これまでのあらすじ
 善なる一党は無辜の民を守らんと尽力す。
 街に忍び寄る血風党マガンテの魔の手。更に、北方より来るデーモン達。
 危難はいや増すばかりである。
 そんな中、街の領主である少年ウィルは自ら街を守護せんと力を欲す。
 インプ、その願いを聞き届け、ウィルに囁いた。
「ゴッドクロスこそが力の源なり。そを手にし者は大いなる力を得るであろう」
 そう、それは枯枝城の城主であったマガンテが辿りし道と同じなり。
 ウィルは、ゴッドクロスを手に入れたならば魂を引き渡す、とインプと契約し、悪魔達を呼び出す。
 ゴッドクロスを奪わんとする悪魔達と一党との死闘。
 悪魔達に追われつつ、一党はウィルを救うことを望む。そのために下した決断は、ゴッドクロスの破壊であった。
 枯枝城にある大釜こそがゴッドクロスを精製した大釜であり、それを破壊することができる唯一のものである。そうと知った一党は因縁の枯枝城へと再び舞い戻る。
 悪魔達との最後の決戦の末、一党はゴッドクロスを大釜に放り込むことに成功した。
 ゴッドクロスの入手が不可能となったことで、ウィルとインプの契約は不成立となり、ウィルは悪しき心から解放される。ウィルの魂を手に入れ損なったインプは仲間の悪魔達に引き裂かれて果てるのであった。
 こうして、ウィルを悪魔の誘惑から救った一党。だが、危機は去ったわけではない。マガンテ率いる血風党はいまだ健在である。北辺ではこの地を飲みこまんとするデーモン達が血風党と血で血を洗う攻防を繰り広げているという。
 ゴッドクロスを巡る因縁に決着をつけたとはいえ、一党の前にはあまたの困難が待ち構えているのだ。
 というところで飽きた。
 あてどない旅である。


 あらすじにあるように、実に込み入った大人の事情があった末に、吾等はまた冒険を再開した。
 決して、アレ以上シナリオを続ける展望が無くなったので放置していたとかではない。
 今回の吾等はこれまでとは全然違う地で、まるで新規シナリオに参加しているかのようにまっさらな気持ちである。
 吾ら一党が足を踏み入れしはアイアンウォールマウンテン、更にその奥深く、木の谷村であった。
 村の旅籠モスホール亭にて、よろず冒険承り中である。
 木の谷村は農民と樵が中心の750名ほどの村とのことであった。
 なんでこんなところに吾等はいるのか?
 いい質問である。
 君はどう思う?
 なんとなく、前にいた街でとうとうヤバいことをしでかしたため、ここまで逃げてきたのではないか、という説が有力である。とうとう?
 それはともかく、ここ木の谷村は交易で栄えていたが、100年前に石牙街道が塞がれて以来ぱったりなのだそうである。石牙街道を管理していたドワーフ達が内紛を起こしたとのこと。
 つまり、この村は峠の茶屋みたいな位置にあって栄えていたのであろうというのが吾等の見解だ。その峠の茶屋が寂れてしまったのだ。これでは団子も食えまい。
 甘味処が無くなったが故に、ドワーフ達も街道の管理どころではなくなった。そうして引き起こされし悲劇が内紛という訳だ。何やら主客顛倒しているようであるが、いつものことである。
 ともかく、吾等はこの村の窮状にいたく心を痛めた。どうにかして、昔のような栄華を取り戻させてやらねばならぬ。そのためには、
「じゃあ甘いもの探そうぜ」
 敬虔なるグエドベが言う。と、得たりとばかりに、
「村長の小便だな」
 高貴なるエラドリンが優雅にして全き答えを一党に示すのだった。
 ということで、一党は村長の元へ向かうのがよかろうという結論を得た。
 やった! 無事、村長の所へ話を聞きに行く流れが自然にできた!
 吾等はちゃんとロールプレイできる子達である。


