Arts Alive アートとの出会い@ブリヂストン美術館を終えて
一般社団法人 Arts Alive 代表理事 林 容子
2月24日、ブリヂストン美術館にて 記念すべきArts Aliveにとって、そして日本で最初の認知症の患者とその家族の方を対象とした 「Arts Alive アートとの出会い」を実施することができた。テーマは参加者の一人である佐藤さんのリクエストに答える形で「自然の風景」とし、鑑賞対象として選んだ作品は、カミーユ・コロー「ヴィル・バレー」クロード・モネ「ベネチア、黄昏」ポール・セザンヌ「サント・ヴィクトワールとシャトー・ノワール」、ジョルジュ・ルオー「郊外のキリスト」パウル・クレー「島」というブリヂストンが誇る近代絵画の名画のうち5点とした。
これまでに 若年性認知症やグループホームの認知症高齢者の方を対象に名画のイメージをスクリーンに投影する形で対話型の鑑賞プログラムを数回実施してきて、それなりの手ごたえを感じてはいたが、今回は、ブリヂストン美術館の誇る印象派を中心とする名画を前にしてのプログラムは、参加者の関心の高さと発言が違った。
あたかも名画が彼ら一人一人に語りかけているかのように、参加者は身体を椅子から離し、前に乗り出して真剣に絵画を見て、そこから自分たちが感じたことを自由に語ってくれた。
私の質問や語りかけは単なるヒントであり、明らかに、認知症の方々と作品の間にコミュニケーションが成立していた。
認知症であるからか、こちらが想定もしないような答えが返ってくる。コローの「ヴィル・バレー」の明らかに空だと思う部分を指して、Mさんは人影だと言ったし、Oさんはセザンヌの「セント・ヴィクトワールとシャトー・ノワール」の作者がセザンヌだと伝えると、画家だった自分の叔父が飼っていた犬がセザンヌという名前だと、突然言い出す。クレーの作品が「島」というタイトルと告げると、「自分には、鳥に見える」という。普通ならとんでもないリアクションだが、私には、それがとてもほほえましく感じた。普段は口数の少ない人が自分から思っていることを口に出してくれるだけでもすごいことなのだ。私自身、彼らの予期せぬリアクションを楽しんでいるのである。
絵画は色、線、筆使い、構図、題材、素材という複数の要素が複雑に絡み合って成立している。優れた画家ほど、その全てに意味を込めているので作品に厚みがある。作家の伝えたいメッセージは作品を良く見れば自ずと伝わってくるのだ。鑑賞者が認知症であってもそれは同じだと痛感した。例えば、ジョルジュ・ルオー作「郊外のキリスト」を見て、ある若年性認知症のSさんは、「その人物は神父さんだと思った」と言った。彼は背の高い人物が背の低い2人をやさしく見守るようにしている、ことと 白いローブを着ていることからそう感じたのだという。これはすごい観察力だ。別のMさんは、荒廃した中に月だけが明るくそれが地面と人物を照らしていると言った。これらはまさに熱心なキリスト教信者だったルオーが伝えようとしていた核心だ。
彼らは皆精一杯のおしゃれをしてブリヂストン美術館にやってきた。美術館という晴れの場、そして、美術品という非日常世界、その世界にいつも介護している人と介護されている人が対等な立場で作品について思い思いの気持ちを言葉にする。これは、日常と切り離したアートの世界だからこそ可能な奇跡の時とも言えるのではないだろうか。私は普段の彼らを知らないが、介護士さんの話だとまるで別人のように楽しそうだったとのこと。
彼らにひと時のアートとの出会いを創出できたと思うととても嬉しいし、企画者の立場としては、まさに、私が求めているアートの力を実感できたひと時でもあった。
今回は初回ということもあり、視察者も10名ほどいたが、皆、それぞれにプログラムを楽しんでくださったようだ。たまたまギャラリーにいた一般の方の中にも耳を傾けている方がいた。アートは本来自由にみるべきもの、でも自由にと言われてもその見方がわからない人が多い。そんなときのためにガイドがいる。認知症の人もそうでない人も、皆見方さえわかれば自分で自由にアートを楽しむことができる。一人でも多くの人がそんなアートとの出会いをして欲しいと思う。
