前回までのあらすじ


 何か井戸に潜ったらおっさんが死んでたよ。
 多分、片目のサダームの正体を知るアイアンパンツっておっさんだよ。



「ティールの街へ帰ろう」
 死体を見たザーマス師匠、血相を変え、そう訴えてきた。何とも唐突な話ではないか。
「なんで?」
「まあいいじゃないか」
「そんなんで納得できるか! この廃れた世の中で! こんな世の中を直さなければならないんだ! それがわからないのか、あんたって人は!」
 こちらも唐突に社会への変革に目覚めるウルヴェント。発言に特に意味は無いと思う。
 それでもザーマス師匠は帰りたくて仕方ない様子。ウルヴェントはザーマス師匠の頑なな態度を和らげようと試みる。
「何で戻らないといけないのか理由を述べよ」
「それは言えない」
「俺達の仲じゃないか」
「じゃあ帰ろう」
「それはムリ!」
 絶対に譲歩しない交渉術。
「とにかく知ってること全部話せよ!」
「戻ったら話す」
「その、戻るための情報をくれって言ってんだろ! わかんねえな!」
 戻るにしても、何らかの理由が欲しいのである。
 と、井戸の横穴から続く、奥の方より風が吹いてくる。同時に呻き声と獣のような声も。明らかに何かいるようだ。
「……隠密で先行して調べてくるか」
 ウルヴェントが横穴の奥を睨みつつ、
「鎧貸して。壁抜けできるやつ」
 と、ワンコに要請した。ワンコの着ているアーマーは一日毎パワーでそういう芸当が可能な代物なのだ。いざとなれば、それを使って危険を回避しようという心積もりのウルヴェント。それに対してワンコ、快く、
「どーしよっかなぁー?」
「じゃあいいよ! 首刎ねて持ってくから!」
「好きなだけ持っていってください」
 土下座して頼みこむのであった。
「何て仲良いんだ俺ら」
 一党は自らのチームワークの良さを再確認し、心を一つにする。
 なのに、ザーマス師匠の心は離れていくばかり。
「だから戻ろうって。ヤバいんだって。死人が出る井戸だって噂もあったじゃろうが。このアイアンパンツもそいつらにやられたんじゃよ。これ以上進んだらヤバいって!」
 そう聞いたワンコも自らを見下ろし、
「取り替えた鎧姿なんか死人に見られたら恥ずかしいしぃー」
 おしゃれスリクリンとして、そこは絶対譲れぬところ。この恰好では、激カワ節足動物コーデでダンジョン内にモテラブブラッドの雨を降らせること叶わぬ。
「よし、じゃあ行こう!」
 人の話を聞かないウルヴェントはきっぱりと言ったものだ。もちろん、井戸の奥へと進もうとする。
「えーと、これはわしの勘じゃが、きっとここから先にはレベル18のウォータードレイクがいるよ」
「じゃあ本筋に戻ろう」
 一党はなんとなく井戸の奥へ進むのを諦めた。今のレベルで井戸の奥に進むとヤバいモンスターが出てくるし、ストーリー的にも全然関係ないからそっち進むの止めて? というマスターからの声を聞いたとかそんなことは全然なかった。ただ一般論として、下手に戦闘を吹っかけるとそれだけに時間を取られてしまい、ストーリーが全然進まないということはとてもよくある。無駄な争いは避けるが大人というもの。
 でも、ウルヴェントはもっとレベルが上がったらもう一度来ようと心に決めたらしい。めんどくさい人だな。それまでこの井戸が他の連中に荒らされぬよう、〆縄で封じる。
「この奥には立ち入るでないぞ!」
 そうガマラ地区の住人達にきつく言いつけた。
 途中で見つけたダンジョンとか全部クリアしないと気が済まない心意気。本筋と関係ない戦闘でも、とりあえず試してみないで何が冒険者か。そんな主張を別に誰にアピールするわけでもないけど、一党はザーマスの言う通り黄金のイニックス亭へと戻ったのだった。


 黄金のイニックス亭に衛兵隊長のマヌーフ来りて、ゴリアテ一家の有益な情報を話してくれるという。
