亞洲魔鬼 Asian Devil
アジア各国の映画を、かなり偏った趣味で紹介しています。
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チャウ・シンチー 旧作3連発

dark  hakai  chinese  


回魂夜 Out of the Dark (香港版DVD)
破壊之王 Love on Delivery (香港版DVD)
チャイニーズ・オデッセイ 西遊記 I & II (香港版DVD-BOX)

 チャウ・シンチー(周星馳)の名作3作がリマスター版DVDでリリースされました。しかも、「回魂夜 Out of the Dark」と「破壊之王 Love on Delivery」はDVD、VCDともに長年廃盤となっていた作品。DVD化を待ちわびていたファンも多いことでしょう。そして「チャイニーズ・オデッセイ」2部作は、ブックレットなどが付いた高級感あふれるHDリマスターDVDボックスで、しかも日本語字幕付き。なんてことでしょう。字幕のクオリティーは、まだ未確認ですが…。(←確認しました。昔出ていた香港版の日本語字幕と同じく、明らかにネイティブではない人による変な日本語でした…。でも一応意味はわかります)
 
 「回魂夜」は、恐怖心がまったくないために精神病院に入れられている男(またこれだよ…日本じゃ公開できねえっつの)と悪霊がバトルを繰り広げるというホラー・コメディ。ジャケ写をご覧いただければわかる通り、ジャン・レノの「レオン」を思いっきりパロってます。マチルダにあたる役を演じるのは、名作「食神」でのブス・メイクが印象的なカレン・モク(莫文蔚)。星爺は、劇中ほぼずっとサングラスをかけて深々と帽子をかぶり、さらに途中からは出っ歯の入れ歯を装着。そんな長渕剛のようないでたちで、わけのわからないことを機関銃のようにしゃべりまくってます。オープニングなんかは結構不気味で、シンチー映画の中でもかなりの異色作といえるでしょう。でも、旺角のDVD屋の店頭で、一足先に発売されたVCD版が流されていた時は、ちょっとした人だかりができていました。やはり香港のシンチー人気はすごい。


 「破壊之王」は、日本の漫画「破壊王ノリタカ!」を無断で映画化したと言われている作品。喧嘩のケの字も知らないひ弱なシンチーが、好きな女の子のために強くなっていくという直球スポ根コメディで、アクションもできるセクシー女優・クリスティ・チョン(鍾麗[糸是])がヒロインを務めています。“おっちゃん”ことン・マンタ(呉孟達)が、ブルース・リーやジャッキー・チェンと一緒に写っている合成写真を自慢げに見せびらかす、果てしなく怪しい自称・中国古拳法の達人を好演。最初から最後までとびっきりチープな作りですが、かなり笑える作品です。

 「チャイニーズ・オデッセイ」は、アクションあり、タイムスリップあり、大恋愛あり、そして無厘頭(モウレイタウ:意味ねーギャグ)ありの、まったく新しい解釈による西遊記。全2部からなる大作で、こちらにもカレン・モクが出演。このほか、可愛らしいのに何故かブレイクすることのなかったアテナ・チュウ(朱茵)常連・マンタのおっさんも出てます。いつもはお約束のズラネタでシンチー映画を彩っているロー・ガーイン(羅家英)が、今回は三蔵法師役のため最初からつるっパゲで登場。広東オペラ仕込みの自慢の喉で、エルヴィス・プレスリーの「オンリー・ユー」を熱唱します。第1部「月光寶盒」は抱腹絶倒のコメディタッチ、第2部「仙履奇縁」はラブストーリー中心で、ラストには意外とジンとさせられるという、なかなかの逸品です。人物の相関関係がかなり複雑で、一度見ただけではよくわからないのが難点といえば難点ですが、かなりの傑作だと思います。


