配慮がすみずみまで行き届いている様子を「きめ細やかな対応」と表現したことはありませんか?
「細やか」という言葉のほかに「細か」という言葉もあります。
では、「きめ細か」と「きめ細やか」は、どちらが正しいのでしょうか。
正解は「きめ細か」です。
「きめ」とは漢字で「木目」と書きます。
元は木の板の表面に現れる模様(=もくめ)のことを指していました。
そこから、人の肌の細かなあやにも使われるようになり、ものの手触り全般についても使われるようになったのです。
もともとは「木目(もくめ)」が「細かい」ことを指す言葉だったわけです。
ところが、日常生活では木の板の表面について話題にすることよりも、対応や配慮といった物事を指すことのほうが(木の板を扱う職業に就いていない限り)多いはずです。
「細かい」と言うと、人の性質や行動の特徴を表す言葉としてはややネガティブな響きがあります。
「いちいち細かい」「細かいことにこだわる人」などと聞いて、ポジティブな印象を持つ人は少ないはずです。
一方、「細やか」という言葉は「心がこもっている」「情が厚い」といった意味で使われることから、ネガティブな印象は受けません。
「きめ細か」が指す意味合いから、徐々に「きめ細やか」という言葉が広まっていったと考えられます。
「きめ細か」と「細やか」が組み合わさって「きめ細やか」という新しい言葉が生まれた、と言い表したほうが適切でしょう。
ちなみに、「きめ細やか」を「誤用とされる場合がある」としながらも、見出し語として掲載している辞書があります。
それだけ多くの人に「きめ細やか」という言葉は浸透しつつあることが分かります。
ここまで来ると、もはや「誤用」と言えるのか微妙なところです。
歴史的に見ると、こうした「誤用がいつしか正しい言葉として一般化していった」例はわりと多くあります。
たとえば「新しい」という言葉は「あたらしい」と読みますよね。
ところが、「新たな」という言葉があるように、「新」はもともと「あらた」と読んでいたはずなのです。
実際、古語には「あらたし」という言葉が存在し、新年のことを「あらたしき年」と表す用例もあります。
「独壇場」は「どくだんじょう」と読みますが、元は「独擅場(どくせんじょう)」という言葉でした。
「壇」と「擅」は字がよく似ており、間違える人が多発したのでしょう。
「独壇場」という言葉には「ひとり舞台」という意味を連想させることから、「思うままに振る舞える場面」という「独擅場」の語義ともフィットします。
こうして、「独擅場」も「独壇場」も同じ意味となり、どちらを使ってもよい、ということになっていったのです。
「きめ細やか」も、いまや誤用とは言い切れないようになりつつあります。
しかし、本来は「きめ細か」だったことを知っていて、あえて「細やかさ」を強調するために「きめ細やか」と言うのと、何も知らずに「きめ細やか」を使い続けるのとでは、意識の面でずいぶん違いがありそうです。
本来の使い方を知ると、自然と言葉を大切に扱うようになるのかもしれませんね。