「じゃあ、ゴリアテ一家の弱点は?」
「全身。どこを触っても死ぬ」
 そんな情報だったらよかったのに。
 マヌーフの言うには、ゴリアテ一家はハシシの取引で資金が潤沢なのだという。
「商家でもハシシを取り扱っているところはあるのだが、ゴリアテ一家は商家の縄張りを荒らさず、上納金を収めているらしい。非常に紳士的でハシシの取引を広げていこうとはしていないようだ」
「なかなか頭がいいらしいな」
「だが、おかしな行動も見られる。奴等はスレイブビットや泥棒市場以外にも縄張りを作っているのだが、面ではなく点のような形で散発的に進出しているのだ。特に街の北側スラム街でその傾向が顕著だな。解放奴隷が流れていってる地域さ。で、スラムにある既存の組織とガチ抗争を引き起こしたりしつつ、そうやって縄張りを広げている」
「スラムの既存組織って何?」
「トゥースカッターていうモヒカンエルフの集団や、アイアンラッツっていう盗賊組織、それにルーインクリ―バーっていう人食いハーフリングの一団がいるな。特にトゥースカッターは凶暴で有名だが、ゴリアテ一家はそいつらからも怖れられてるくらいだ。が、不思議なことにそうやって手に入れた地域からゴリアテが急に手を引いてしまうことがあるんだ。今までに3つの地域を突然放棄している。犠牲を払って手に入れた縄張りだっていうのにな」
「ふーん、何で? ちょっと行って調べてきて」
 何でもNPCにやらせる仕事術。衛兵隊長マヌーフ、顔をしかめて、
「そこには入れんよ」
「衛兵のくせに?」
「衛兵だからこそ、そんな守るべきものもない地域には入らんさ」
「じゃあ、燃やしてこいよ! そんな地域!」
 ともかく、スラムの連中は結束が固いので衛兵では中の話は聞けないらしい。
「ということは、やっぱザーマスが潜入してこないと」
 何でもNPCにやらせる仕事術。
 というわけで、ザーマス師匠に話を持っていく一党。
「そういえばザーマス師匠、井戸の底でアイアンパンツの死体みた時、何か知ってるようだったな」
「あの変なダイイングメッセージみて顔色変えてたよね」
「何を知ってるんだ? ゴリアテ一家のボスが何者か、わかってるんじゃないか? ヒントをくれとは言わない。正解を寄こせ。洗いざらい話せ」
 単刀直入に聞く一党であった。そう問われてザーマス師匠も、うむ、と答える。
「あのメッセージから考えるに、片目のサダームの正体はサーロンではあるまいか」
「サーロンって何? 冥王?」
「いや、地下に住むパンダのことだよ」
 違う。サーロンとは大昔からいる魔法生物のことだとザーマス師匠はいう。
 サーロンはこの世界エイサスの一部ともいえる存在だったが、今では孤高の存在となった。かつては人の形をしていたものの、数千年の時を経てジャミラみたいな体になったとかならなかったとか。
「そして、わしの聞いた話によるとサーロンは呪術王の情報を集めているらしい」
 そんな奴がゴリアテ一家の頭領に収まって何をしようというのか。というか、そんな数千年も生きているような化け物相手にどう戦えというのか。けれどウルヴェント、少しも慌てず、
「大丈夫。良い作戦がある」
「作戦って?」
「殺したら勝てる」
 やれば何でもできる、みたいなポジティブ作戦。
 ともかく、片目のサダームの正体がサーロンとわかったとして、さてどうする。
 ワンコ曰く、
「サーロンさーん! て呼べば、呼んだ? って出てきてくれるよ」
「片目狩りをしよう!」
 ウルヴェントはサーロンを誘き出すべく、案を出した。
「誘き出して、どうすんの?」
「会ったら殺す。後悔しないために」
 近付いたら殺す。逃げる奴も殺す。それもみなすべて、後悔しないために仕方のないことなのだ、とウルヴェントは説く。一党はその後悔しない覚悟に深い感銘を受け、あえて無視した。