 さて、村長というかこの村の領主というか、そういう立場にあるのがセブリム卿ということである。一党はモスホール亭にて、まずはセブリム卿のことを尋ねるなどする。
 すると、つい先日セブリム卿の館にドワーフ達が大勢やってきたという話である。何でも、匿われているとか。
 これまで、ドワーフ達は人間との交流を避けていたらしい。ドワーフの長であるハルバークがそれを望まなかったからだという。それが今、いかなる理由でこの村に逃れてきているのか?
「オーク達が石牙街道に乗り込んできて、それでドワーフ達は助けを求めているようですよ」
 モスホール亭の主人は善なる吾等に協力を惜しまぬ。快く、事情を語る。その善への献身にグエドベ、心震わせ、
「そいつら、いくら出すって?」
「いえ、そういう話はわかりませんが……」
「使えねえな! 最後までちゃんと聞いてこいよ!」
 主人を宿から蹴りだすのであった。
「では、みすぼらしいドワーフ達を見物に行きましょう」
 高貴なるエラドリンは知ることに旺盛だ。如何なる邪悪や悲劇であろうと、まずは知ることが肝要である。知ることによってのみ、それを防ぎ、救うことができる。そう知っているからこその見物という言葉である。
 セブリム卿の館は朽ち果てた館であった。それでも人を雇うだけの地位ではあるらしい。扉を叩きし吾等に応対せしは館の下男である。
「まず、下男からいくら貰えるか。次に領主」
 敬虔なるグエドベが、吾等善なる一党にどれだけの喜捨を示すことができるか、彼等を試さんと欲す。
 下男の案内により、一党はセブリム卿の元へとたどり着く。
「ラングリム殿の求めに応じて来られたか?」
 セブリム卿の言葉に、吾等は、
「ラングリムって?」
「ドワーフの氏族長ハルバーク殿の息子のことだが」
「ということは、私のことですか」
 高貴なるエラドリンが自らの出自を暴露した。エラドリンのくせに。ドワーフ王族と大変近しい関係であるという。ハルバークが死ねばその全てを受け継ぐべき存在。それが高貴なるエラドリンであった。
「いや、取れるだけ取れればいいかなーって」
 高貴なるエラドリンはその意図を淡々と述べる。高貴なるエラドリンの主張する系譜によれば、ドワーフの長ハルバークの遺せし物は全て彼のものでなくてはならぬ。そこにラングリムなどという者が介在する余地は無い。
「オークよりひどいな。逃げろ、ラングリム」
 敬虔なるグエドベは哀れなドワーフのことを祈ってやるのだった。


 哀れなことに、ラングリムは逃げていないのだった。
 20人ばかりのドワーフ避難民達の中に、1人しっかりした身形の若いドワーフがいる。それがラングリムであった。
 彼は吾等に助けを求める風である。石牙街道のオーク達を退治してほしい、と。
 ここでメリケン風の冒険者なら一も二もなく承諾、血なまぐさい暴力による解決を目指して何ら恥じることは無いのであろう。だが、吾等は真の意味で善なる一党である。そのような短絡的な力による解決は、解決の名に値しないことを知っている。
「よし、じゃあまずお前が行け」
 吾等はラングリムに石牙街道奪還の尖兵となるように説得を試みるのだった。これは、他者により与えられた自由や平和など泡沫の物に過ぎぬ、真なる物は自らの手で勝ち取ってこそである、という吾等の思いやりの表れである。ただ与えられるだけではない。自助努力することで、人は誇りをも手にすることができるのだ。そして、自らが苦労して得た自由や平和ならば、人は失わぬように大切にするであろう。それこそが、より長きにわたって人々に幸福をもたらすことを吾等は知っている。
 決して、いつものように利用できそうなNPCはとにかく仲間(盾)にして自らのリスクを減らそう、などという意図は持っていない吾らだ。だから、20人ばかりのドワーフ避難民(女子供ばかり)も動員して石牙街道へ連れていこうなんて少しも考えなかった。
 ところで、ラングリムは意外にも吾等と石牙街道に同行することを拒むのであった。というのも、ラングリムは武器1つ身につけていないからだという。
「丸腰か」
 高貴なるエラドリンが何かとても含むところのある眼差しで哀れなラングリムを眺めるのだった。
 遺産相続的な意味で何らかの危険を察知したのか、ラングリムは懇願する。
「真に善なる一党ならお助けください!」
「真では無いからなあ」
 敬虔なるグエドベがさらりと真実を漏らした。
 仕方ないので報酬の話をする。オークを追い払ったら1人に金貨100枚払ってくれるという。あと、ルビーの指輪。
「オーク達は石牙街道を支配して、通行する者達から物を奪ったりしたいのでしょう」
 ラングリムは言う。
「私達を襲ったのは目を痛めつける者達と名乗るオークの一族でした」
 どうやら、ラングリムは色々と他にも伝承を知っていそうな風である。であるならば、それら伝承にも耳を傾けるが常道であろう。
「じゃあアジト探ってきて」
 高貴なるエラドリンがラングリムに伝承を教えるよう要請する。ラングリム、無反応。
「自分では何もしないのか!?」
 高貴なるエラドリンは激怒した。そして、
「僕と君は友達じゃないか!」
 速やかにフランクな関係を構築。
「金が続く限りはな」
 敬虔なるグエドベがさらりと真実を漏らした。
 いい加減疲れたのか、ラングリムは吾等を見て言う。
「お前らまだいたのか」
「お前もまだいたのか」
 どうあっても石牙街道へ連れ出したい所存の吾らである。