黒白道 On The Edge

edge

 長年マフィア組織に潜入していた刑事が、任務を終えて警察に戻ってきたら…という、「インファナル・アフェア(無間道)」のその後を描いたような作品。お手軽な中国語タイトルの上に、キャストは先日劇場で観たジョニー・トー監督の最新作「放・遂 Exiled」とかぶりまくり。もしや、流行りものをごちゃまぜにしたバリー・ウォン風味の駄作か?と一抹の不安がよぎりましたが、これがなかなか味のある良い作品でした。


 マフィア組織の大ボスDarkが逮捕され、ついに8年間の潜入捜査を終えたホイ刑事。めでたく通常の勤務に戻った彼だったが、長年の潜入で培われた与太公ぶりが功を奏して、署の中で浮きまくっていた。同僚たちも、何やら彼を警戒している様子。ともに働くことになったロン刑事はたいそう冷たく、まったくホイを信用していなかった。潜入捜査中にできた彼女も、彼が刑事だと知ってからは会おうともしない。居場所がなくなって警察とやくざの間をウロウロしているうちに、ホイはある人物の仕掛けた罠にはまってしまう。


 主人公のホイ刑事(英語字幕ではハリー)を演じるのは、ジョニー・トーの「黒社會 」で、登場するなり陶器のレンゲをバリバリと食して観客の度肝を抜いたニック・チョン(張家輝)。「ブレーキング・ニュース(大事件) 」あたりからすっかりトー作品の常連となり、コメディからハードボイルドにうまく路線変更した彼が、アイデンティティを失って次第に暴走してゆくホイを地味に好演してます。

 ロン刑事に扮するのは、アンソニー・ウォン(黄秋生)。前半のイヤな奴っぷりは流石ですが、終盤はちょっとベタだったような気が。そして、ホイが潜入していた組織のボスDark(すごいあだ名)をフランシス・ン(呉鎮宇)が演じています。個人的には、秋生さんと鎮宇さんの役を逆にして欲しかったです。最近、2人とも同じような役ばかりなので。監督は、秋生さんを影帝にしたアノ問題作「八仙飯店之人肉饅頭 」のハーマン・ヤウ(邱禮濤)。メイキングで顔見たら、暗そうな人でした。


「黒白道」 香港版DVD (リージョンALL)

「黒白道」 香港版VCD



瘋狂的石頭 Crazy Stone

crazy   「香火~インセンス」(2003年)で東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞し、「モンゴリアン・ピンポン(緑草地)」(2005年)も東京国際映画祭で好評を博した中国の新鋭ニン・ハオ(寧浩)監督による最新作。イケメン・スター皆無(というかむしろオッサンばっか)の低予算映画にも関わらず、中国国内で想定外の大ヒットを放ったブラックコメディです。

 重慶のとある工芸品工場で見つかった高価なヒスイをめぐって、窃盗団と警備員が激戦を繰り広げる…と書くと、かなりベタなドタバタ・コメディのように聞こえますが、ストーリーの練り方が半端ではございません。細かいエピソード群が枝葉を伸ばしながら二転三転してゆく展開に、オープニングからグイグイと引き込まれます。

 その物語を織り成すのは、見事にキャラ立ちした華麗なるおっさんたち。工場長からヒスイの警備を任せられた社員を演じるのは、出演者の中で唯一名の知れた俳優 グオ・タオ(郭涛)。彼の登場シーン(at 泌尿器科医院)は秀逸です。ちょっとした目の表情&前立腺からの雄叫びで、観客の期待を一気にレッドゾーンまで高めます。彼に対抗するのは、地元のチンケな窃盗団、香港からやってきた国際手配中の大泥棒(マヌケ)、朝から晩まで婦女子の尻を追いかけ回している工場長の放蕩息子(若いんだろうけどおっさん顔)などなど、ボンクラ度のかなり高い面々。彼らの張りめぐらせる伏線が次々と繋がり、ブラックな笑いが完成してゆく流れが大変楽しいのでございます。オーシャンズ11+パルプ・フィクションとでも申しましょうか。中国の人にしかわからない時事ネタもいくつか盛り込まれているようで、それが理解できたらもっと笑えるのだろうなあ、と悔しい思いでいっぱいでございます。