「とにかく、サーロンは何をしたがっているのか?」
「呪術王のことを知りたがっている?」
「スラムの中に、奴が急に手を引いた地域があるんだろ? そこになんかヒントがあるんじゃないか?」
 今ならその地域は空白地帯であって、トゥースカッター等もいないだろうという話である。調べに行くなら今の内であろう。だが、トゥースカッターのモヒカンエルフ達に見つかったらえらいことになるという。エルフを見たら泥棒か殺し屋だと思え、というのがこの世界でのエルフ観である。
「お前を見たら泥棒か殺し屋だと思え」
 ワンコがウルヴェントを見ながら呟いた。


 一党はスラム街へ向かうこととした。片目のサダームがスラム街で何をやっていたのか、探る心づもりである。
 スラム街は昼間から寝転がったり煙をふかしている連中が淀んだ目をしている場所だ。辛気臭い。だから早速ワンコが、
「クッセーなここ!」
 と大声で叫んでみた。
「陽気に行こうよ! 早くキメちゃえよ!」
 なんだか全然話が進まないのだった。どうしてこうなるのか。
「やっぱりザーマスがいないと進まないね。ナビ頼む」
 結局、NPCに何でもやらせる仕事術。
 ザーマス師匠はナビゲーションシステムを起動するのだった。
「スラム街には旧市街の遺跡があちこちにあってな。その遺跡というのは古い石造りの建物なんじゃが、ゴリアテ一家が放棄した地域には必ずその遺跡があるそうだ」
「まあ、その遺跡に何かあるんだろうな」
 と一党は遺跡を探す。すぐにドーム状の崩れかかった建物を発見した。これが遺跡であろう。だが、中から人の気配がするではないか。先客がいる?
 ところで、ワンコはそれを全然知覚できないのだった。手にした携帯端末に無念さをにじませながら、
「さっきから1と3しか出ない……」
「課金してないんじゃないの?」
 毎月5000円以上払わないと5以上出ないアプリ。モバイル社会の恐ろしさを実感しつつ、一党は遺跡の中に入り込むこととした。
 遺跡の内部には竜をかたどった立像(本当は竜なんて存在をキャラクターは知らないのでただの化け物としか思えないのだが)があった。そして、モヒカンの人影が4体。トゥースカッターのエルフ達であろう。トゥースカッターはゴリアテ一家とガチ抗争を繰り広げている連中でもある。早速ウルヴェントが彼等を味方にすべく、交渉を持ちかけた。
「ゴリアテを一緒にやっちまおうぜ!」
「いいから金置いてけ!」
「わかったよ! じゃあ死ねよ!」
 戦闘。○か×かの交渉術。
 雑魚はすぐに倒せたのだが、リーダー格は瞬殺というわけにはいかず、手間取る。と、そのエルフ、笛を手にしてそれを高らかに鳴らすではないか。警笛である。仲間を呼ぼうという試みだ。だが、それを見てワンコは不敵に笑う。
「かかったな。その笛には毒が塗ってある」
 エルフは死んだ。
 というわけにもいかないので生け捕りにしました。エルフ達の仲間がやってくるまでにこの遺跡に何かあるのか調べなければならない。
 パッと見、怪しいのは竜の像か。あちこち削られている。ザーマスによれば、スラムの連中はこの像の力にあやかって、削った粉を薬として煎じて飲むのだそうだ。とはいえ、削られている以外、特におかしな点はなさそうだ。
 一党は捕えたモヒカンエルフを尋問することにした。
「お前らトゥースカッターは何人いるんだ?」
 モヒカンエルフは言葉が聞こえているのかいないのか、訳のわからない唸り声を上げるばかり。業を煮やしたイモコが、
「そんな耳ならいらぬなあ!」
 と耳をつまんで刃物を突き付けてみたけど色よい返事は得られない。ウルヴェントはこのエルフを対ゴリアテ一家用に使いたいようだ。仲間になれという。それに対してワンコ、
