ、そんなことは」
「は?」
「全く・・・・あれだけ押すなって言ったのに・・・・」
「説明して下さい!夫はどこに行ったんですか!」
まるでこけにでもしているような態度の高橋に、妻は詰め寄る。
「いますよ、ここに」
「ここって・・・・・居ないから探してるんです!」
「まあ、正確にいいますとこの中ですね」
高橋はスイッチのあった壁を、まっすぐ指差した。
「壁・・・?」
「ええ、この中です。実はこのスイッチ当社が設置したシェルターのスイッチなんですよ」
「シェルターって普通地下とかじゃ・・・・」
「普通だとそうですね、ですがここは世界初の、シェルターがあるアパートなんです」
聞きたいことは山ほどある妻だが、予想すらもしていなかった高橋の言葉に、妻の思考は
混乱していた。
そもそも壁から隣の部屋までの距離は、人が一人やっと入れるスペース。
そんなとこにシェルター?
シェルターとは空気が汚染され、外に出られない場合の避難場所。
通常ならば最低でも2年は過ごせる環境を整えなければならない。
こんなに狭いスペースで2年も過ごせるだろうか?
いや、とても考えられない。
大体ここは2階である。建物が崩れたらどうするのだろうか?
「そんな話信じると思ってるんですか?」
「信じなくても結構ですよ。このシェルターは欠陥品でしてね、ほんとは住人の方には知られちゃいけなかったんです」
「じゃあ、前の住人の話も嘘・・・?」
「いえ、あれはほんとです。このシェルターの欠陥というのがですね、中がちょっと特殊でして、入ったら二度と戻ってこれないんですよ」
「・・・いいかげんにしてください!さっきからでたらめばかり!もういいです、警察に通報します」
妻はポケットから携帯電話を取り出す。
「だったら押してみて下さいよ」
今まさに電話を掛けようとした妻の手が止まり、再び高橋へと視線を戻す。
「気づいてるんでしょ?もう一つスイッチがあること」
妻は無意識にキッチンへと目をやる・・・・
つづく