 映像や音楽も◎。コミカルかつクールなカット割りに小気味のいい編集、中国の伝統楽器をうまく盛り込んだ効果的なサウンドトラック(ファンキー末吉が担当)で、かなりポップな仕上がりとなっています。これはぜひ多くの人に観ていただきたい逸品です。大陸映画、やはりあなどれません。

香港版DVD
香港版VCD

狗咬狗 Dog Bite Dog

dbd   残忍なカンボジア人の殺し屋荒くれ暴力刑事の死闘を、三級片印のすさまじいバイオレンス描写でつづったアクション・サスペンス。

 殺し屋パンを演じるのは、「インファナル・アフェア(無間道)」シリーズや「頭文字D」などで日本でも人気急上昇中のエディソン・チャン(陳冠希)。甘いマスクで婦女子のハートをわしづかみにしている彼が、髪も眉毛も黄色に染め、浅黒い肌に泥を塗りたくったようなワケのわからない小汚い姿で、狂犬のような危険極まりない男を演じています。台詞はほとんどなく、あってもカンボジア語で怒鳴るのみ。それがまた、異様な凄みを醸し出しています。子供の頃から、賭けボクシングのボクサーとして闘犬さながらに育てられたという設定がジェット・リーの「ダニー・ザ・ドッグ」と若干かぶりますが、狂度はこちらの方が断然上。登場人物をバンバン、ザクザク、グシャグシャと殺してゆきます。しかし、逃走の途中である少女と出会い、彼にも若干の人間らしさが現われはじめ…。


  対する刑事を演じるのは、「メイド・イン・ホンコン(香港製造)」のサム・リー(李燦森)。このところ、悪ノリB級コメディや安っぽいホラーばかりに出演して香港映画ファンをやきもきさせていた彼が、久々に気合の入った無骨な役柄を三白眼で熱演しています。彼が演じるワイは、父親との確執が原因でやさぐれている不良刑事。「その男、凶暴につき」の我妻刑事よろしく、怪しい奴には問答無用で殴る蹴るの暴行を加えまくり、上司の命令も完全シカトで周囲をドン引きさせています。そんなはぐれ刑事激情派の彼も、同僚がパンに殺される度にその狂度をグングンと高めてゆき、最後はカンボジアまで飛んで「ディア・ハンター」のクリストファー・ウォーケンばりの殺気をビンビンに放出しながらクライマックスに突入。もう刑事どころか人間でさえない、妖怪のごとき姿となってパンを地獄の底まで追いかけてゆきます。


 とにかくテンションの高い作品で、最初から最後まで気が抜けません。目を覆いたくなるようなバイオレンス・シーンも少なくないですが、予想していたほどではありませんでした。監督はホラー作品が得意なソイ・チェン(鄭保瑞)。東京国際映画祭 のコンペ部門に出品されるそうなので、ご興味があればぜひ。

 
香港版DVD 2枚組特別版
通常版

癲[イ老]正傳 The Lunatics

luna 最近、「ワンナイト・イン・モンコック(旺角黒夜)」、「忘れえぬ想い(忘不了)」 が日本公開され、いずれもなかなかの評判を得たイー・トンシン(爾冬陞)監督。元々俳優だった彼の監督デビュー作が、1986年に制作されたこの作品です。「狂人物語」みたいな意味の直球タイトルを冠した本作は、精神病患者と彼らの世話をするソーシャルワーカー、そして彼らについてのルポを執筆しようとする女性記者の姿を、ひたすら暗いタッチで描いた社会派ドラマ。「五福星」のヒゲでおなじみフォン・ツイファン(馮淬帆)&「サイクロンZ」でのサモ・ハンの相手役で知られる(?)デニー・イップ(葉徳嫻)という渋い2人が主演を務め、かなりいい演技を見せてくれているのですが、それをふっとばす注目キャストが、チョウ・ユンファ(周潤發)トニー・レオン(梁朝偉)。ブレイク前の彼らが、今じゃありえないような役柄を熱演(怪演)しています。出番は少ないですが。