「オレ達の仲間になるとか無理だよ。下僕とか手下ならともかく」
 と、的確な判断を下した。
 何てやってるうちに囲まれました。遺跡の周囲にモヒカンエルフ達の気配が多数。やばいなー、と思っていると遺跡の奥に井戸があるのを見つける。ここから地下へ行けるようだ。だが、すぐに外のモヒカンエルフ達も突入してくるであろう。時間を稼ぎたいところ。
「じゃあ、この捕まえたエルフに油ぶっかけて火をつけて遺跡の入り口に放置。炎の壁になってもらってる間に地下へ行こう」
 イモコがその作戦を実行。
「いやー、スラムって怖いなー。こんな簡単に火だるまになっちゃうとか、スラム怖ーい」
 スラムのせいにするイモコ。
「心のスラムが怖いよ」
 ワンコが社会心理学者みたいなことを言った。
 でも、エルフの火だるまだけでは防げないっぽいので、やっぱり戦闘準備。主にザーマスが先頭に立ちます。
「なんでいつもわしが前なんだよ」
「うるさい、きりきり歩け! 鎧着させてもらってるだけ有り難いと思え!」
 ウルヴェントが優しく声をかける。ザーマス師匠がエルフ達を防いでいる間に、一党は遺跡内の井戸を調べた。ワンコが知覚で、
「30センチの古井戸だ。底が見えないほど浅い」
 いつも通りだったので、他の皆で知覚する。と、井戸から横へ坑道が続いているのが判明した。一党は中に潜り込み、先へ進む。ここから外へ脱出できるかも、という期待を胸に進む。が、坑道は途中で岩盤にぶつかり途切れているのだった。どうも、この坑道を掘っていた連中もこの岩盤にぶつかり掘り進めるのを諦めたようだ。この岩盤がなければ、どこへ辿りついていたのだろうか? なんて思ってる場合ではなくて、いよいよトゥースカッター達が雪崩れ込んできそうな気配。
「よし、ここはわしに任せろ」
 ザーマス師匠、決然と言い放つとパッと姿を消してしまった。瞬間移動である。やべえ、1人だけ逃げやがった! とか思っていると地表で騒ぎが。どうやら、ザーマス師匠が囮となってエルフ達を引きつけているようだ。その隙に一党は遺跡から辛くも脱出するのだった。
 その後、ザーマス師匠の行方は知れないという。
「いや、ザーマスはパーティから離脱できない。逃がさないよ!」
 ウルヴェントはザーマス師匠のことを本当に心の底から心配してそう呟いた。


「片目のサダームはスラム街にある遺跡を探っている。その目的はまだよくわからないが」
「遺跡からどこかへ向けて穴を掘り進めてたみたいだな」
「岩盤に阻まれて失敗してたけどね」
「じゃあ、スラム街にある他の遺跡を探してみればよくね? なんかわかるっしょ」
「でも、遺跡の場所とかどうやって調べる? そんなの知ってそうな奴をどうやって探す?」
 一党はまだ片目のサダームが探していない遺跡を先に調査できないものかと思案していた。
 片目のサダームが何を狙っているのか知りたい。そして、それを先に手に入れれば自分達が優位に立てるだろうと期待しての行動だ。
「……そういえば、遺跡には竜の立像があったよな」
「ああ、スラムの連中が削って薬にしてるってあれか」
「じゃあ、薬売り達ならどこに竜の立像があるか知ってんじゃね? 竜の立像がある場所、すなわち遺跡だろ?」
「なるほど。どうしたの? 今日は冴えてるね?」
「出かける前に味の素舐めてきたからね」
 イモコはドーピングしてきたことを明らかにした。
 ともかく、一党はスラム街で薬を売っている人物を探すこととした。
「なあ、そこのおっさん。ここら辺で薬売りっていない?」
「薬? 薬売りのばーさんのことか?」
 いるらしい。
「よし、もう行っていいぞ! それとも一緒に来るか?」
「なんで!?」
 おっさんに絡むウルヴェント。
「で、そのばーさんってどこ?」
