あさがやりえ子のひと切れ短歌 -2ページ目

あさがやりえ子のひと切れ短歌

57577のリズミカルな31文字が織りなす短い短い歌物語。


7月3日(月)

私が
1年で最も
私として機能しない季節
夏がやって来た。

私が
1年で最も
私らしくいられない季節
夏がやって来たのだ。

アスファルトに照りつける
直射日光。
うっとくるほどに
眩しい。
照り返しで
目を開けることができない。

影が欲しい。

それでも
眉間にしわを寄せ
険しい表情を浮かべながら
顔面凶器と呼ぶに相応しい形相で
スタコラと前へ進むしかない。

さもなくば
遅刻する。
仕事に
間に合わないのだ。

5分早めに
出ればいいだけなのに。
だがそのたった5分を
縮めることができない。
朝のたった5分が
とても愛おしいのだ。

時間が欲しい。

「欲に支配されし
無様な泥人形」

それが
夏の私の姿である。

陽が当たらなければ
影はできない。

時間は削らなければ
増えない。

わかってる。
よくわかってる。
でもできなーい!!!と
永遠のパズル(ありがとう橘いずみ!)
と格闘しているうちに
あれれ。

夏、
終わっちゃったし。

という具合。










ペガサスは
夏が好きだろうか。

貴方も
北国の人だから
得意ではなさそうね。



ペガサス
私はね。

夏なんて
大嫌いだよ。

















② 「天国と地獄のような景色だね。
   入口にほら迎えが来たよ。」






季節は冬。
とある
駅のホームにて。
ペガサスと私は
電車を待っていた。

私たちから
3人分ほどの距離に
お姉さんが独り
下を向きスマホを弄りながら
突っ立っていた。

ペガサスの
「暇潰しスイッチ」が押される。
その中でも本日のメニューは
どうやら「人間観察」の模様。

「お、お姉さんじゃん♪
いくつかな?綺麗っぽくね?」

ほどなくして
本日のメニューに
私も強制参加。

ペガサス越しに
見ず知らずのお姉さんを
ガン見する。

「うん、まぁ綺麗っぽいけど…いくつだろうねぇ…。
そういう時はねぇ…手の甲を見るといいよ。
手の甲には年齢が出るって言うよね。」

「へぇ…そうなんだ?」

お姉さん観察
1、2、3秒経過。

「……わかんない!
つぅか(お姉さんの)靴ダセェし…もういいや!
(ニコッ)」


は……?
年齢はさておき、靴がダセェ…?
は?は?はぁ~~~ん…⁉

今、貴方の隣にいるのは
紛れもなく私…私ですのよ!
なのに、
全然何処の誰だかも存ぜぬお姉さんに
たまたま目に入っただけのお姉さんに
ジェラシーメラメラ!
だけど、
そんな憐れな姿を決して悟られまいと
必死にノージェラシー感出しまくって
何なら、
ちゃんとアドバイスまでしちゃったりして
その場を巧く取り繕うとした私の努力
還せ~っ!還せや~~っ!!!


「あ、そうなんだ…笑
ま、オシャレかどうかは靴を見るとわかるって言うよね。」


また
やってしまった。

ペガサスに嫌われたくなくて
まるで本心とは裏腹の
「同調の糸」が紡いだ
「甘やかし」に身を包む。

簡単に
「解(ほぐ)せた」はずなのに。

あの時は
解そうとすればするほど
絡まって。

泣ける。






私たちが
電車待ちしていたそのホームは
上り、下り
それぞれから覗む風景に
天と地ほどの差があった。

一方は川岸からのビル群と
拓けた風景。
そしてもう一方はと言えば
壁。
ひたすら壁。

何だか
今のこの心情と
妙にマッチングしているから
怖い。


「天国と地獄のような景色なんだけど。」


と、ひとこと
感想を述べるペガサス。

ペガサスには
テレパシック能力が
あるのかも知れない。

でも
靖国デジャヴで
一度痛い目に遭っている。
何も言わないでおこう。
私の口からは
何も。


ファファ~ン。


電車のヘッドライトが
ホームにいる我々を照らす。



ほら
ペガサス。
入口に
迎えが来たよ。


その入口が
「天国の入口」だったのか
「地獄の入口」だったのかは
わからない。

誰も知らない。







あさがやりえ子