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ほんの一瞬だけ映った、ゆらりと燃える青に目を奪われる。
帆や甲板を容赦なく叩きつける雨風は紛れもなく嵐だと言うことを表していて、目まぐるしく変わる風向きや荒れ狂う波の中、敵襲!敵襲ー!と繰り返し叫ばれる声に目眩がした。
まさに泣きっ面になんとか!
ただでさえ人手が足りないって言うのに…!
前に留まった島では繁華街を中心として伝染病が蔓延していた。
幸運にも繁華街へと繰り出す前にその事を聞いたのでそれなりの対策を取って行ったはずなんだけれど、完全にとはいかなかったようで、今現在、隊の3分の1が床に伏せるまでに広がっている。
おかげでいつもなら手を出さない甲板作業に駆り出され、痛いほどに雨に打たれるわ敵襲に遭うわで踏んだり蹴ったりだ。
遠くない場所から風の音に混じって金属音が聞こえた。
戦闘が始まったのだろう、急いで握っていた紐を手繰り寄せ作業もそこそこに戦闘の準備を始める。
力一杯に柱へと縛り付けその場から駆け出そうとする。が、振り返ると既にそこには何かを思いきり振りかぶる大男の姿があった。
「え、」
叫び声を上げる間もなく振り下ろされたそれをただ見ていると、視界の端に一筋の青い光が見えた気がした、次の瞬間、鈍い衝撃音と共に大男が左へと吹っ飛んでいき、
「こんなとこで何してんだよい」
代わりにいつも通りの無表情をしたマルコが降り立つ。
「………!マルコ隊長!」
あっという間に過ぎた出来事に呆気をとられて慌てて立ち上がり礼を言うが、それに対しマルコは気にした様子もなく雨で濡れたシャツを鬱陶しそうに掴んだ。
「戦うつもりかい?」
「もちろんで」
「お前が出なくてもすぐ終わる。持ち場が終わったんなら風邪引かねえうちに引っ込んでなぁ」
す、と言い終わる前にぐいっと大きな手のひらで背中を押されてしまい、つんのめりながら船室の方へと踏み出す。
「でもマルコ隊、…っ」
手持ちの武器を構えて振り返る。が、一瞬映った青に思わず息が止まる。
初めて見る不死の炎は一瞬だったが深く脳裏に焼き付き、いとも容易く私の鼓動を奪った。
それは酷く美しいと思った。
/絶対的存在感
マルコの笑顔とか、好きすぎてはげる!
隙間がないように腕に力を込め相手との距離を埋める。まるで、すがり付く子供みたいに。
ふと目を開けると、カーテンの向こうはうっすらと明るい。
肩からずり落ちた毛布を直そうと身をよじると後ろから体に巻き付いたままの腕がゆっくりと動いた。
寝返りをうって向かい合うと紅く染まった髪と厚い胸板が視界いっぱいに映る。
堪らなく顔を胸板に押し付けると、間延びした声を出しながら私の頭に手を伸ばし緩く撫でた。
「おはよう」
「………………おー…」
長い沈黙を置いて聞こえた返事は夢の中から返しているようでまだまだ起きる気配はない。
再び顔を埋めて目を閉じて、昨夜のことを思い返した。
静かな夜だった。
甲板から見る波は凪いでぽっかりと浮かんだ月が水面に映り揺れている。
ぱたりと何かが落ちた音がやけに耳に響いた。
「何してんだ、こんな時間に」
ぎしりと床を軋ませて近づく紅色は珍しくしっかりとした足取りで、
「……月が、」
小さく呟いた声を掬うようん?と聞き返した。
「月が、ね、きれいなの」
「月?…あぁ、綺麗な満月だな」
隣に立ち背を柵にもたれかけ空を見上げる。ひんやりとした空気が二人の間を抜けた。
「何があった」
唐突なそれに一瞬言葉を躊躇い、ゆっくりと紡ぐ。
「……今日は、静かでしょう?だから…落ち着かなくて」
いつもはもっと賑やかだからと付け加えて振り向くと、空から顔を下ろしたシャンクスと目があった。
優しい表情を浮かべてこちらを向くそれは次の言葉を促しているようで、
敵わないと、思った。
「………静かすぎて、…ひとりになったみたいで、」
腕に力を込めて無意識に震え出す体を抑える。
「怖い、の」
零した言葉に堪えきれず一滴ぱたりと零れた
その瞬間、強い力に引かれたと思うと既にシャンクスの腕の中に抱き止められていて、
「誰もお前を置いていかないさ」
回された腕に強い力を込められ、ぐっと喉の奥が熱くなる。
「おれ達は仲間だ。だから、ひとりで泣いてくれるなよ」
「………っ、…ぅ、ん」
じんわりと伝わる暖かさと腕の力に不安な気持ちをすべて押し付けて、空いてしまった心の隙間を埋めるように強く抱き締め返した。
その後暫く離れられない私を見かねて一晩中付き添ってくれたが、いつの間にか二人とも寝てしまった様でそのまま朝に至る。
「…シャンクス」
「おー……起きたのか」
大きな欠伸をしながら返す声はまだまだ眠そう。
一晩中付き添ってくれたんだから当たり前だ。
「昨日はごめんね」
「あぁ、
………全くだ。酷い目に遭った」
がしがしと紅い髪を雑に掻きながら答える姿に、自覚がある分グサリとくるなぁと思いつつ改めて謝ろうと顔を上げると、口元をにやりとつり上げたシャンクスが目に入った。
「お前が寝た後はまさに『据え膳』状態だったからな、おかげで寝不足だ」
「……は?」
予想外の答えに思わず抜けた声が出てしまった。そのままぽかんとシャンクスの顔を眺めていると、いつの間にかシャンクスの片腕は腰へと降りていて、ぐいと自身の方へと引き寄せられる。
「もちろん、今日は一晩中おれに付き合ってくれるんだろうな?」
いたずらを含んだ笑みを濃くするシャンクスにやっぱり敵わないと思った。
/暖かさのお裾分け
おめでとう
大好き、シャンクス