「もう少ししたら街角に立って薬を売り始めるんじゃない?」
「じゃあ呼んできて」
 おっさんに絡むウルヴェント。
 と、スラムのおっさんの言う通り、老婆が1人、街角に立って薬を売り始めた。一党は早速老婆に話を聞きに行く。
「なあ婆さん。こういう化け物の像が立っている場所って知らないか?」
「ほう。またかい」
「また?」
「前にも柄の悪い連中が同じことを聞きに来たもんさね」
 老婆は肩を竦めた様子。その柄の悪い連中とはゴリアテ一家のことではないか。やはり遺跡の場所を探しているに違いない。
「なあ、婆さん。教えてくれよ。タダとは言わないから……って、スラムの婆さんに幾らくらい払えばいいのか、相場がわからん」
 イモコ、よくわからないので5gp渡すことにする。
「スラムの一般人に金貨5枚も!?」
「逆に危なくねーか?」
 婆さん、金貨5枚を渡された瞬間、カッと目を見開き、
「足りんわぁー! ババアと思ってばかにすんなぁー!」
 と、ワンコが叫んだ。ワンコの言葉は別に婆さんの心の声を代弁したわけではなかったようで、
「……では、耳を貸しなされ」
 婆さんはイモコに耳打ちしようとしてくる。どれどれ? とイモコが耳を傾けると、
「プッ」
 吹き矢。イモコは死んだ。
「油断できねえな、この街」
 死んでなかった。本当は、
「もう5GPちょうだい?」
 本当じゃなかった。
「……昔の浴場を探しなされ」
 老婆はそう囁くのだった。聞けば、竜の像のある場所は古代の水場の跡なのだという。その昔、水が湧きでていたであろう場所には竜の像が置かれていたらしい。
「今では何の価値もない浴場跡の遺跡があるんじゃよ。そこに行かれると良かろう。前に聞いてきた連中は金をケチったんでウソを教えてやったわい」
 ということは一党はゴリアテ一家よりも先にその遺跡を調べることができるということだ。これはありがたい、ということで一党は大いに気を良くする。老婆に対して、
「よし、婆さん! 困ったことがあったらオレ達を呼びな! きっと助けてやるよ!」
 そう請け合うのだった。
「ほう、そうかね。で、あんたらの名前は?」
「いえ、名乗るほどの者では……」
 連絡の取りようがない。助ける気ゼロであった。


 一党は老婆に教えられた浴場跡へとたどり着く。
 昔、水が湧きでていたであろう場所。その横に竜の立像があったらしい跡が残っている。どうやら、スラムの連中に削り取られて最早原形をとどめていないらしい。これでは、ここが古代の遺跡だと気付かないのも無理はない。
 一党は周囲を探る。と、すぐに床面に蓋がはまっているのを見つけた。おそらく地下へ続く道のはずだ。どうやら盗賊技能で静かに開けられるらしい。そこで一党は盗賊技能なんて頼らずに、力任せに運動技能を使って蓋を静かに開けるのだった。
 早速下へと降りる。だが、そこはただの小部屋であった。一面にレリーフが彫られている。
「行き止まり?」
「……前の遺跡で坑道が掘られてたよな? その坑道が向かってた方向はわかる? もしわかるなら、その方向の壁を探る」
 そう言ってイモコが壁を探ると、そこが隠し扉になっていることが明らかになった。
「どうしたの? 今日冴えてるね?」
「出かける前に味の素5キロ舐めてきたからね」
 イモコは味覚障害者みたいなことを言った。
 どうやら片目のサダームが目指していたのはこの先の遺跡のようだ。岩盤に阻まれて、他の遺跡や地上からでは到達できないのだろう。
 一党は隠し扉の奥へと進む。埃一つない綺麗な通路。そして壁には凝ったレリーフが続く。
 と、ようやく部屋らしき空間に辿り着く。
 そこは奇妙な部屋だった。壁面に、数字の振られた開閉口が並んでいる。部屋の手前側には大きな亀裂がある。飛び越すことは容易そうだが、落ちたらえらいことになりそうだ。そして、部屋の向こう側には髑髏が1つ床に置かれ、その先に棺桶が2つ、くぼみの中に安置されていた。