 ラングリムが泣いて、伝承を聞いてくれ、と頼むので聞いてやらないこともない。
 曰く、石牙街道とは、山脈を越えるためのトンネルのことであるという。そは巨人が作りし遺物。石牙はそれら巨人達の中のリーダーの名前だった。
「で、そのジャイアントはいくら出すんだ?」
 敬虔なるグエドベが吾らへの喜捨についての喚起を促した。が、ラングリムは冷酷に話を進めるのであった。
 で、巨人達を倒したドワーフがその街道を自分達の物としたのだという。
 距離的には、この村からは北東に1日くらいか。
 近頃、ドワーフ達は街道の再開を目指して砦の改築をしていたが、それがオーク達の目に止まり襲われたのであろうということだ。
「私達が逃げる途中、我が兄モルデライが街道の扉を閉めました。オーク達が私達を追撃できぬように。ですから、扉の前にモルデライが待っているはずです」
 身を捨てて一族を救わんとしたモルデライなるドワーフの勇気に、グエドベ深く感じ入り、
「モルデライはいくら持ってる?」
 ラングリムは冷酷な男なので話を続ける。
 そのモルデライが閉じた扉と反対側の街道の出口に、ドワーフ達の村と砦があるという。
 更に、おそらく『日陰に繋がれた者達』がオーク達を引きいれたに違いない、とラングリムは言うのだ。『日陰に繋がれた者達』というのはこのドワーフ達の一族の一つで、顔に入れ墨を入れている者達である。ドワーフ達の中では地位が低い連中であるようだ。
 といったところで、シナリオの背景を話し終えたラングリムはさっぱりした表情である。じゃあ、あとは助けに行ってきて、と言わんばかり。
「弟のお前は行かなくても、俺等が行くよ」
 吾等は実に快く石牙街道の奪還を約束するのであった。


 で、出発するのももう遅い。ということで、明朝出発することにする。旅籠モスホール亭に泊まるのも金がもったいないのでセブリム卿の館の離れに泊まり込むこととした。吾等善良なる一党に軒を貸すは、セブリム卿にとっても誉であろう。善行をつんだ。
 と、離れで寝ていると年老いた声で、開けてくれ~、ときた。
 招き入れてみれば、年老いた老女のドワーフである。ハダラなる老女であった。
「ハダラはいくらくれる?」
 ハダラは冷酷なので話を進めるのであった。
 ハダラには年若い友人がいる。名をフリンカ。例の『日陰に繋がれた者達』の一員であるという。ハダラがオーク達から逃れる際、1人でオークに立ち向かい、食い止めてくれたのだという。
「100年前の内紛は『日陰に繋がれた者達』の所為だという者もいますが、実は氏族の他の者達の所為なのです。その者達が『日陰に繋がれた者達』の宝を奪ったのが内紛の切っ掛けでした。そして最近、その宝が見つかって街道再開ができるようになったのです」
 ハダラの話はラングリムのそれとはいささか異なるようであった。どうも隠された何かがありそうではある。『日陰に繋がれた者達』はオーク達を引きいれた裏切り者ではないのか? ただ『日陰に繋がれた者達』はモラディンとトログを信仰しているという。モラディンはともかく、トログは牢獄とか拷問の神ではないか。そんなものを信仰している連中が善良とはとても思えぬ。
 ともかく、ハダラはフリンカの身につけていたセンディングストーン(離れていても意思疎通ができる魔法の石)を持ってきて欲しいとのことであった。
「おそらく彼女はもう生きてはいないでしょう。ですが、私達を助けてくれた彼女の形見として、その石を取り返して欲しいのです」
 吾等はハダラに安請け合いして石牙街道へと旅立つのであった。