 この作品では、ソーシャルワーカーたちや家族の苦悩、周囲の人間による患者への差別などが描かれていて、観終わったあとにいろいろ考えさせられました。今の香港にはあまりないタイプの、メッセージ性の強い良い作品だと思います。がしかし、とにかく患者たちの描き方が極端。皆いわば奇人・変人に近いキャラ設定で、何かあるとすぐ凶暴になっちゃう。このステレオタイプっぷりが、なんとも香港っぽいというか…。クライマックスシーンは、正直へたなホラーより全然恐ろしい展開となっています。これでは、「この映画は“精神病患者を刺激すると周囲に危害を加える恐れがあるので、十分に注意しましょう”ってことが言いたいのか?」という誤解を生みかねません。そんなこんなで、公開当時は福祉団体などから抗議されたりしたようです。もちろん日本では公開されていません。私個人的には監督の言わんとすることを勝手に理解したつもりではいますが、まぁいずれにせよ劇中のバイオレンス描写にはかなり衝撃を受けました。

 いやー、しかし「ワンナイト~」といい「忘れえぬ想い」といい「早熟」(ジャッキー・チェンの息子が主演)といい、イー・トンシン監督の作品はいろんな意味で心に残りますなー。

香港版VCD(ニューバージョン)


龍虎門 Dragon Tiger Gate

dtgate  功夫大将ドニー・イェンのガチンコ・アクション大作。前作「SPL/ 狼よ静かに死ね 」では、重鎮サモ・ハンや大陸のマジもの武術家ウー・ジン極速)たちを相手に、香港アクションファン感涙のド迫力ファイトを見せてくれたドニーの新作です。さらに監督が、「SPL」に引き続きウィルソン・イップとあっては、期待せざるを得ません。

 この作品は、70年代から続いているという格闘漫画の実写化。ゆえにアクションは、小生が期待していた「SPL」のような李小龍直系のリアルファイトという感じではなく、CG&ワイヤーを多用したエンターテイニングかつ荒唐無稽気味なもの。もちろんドニーさんの動きは相変わらずキレまくりなので、この時点で動作片ファンの必須科目であるわけなんですが、ストーリーはというと、何だか「カンフー戦隊 龍虎門」といった趣の極めてチャイルディッシュなものでした。

 共演は、ニコラス・ツェーショーン・ユーの若手2人。彼らは出演にあたってドニー兄貴にかなり絞られたらしく、あまりアクションというイメージのない彼ら(特にショーン)にしては、結構いい動きを見せていました。このほかの注目すべきところは、ドニー、ニコ、ショーンの、原作をある程度忠実に再現した奇天烈な髪型 。また、ナルシシズム溢れるドニー・エフェクトが通常よりややキツ目にかかっていることも特筆すべき点でしょう(劇場ではシリアスなシーンで笑いもチラホラ…)。まあ、何も考えずにとにかく楽しめる、完全無欠の娯楽映画であることは間違いありません。

 ■ 香港版DVD(コレクターズBOXセット)
 ■ 香港版DVD(通常版)
 ■ 香港版VCD


王の男 King and The Clown

king1  韓国版DVD (限定版)
 韓国版DVD (通常版)

 
韓国映画史上最高の興行収入を記録し、韓国大鐘賞の各賞を総ナメした話題作。もしかしたら、興行収入は現在公開中の「グエムル - 漢江の怪物」に抜かれるかもしれませんが、とにかく大スターが出ていない低予算作品、しかも韓国では不人気だという時代劇なのにもかかわらず、想定外の快挙を果たした作品です。朝鮮史上最悪の暴君として知られる燕山君と、彼に仕える宮廷芸人の同性愛を描いた衝撃的なストーリー、ということで注目を浴びました。
 とはいうものの、実際はホモセクシャルが作品のテーマという感じではありません。それよりも、イカれた国王とその取り巻き、そして突然宮廷に仕えることになった田舎出の芸人たちが繰り広げる一触即発の人間関係が軸だったような気がします。感動的な良いストーリーで、私はかなり楽しめました。主人公たちは綱渡り芸人なんですが、その綱渡りシーンもなかなか迫力がありました。