 どう考えても、壁の開閉口が怪しいのであった。歩いていくと、矢がピュッピュッ飛んでくるのではないか。
「じゃあ走っていこう!」
 一党は全力で部屋を横切ろうと試みる。亀裂を飛び越え、その先へと駆けた。と、当然のように罠が作動。開閉口から多量の砂が吐き出されるではないか。同時に、棺桶からゾンビが2体這い出てくる。
 一党は砂に足を取られて流されかける。具体的に言うと、頑健のチェックに失敗すると亀裂の方へ押しやられてしまうのだった。
「やばい、ゾンビが邪魔で砂の流れてない場所に辿り着けない! このままだと次の頑健チェック失敗したら亀裂に落ちる!」
 足の速いワンコは髑髏(罠の起動スイッチだったらしい)の脇まで辿りついていたが、ウィンストンはまだ流砂の中であった。イモコもゾンビと接敵こそしていたものの流砂に足を取られたまま。ウルヴェントは砂の届かない遠距離からゾンビをケイオスボルト等で攻撃したが、倒すには至らない。このままではウィンストンがまずいことに。と、イモコ、
「じゃあ、種族パワーで水になって6マスシフト移動。ゾンビの背後で実体化して、そこを槍で突くよ! オープニングシャブ。対反応で相手を1マス押しやって、味方を5マスシフト移動させられる」
 というわけで、ゾンビを流砂の中に押しやり、そこでできた隙間にウィンストンを呼び寄せる。ウィンストンは流砂から抜け出した。で、移動させられたゾンビ、当然砂に流され亀裂の底へと落ちていく。可哀想な結末。
 流砂さえ凌げれば後は問題ない。残ったゾンビも軽く倒して、一党は先の扉へと進んだ。
 で、その扉だが筋力で12の判定をしなければ開かないという。開いた。
「開いたから余は満足じゃ。帰ろう」
 ワンコがそう言ったが、帰らない。
 その先は三叉路になっていた。左に進む道と真っ直ぐ進む道がある。
 左の道からは何かドスーンドスーンと重い音が響いてくる。絶対なんかいる。
 真っ直ぐ進むとそこはすぐに行き止まりのようだ。その行き止まりの壁には人骨が埋まっていた。
「撃つ」
 ウルヴェントは迷いなく人骨を撃つのだった。
「怪しいものはとりあえず撃つ。スケルトンだったら嫌じゃん」
 躊躇なし。友好的なスケルトンだったらどうするのか。
 でも、そんなスケルトン見たこと無いからいいのだった。実際、ポンコツスケルトン達だったし。ウルヴェントに遠距離から撃たれまくって、スケルトン達は何もできずに全滅。なんかスケルトン達にもやりたいことあったんだろうに、なにも仕事させてあげないのだった。
「さて、となると左の道に進むしかないみたいだが、何かいるよな」
「大丈夫、さっきからドシーンドシーンって何度も転びまくってるみたいだから、もうそろそろ死んでんじゃね?」
 そっかー、死んでるかー。ということで、一党は中へと突入する。
 そこはどこか厳かな場所だった。部屋に入って入口の両脇には赤々と灯る炎2つ。大皿か何かに油でも満たして燃やしているのだろうか。その光に照らされて、部屋の奥に石柱が何本も並んでいるのが見える。そしてその手前には腐った巨漢。でかぶつゾンビであった。更に、空間から死人が一体湧いて出た。瞬間移動だろうか? 何らかの秘術を使うゾンビらしい。遠距離から何か攻撃されると鬱陶しい。
 でかぶつゾンビは一党の前に立ち塞がる。壁となって、一党を前へと進ませない腹積もりか。だが、そんな相手の意図どおりに展開してやる道理もない。
「でかぶつゾンビにシールドバッシュ! 1マス押しやり、更に転倒させる」
