久しぶりに君の顔が見たかったから、僕はこうして会いに来たんだよ。
この店を選んだのだって、ちっちゃい時にさ、僕が君の家に遊びに行ってた頃、君のお母さんが作ってくれた味に近いアップルパイを出してくれるからなんだ。
ねぇ。さっきから一体、君は誰に話をしているの。
僕は目の前にいるんだよ。僕をちゃんと見てくれよ。
君は話にすっかり夢中だ。
話ながらに、すっかりたいらげられてしまったアップルパイ……。
なぁ、味わうことなんてできなかっただろ?
君はあらかじめ、お皿の上に少しばかりのリンゴを寄せてとっておくのが癖みたいなものだったよな。
そいつを最後に残ったパイのはじっこにのせてさ、クリームを絡めて食べるのが好きだっただろ。
頬ばった時に見せる、君の押さえ切れない表情を僕は見たかったのに。
気が済むまで話したらいいよ。
だけど、ひとしきり話した後「あれ。俺、いつのまに食べたんだ?」なんて、そんな悲しいことだけは聞かないでくれよ。
君は話し続ける。
まるで見てきたかのような口ぶりで。
まるで経験したかのような口ぶりで。
まるで唯一の現実だとでも言うように。
ここから遠く離れた戦争の話を。
──農家が営む喫茶店。とりつかれたように話す友人に何も言えずにいる20代後半男性。
(登場する人物・団体・出来事は全て架空のものです)
2010.3.12