 主演のカム・ウソンの落ち着いた佇まいはかなり好感が持て、大鐘賞主演男優賞受賞も頷けます。しかし、何といってもこの作品の大ヒットのキーパーソンは、王に愛される芸人を演じたイ・ジュンギ(ジャケ写左下)でしょう。まるっきり女性です。ジュンギ萌えしたリピーター(恐らく男女両方)を大量に生んだことも、大ヒットの要因となっているのではないでしょうか。ほんとにきれいなんですが、正直ちょっとキモいですね、やはり。でも演技は素晴らしかったですよ、ええ。今後が楽しみな役者です。燕山君を演じたチョン・ジニョンイカれポンチぶりも必見。

青いパパイヤの香り The Scent of Green Papaya

papaya_uk  ベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督による、1993 年の長編デビュー作。1951年のベトナムを舞台に、資産家の元へ奉公人としてやってきた少女が成長してゆく様子を、小津安二郎のごとき静かなトーンで描いた傑作です。監督はこの作品で、ベトナム映画史上初のアカデミー賞ノミネート、そしてカンヌ映画祭新人監督賞受賞という快挙を果たしました。しかも当時31歳という若さで!
 主演は監督の奥方、トラン・ヌー・イエン・ケー美!)。中盤の登場シーンからラストまで、艶やか且つ上品なオーラをほのかに発し続けます。また、主人公の少女時代を演じたリュ・マン・サン可愛!)もまた、奥様に負けない魅力で作品前半をリード。この素敵な2人の存在感と、監督の織り成すアーティスティックな空間がうまく溶け合い、えもいわれぬ美しい世界を構築しているのであります。

 新譜ではないですが、現在入手できるのはどうやらこのイギリス版だけのようなのでアップしてみました(もし他の国で出てたらごめんなさい)。このイギリス版、いいジャケですね。なぜこの大名作が、日本では未だ廃盤のままなんでしょう?

イギリス版DVD

黒社會2 以和為貴 Election 2

elec2



香港版DVD 2枚組デラックス・エディション
(リージョンALL、英語・中国語字幕)

香港版DVD 通常版 (リージョンALL、英語・中国語字幕)


 ジョニー・トー(杜琪峰)監督による傑作ノワール、「黒社會」の続編! 

 前作では、サイモン・ヤム(任達華)が悪の限りを尽くしてトップに登りつめる様が汗臭く描かれていましたが、今回はルイス・クー(古天樂)演じるクールかつインテリの若き精鋭ジミーが主役。スタイリッシュ度&バイオレンス度がさらにアップした男の1本となっております。1作目で陶器のれんげをバリバリと食したニック・チョン(張家輝)のブチぎれっぷりもパワーアップ!

太陽 (原題: Solnze, 英題: The Sun)

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「太陽」 イギリス版DVD (リージョン2、PAL)

 イッセー尾形が昭和天皇を演じたロシア映画。アレクサンドル・ソクーロフ監督による「20世紀の権力者」三部作の一つで、終戦間際の1945年8月の地下の防空壕から御前会議、マッカーサーとの対面、1946年1月の人間宣言までが描かれています。とはいうものの、政治的・歴史的なメッセージは感じられず、あくまで昭和天皇という一人の人間の葛藤を、静かに見つめた作品だという印象を受けました。

 イッセー尾形の天皇っぷりは、まったくもって素晴らしいの一言です。コミカルなシーンがいい感じに盛り込まれていて、昭和天皇のチャーミングな部分を実に自然に表現しています。そして、皇后を演じた桃井かおりの存在感はすごい。 わずか数分の登場にも関わらず圧倒的です。

 東京大空襲の白昼夢やラスト間際の月夜ほか、ソクーロフ監督特有の薄気味悪くも美しい、幻想的な映像は、脳みその片隅にいつまでも残り続けること必至。これは傑作です。