 初撃にウィンストンはシールドバッシュを選択。でかぶつゾンビをどかした。そうしてできた間隙をぬって、ワンコが秘術使いの死人に肉薄。ダメージを与えつつマークして釘付け状態に。同時にイモコも秘術使いの死人に近付き、ワンコにダメージ強化パワーを使った上でコマンダーズストライク。さらにアクションポイントも使ってもう一回ワンコにコマンダーズストライクで攻撃させる。
「余計なことさせる前にさっさと倒しちゃえ!」
 というわけで、固定ダメージのでかいワンコが攻撃を繰り返し、秘術使いの死人を早い段階で撃破。
 もし、これがでかぶつゾンビに道を阻まれていたままだったら危ないところであった。というのも、
「熱っ! 何か炎がこっちに飛んでくるんだけど!?」
 入口の脇の炎がトラップで、毎ラウンド火の玉を撃ってきたからだ。でかぶつゾンビに足止めされていたら一党は良い的になっていただろう。また、でかぶつゾンビも強い。マークしてでかぶつゾンビを引きつけていたウィンストンががりがり削られていく。これに加えて秘術使いの死人から遠距離攻撃とか受けていたら一党は一気にぼろぼろになっていたかもしれぬ。
 結局、石柱にあったトラップ解除装置を作動させ、でかぶつゾンビを集中攻撃して、一党は勝利を収めたのだった。


 そうやって勝利した先には玉座の間があった。巨大な石棺も安置されている。特にモンスター等はいない。安心して一党は室内を探索する。と、宝箱を発見した。中には紙切れが一枚入っている。
「外れ」
 とは書いていないようだ。見慣れぬ文字で何事か書かれている。残念ながら、一党には理解できない。
「他に宝無いの?」
 じゃあ、石棺の中が怪しいという話になる。イモコが水になって隙間から調べてみたところ、何か金目のものがあるとわかったのだ。一党は早速開けようと試みる。が、あまりの重さに全員筋力判定で失敗した。
「じゃあ、成功するまで判定するよ!」
 筋力判定は一日一回とのことだったので、
「じゃあ、何日もかけて判定するよ!」
 何日もかけて失敗。そろそろ餓死が見えてくる。
「じゃあ、イモコをもう一回石棺の中に入れて熱しようよ。水蒸気で石棺の蓋も吹っ飛ぶと思う」
 なんて仲がいいんだ俺等。
 しょうがないから、一旦玉座の間から出ようとする一党。と、その外に人影が見えるではないか。
「なんで中々出てこないんだよ。ずーっと待ってたんだぞ」
 片目のサダームであった。一党が筋力判定とかしてる間、ずーっと外で待ってた片目さん。
「じゃあ、お前も石棺開けるの手伝って! 筋力判定してきて!」
 だが、片目のサダームは取引を持ちかけてくるではないか。
「石棺を開けてやってもいい。その代わり、お前の手の中にある物をくれ。お前は特別な物を持っているのだ」
「それって清い心?」
 ウルヴェントがいけしゃあしゃあと言った。
 片目のサダームは一党が手に入れた紙片を欲しているのだという。こいつに渡していいものなのだろうか? 真意看破してみたが、悪意はないようだ。
「でもなあ、こいつゴリアテ一家とか率いてるわけだし、善ってわけじゃないよな」
「その紙片をくれたらゴリアテ一家は放棄する。というか、お前達に譲ろう」
「渡す」
 ウルヴェントが即決した。え、いいの?
「これで我が王国の礎となる臣民ができる。呪術王へ一歩近づいた」
 ウルヴェントは本気で呪術王になるつもりなのだった。ゴリアテ一家という組織を手に入れて、次は如何なる手を打とうというのか。ほんとにどうするつもりなんだろう。
 なお、片目のサダームは石棺も開けてくれた。中から750GP相当のオニキスでできた鷲の彫像、600GP、そしてリングオブクリムゾンサンなる指輪を発見。指輪の効果は追って知らせてくれるとのことなので現時点ではわかりません。


 ついでに、一党が手に入れた紙片を片目のサダームに渡したことを聞いたスプリンター先生はひどく残念がったという話である。