
ナツメは黄昏時からぼんやりと宇美を眺めていた。波の音と共にこれまでの事が走馬灯のように頭の中をグルグルと廻っている。
「こんばんは。今宵は月がキレイですね。」
心地の良い、ひんやりとした6月の風が吹き抜け、目の前には大きな月が存在感を放っていた。
ナツメが振り向くと、そこには1人の女性がたっていた。
声をかけてきたその女性は、どこか外国の雰囲気を持つ美しい人だった。
凛とした姿のその人は、無表情のまま話を続けた。
「あら、あなたは、どうしてそのような顔をしているのですか?その表情の方にお会いするのは久しぶりです。」
女性はナツメの顔を見つめている。
「これも何かの縁でしょう。あなたの今、一番欲しいものはなんですか?
ソレをあなたに差し上げましょう。」
ナツメは走馬灯の中にみた彼の事を思い出し、一粒の涙をこぼした。
「必ず差し上げることができます。が、あなたの今、大切にしているものを1つ頂きます。交換ですね。」
ナツメは、彼の事、そして現在の事を何度も考えた。
頭を振ったり、髪をかき乱したり.....
しかし、彼女はナツメには目もくれず、話をした後からずっと、波打ち際で大きな月を見上げている。
しばらくして、ナツメは心が決まったのだろう。
立ち上がり、じーっと静かに月を見上げているその女性の前に立ち、頭を下げた。
勢いのある波がナツメの足首を包み込み、海へ引き込もうとしていた。
海の音にかき消されたその声は、彼女の耳には届いていた。
「わかりました。」
そう、彼女は答えた。