 さて、石牙街道である。
 石牙街道は、モルデライが扉を閉めてオーク達がこちら側に出てくるのは防いでいる、という話であった。
 なのに街道近くに着くや否や、道いっぱいのオーク達が襲いかかってきたではないか。障害物も何もない場所を、全力で吾等に駆け寄ってくる。そして、石斧の雨あられ。丁度射程範囲にいた吾に集中した。
 これはやばい。みんな早くやっつけて!
 高貴なるエラドリンは行動遅延するのだった。
「……撃破役ですよね?」
「だって怖いじゃん」
 オーク達から距離を取ったまま安全圏を維持する。
 困ったな。とりあえず火を吹いてみた。じゃんじゃん燃えました。どうやら敵の多くは雑魚であったようである。こうして吾が火を吹いて敵をマークした後、高貴なるエラドリンが前進して敵の首領格を切り刻むのであった。
「マークされたから安心して攻めに来た」
 吾がぼこぼこにされている間に高貴なるエラドリンが美味しいところを持っていくという、パーティの役割分担がちゃんとできていて喜ばしい限りである。


 色々思うところはありつつも、石牙街道の扉のところまで辿り着く吾等。
 そこには巨大なレバーがあった。目がついている。それどころか話しかけてくるではないか。
「俺を倒せば扉の開け閉めができます」
 けれど、レバーさんを倒すには筋力40が必要だという。何を言っているのだ、このレバーは。それを可能にする手袋をモルデライが持っていたはずであり、彼を見つけねばならぬ。
 と、レバーさんのいるところから横に道が延びていて、その先に何かいるようだ。他に当てもなく吾等はそちらに向かう。
 オークがいました。
 入り込むとクロスボウがピュッピュ飛んでくる回廊の奥にオーク達が弓を構えて待ち構えている。遠距離での撃ち合いとなった。しかも、
「おめーら、降伏しねーとこのドワーフを殺すぞ」
 モルデライらしきドワーフが捕まっているではないか。あら、困った。善良なる吾等としては困った人を見たら助けねばならない。つまり、モルデライなど見なかったことに記憶を改ざんしなければならないのだ。そうすれば、吾等の善なる心は保たれる。
 だが、そこで吾等は看破する。そのドワーフの表情がニヤリとしたのに気付いたのだ。
「ああ、こいつ偽モノだわ!」
「いいよ、殺せよ」
「真のモルデライなら虜囚の辱めを受けることなく自害するはず」
 吾等は悪の脅迫には屈しない強き心を持った善である。
 オーク達は本当にドワーフを殺そうとしたようだが、そのドワーフが異議申し立てをしたらしく奥へと引っ込んでしまった。奥に更に部屋があるようだ。
 吾等は彼等の後を追うべく試みるが、クロスボウの回廊にアイアンコブラやら弓うちのオークやら邪魔が多い。
「もう面倒くさい」
 と吾がクロスボウとか撃たれるの気にせず突撃。
「あーあ、このままやってれば無傷で敵を倒せてたのに……」
 えへへ。だって、吾は遠距離攻撃とか大してダメージいかないし、突っ込んだ方が手っ取り早いじゃん! であった。
 もちろん怪我をして、回復役の敬虔なるグエドベに嫌な顔をされた。


 とにかく、クロスボウの回廊を潜りぬけて先に進む吾等。
 そこで吾等はオークのデザゴールなる戦士と遭遇する。周囲にはオーク達の死体に先程のドワーフの躯も転がる。
 どうやら、このドワーフはモルデライその人であり、実は最初からオーク達に寝返っていたらしいことがわかる。だが、先程の人質扱いで仲間割れをしここで殺し合ったらしい。
 吾ら一党は残ったデザゴールを手早く片付け、筋力判定に+20の修正をくれる手袋を回収した。
 後は筋力40でレバーさんを倒す仕事が残るのみである。
 といったところで次回に続いた。