彼は、彼女と海へ出かけた。

それは、結末の分かっている、はかない恋だった。

彼には付き合っている人がいて、彼女も、それは分かっていた。

そして、その関係が、覆ることもないことを感じていたに違いない。

二人は、海辺の廃線になった線路にトンネルを見つけた。

「探検しようよ!」

彼女のいたずらっぽい提案で、二人は暗闇に向かった。

トンネルの奥に進み、だんだんとあたりが薄暗くなる。

「ねえ…」

彼女が、つないでいる手を、引き寄せた。

泣いているのか、声が詰まっている。

「ねえ、好きだよ…」

突然の言葉に、これまで二人の仲を、曖昧にしてきた彼は、自分に強い呵責を覚えた。

彼ができたのは、彼女を抱きしめ、その涙を唇で拭うことだけだった。

「わかってる、わかってる…」

その次の言葉が出てこない彼を、やさしく、「いいのよ、もう」と、抱きしめる彼女が、本当に愛おしく、自分勝手な切ない思いに身を焦がした夏だった。

その翌年、彼女は、昔に一度分かれた人と結婚した。

いまは、幸せでいるだろうか。

夏が来ると、そんな思いが頭をよぎる。