人物関係図を描きながら小説を読み進めると、作家の伏線の置き方やその現れ方やタイミングの感覚がわかってきて面白い。
日本の小説でそこまで複雑に人間関係を書き込んでいる作家がどれほどいるかどうかはわからないが、とりあえず、大沢在昌の「罪深き海辺」(講談社文庫)で試してみた。
チャンドラー並みの複雑な関係図になり、大沢在昌の小説のつくりこみに対する情熱にちょっと感動した。これだけ複雑なプロットだと、あらかじめすべて設計図を作ってから書き始めるというわけにもいかないだろうし、この作家自体別のところで、自分がそういう書き方をしているわけではないということを告白している。
おそらく自分を追い込んで、袋小路を力技で脱出することを繰り返した後に、事後的にこのプロットと関係図が出来上がったのだ。
物語は干場という青年が山岬という財政危機にある地方都市を訪れるところから始まる。
この青年の名前を聞いたこの街の人々は一様に驚いた顔をする。6年前に亡くなったこの年随一の大金持ちと同じ名字だったからである。この富豪の数少ない血縁(甥)だったのである。
彼がこの地方都市を訪れることで、富豪の財産を食い物にしていた地元の悪が一気に明らかになっていく。
面白いのはこの小説が、この干場という青年だけの視点で語られていくわけではないことである。
もう一つの視点がこの地方都市の警察に勤務する定年間近の刑事安河内である。地元に住みながら、地元の論理の中に取り込まれない老刑事と、よそものの干場のodd coupleが、この街の過去の闇を暴いていくことになる
地方都市の苦境とそれを食い物にする闇の組織とそれと呼応する内部者たち。
単なるハードボイルドエンタテインメントとは片付けられないようなリアリティがある。
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