スマホの話②

ある朝、仕事先から

夫が連絡を入れてきた。


『クレジットカードが使えない』

なぜか分からないから

調べてほしい。とのこと


結婚をするまで現金一択だった私は

なぜカードが使えなくなるのかさえ

知らずに、とにかくカード会社へ

連絡を入れた。


すると、リンがリビングへ

きて何やらソワソワ。


気にも止めずに

担当者の方へ色々と質問を

投げかける私。


どうやら100円〜1000円単位の課金が

2日間の間に何度もあったらしい。


カード番号をコピーされて

不正利用されてる?

まさか…と思いながら

理解できないまま

事細かに金額をメモしては

推測を繰り返した。


警察に届け出るか

どうするか、、という話に

さしかかった頃

急にリンが横へ来て

泣き出した。

『リンが課金したと思う。

ごめんなさい』


……はっ?

えっ?……


計算をしてみると

約2万円の大金が課金されていた。


まず、何らかの作業をした時に

クレジットカード番号を

リンのスマホ本体から

削除していなかった私に

落ち度があった。

夫はそう言った。


確かにそうだ。


初めて感じたような

怒りと悲しみで気が狂いそうだった。


訳も分からず

スマホを手にした子供が

サイトに登録して

推し と呼ばれる

会ったこともない人に

遠隔で金を送るなど。


そんな事が

あって良いのかと。


何をしたのか

分かってるのか?と

怒りが抑えられず

とにかく強く叱った。


伝え様のない

リンの気持ちも

多少は予想がついたが

叱った後には

優しく宥める。なんて

この時の私にはできる筈が無かった。



この日から2か月半、

スマホを没収し

様子を見る事になった。


当たり前の事だが

お金は返ってこない。



リンの気質まで変えてしまうのではないか、

なんてクソな物を

与えてしまったんだ。

とにかく自分を責め続けた。


サイトを退会し、アプリを削除

スクリーンタイムを設定して

接続させない様に

調べに調べて

ガチガチの設定を完成させた。



やっぱりキッズケータイで

良かったんじゃないか?

そんな事を1日に何度も思っていた。


本を読んだり絵を描くのが好きなリンは

スマホを持たない生活を

心地良く過ごしている時もあった。


その反面、夜になると

LINEがしたい。友達と

連絡をとりたい。

そう言ったり、何かを

思い出したかの様に

急に暴れ出す。


スマホがないなら

死んだ方がマシ。

こんな言葉さえも

簡単に言ってしまう


おかしな精神状態になっていた。


私は『シネ』『シヌ』を

絶対的な禁止ワードとして

育てて来たので


スマホを持たせたために

リンがおかしくなった!と

自分を責める毎日だった。


リンは起伏の上下がさらに激しくなり

自分ではコントロールが出来ず

物に当たり散らし

衝動的にドアを壊したり。


挙げ句、私にまで

手を上げ蹴りだす始末。


こんな子に育って

全部私の責任。



今振り返ってみると

精神はかなり限界だった。

体調が悪く肌もガサガサ。

唯一、決めていた事は

心療内科に行かないこと。


今までかかった事は一度も無いが、

行ったら完全に終わり。

そう思っていた。



夫は毎日、仕事から戻って

疲れた身体で

私とリンの戦いを

ただ見守っていた。


何も言わずただ見守る。

どんなに忍耐を使うか。

そんな風に思うとまた

精神的に疲れた。


毎晩、お風呂に入って

身体が温まると緊張がほどけて

勝手に涙が流れてくる。


我慢できず夫の前で

泣いてしまう日もあった。


なんとか発散しようと

お昼に大声を出して

歌う日もあった。


いつかもしリンに刺されたら

私はリンを連れ出して

人に見つからない場所で

あの世へ旅立とう。

そんな事を思った日もあった。



きっともう限界を超えていた。



そんなある日、夫から

『リンは生きてるから大丈夫』と

言われた。


ゆっくりと心に伝わってきた

その言葉にとても救われた。


『生きてる』


そうだ。今日も生きてる。