最後に、日本で前例の無いプログラムでありながら、こちらの希望通りにプログラムを実施させてくださったブリヂストン美術館には、心から感謝している。参加者が座る折りたたみ式椅子を持ち込むことも特別に許可してくれた。一般客から苦情が来てもそれは美術館が対処します、ときっぱりと言ってくれた主任学芸員の貝塚さん。あなたの理解がなければこのプログラムを実施することはできませんでした。 作品のパワーに刺激されて、思わず作品に近づきすぎてしまったことは反省点として、今後気をつけなければならない。実は私は最初から第一回はブリヂストン美術館で開催したいと思っていた。それはブリヂストンが本当にすばらしい作品を所蔵している数少ない日本の美術館だからだ。私が尊敬する美術館だからこそ、ブリヂストンで実施したかった。今後、このプログラムは対話をリードするガイドの養成を経て、日本全国100箇所の美術館での展開を目標にしている。今回はその初めの一歩となる。今後の展開が楽しみである。
一般社団法人 Arts Alive 代表理事 林 容子
2月24日、ブリヂストン美術館にて 記念すべきArts Aliveにとって、そして日本で最初の認知症の患者とその家族の方を対象とした 「Arts Alive アートとの出会い」を実施することができた。テーマは参加者の一人である佐藤さんのリクエストに答える形で「自然の風景」とし、鑑賞対象として選んだ作品は、カミーユ・コロー「ヴィル・バレー」クロード・モネ「ベネチア、黄昏」ポール・セザンヌ「サント・ヴィクトワールとシャトー・ノワール」、ジョルジュ・ルオー「郊外のキリスト」パウル・クレー「島」というブリヂストンが誇る近代絵画の名画のうち5点とした。
これまでに 若年性認知症やグループホームの認知症高齢者の方を対象に名画のイメージをスクリーンに投影する形で対話型の鑑賞プログラムを数回実施してきて、それなりの手ごたえを感じてはいたが、今回は、ブリヂストン美術館の誇る印象派を中心とする名画を前にしてのプログラムは、参加者の関心の高さと発言が違った。
あたかも名画が彼ら一人一人に語りかけているかのように、参加者は身体を椅子から離し、前に乗り出して真剣に絵画を見て、そこから自分たちが感じたことを自由に語ってくれた。
私の質問や語りかけは単なるヒントであり、明らかに、認知症の方々と作品の間にコミュニケーションが成立していた。
認知症であるからか、こちらが想定もしないような答えが返ってくる。コローの「ヴィル・バレー」の明らかに空だと思う部分を指して、Mさんは人影だと言ったし、Oさんはセザンヌの「セント・ヴィクトワールとシャトー・ノワール」の作者がセザンヌだと伝えると、画家だった自分の叔父が飼っていた犬がセザンヌという名前だと、突然言い出す。クレーの作品が「島」というタイトルと告げると、「自分には、鳥に見える」という。普通ならとんでもないリアクションだが、私には、それがとてもほほえましく感じた。普段は口数の少ない人が自分から思っていることを口に出してくれるだけでもすごいことなのだ。私自身、彼らの予期せぬリアクションを楽しんでいるのである。
絵画は色、線、筆使い、構図、題材、素材という複数の要素が複雑に絡み合って成立している。優れた画家ほど、その全てに意味を込めているので作品に厚みがある。作家の伝えたいメッセージは作品を良く見れば自ずと伝わってくるのだ。鑑賞者が認知症であってもそれは同じだと痛感した。例えば、ジョルジュ・ルオー作「郊外のキリスト」を見て、ある若年性認知症のSさんは、「その人物は神父さんだと思った」と言った。彼は背の高い人物が背の低い2人をやさしく見守るようにしている、ことと 白いローブを着ていることからそう感じたのだという。これはすごい観察力だ。別のMさんは、荒廃した中に月だけが明るくそれが地面と人物を照らしていると言った。これらはまさに熱心なキリスト教信者だったルオーが伝えようとしていた核心だ。
彼らは皆精一杯のおしゃれをしてブリヂストン美術館にやってきた。美術館という晴れの場、そして、美術品という非日常世界、その世界にいつも介護している人と介護されている人が対等な立場で作品について思い思いの気持ちを言葉にする。これは、日常と切り離したアートの世界だからこそ可能な奇跡の時とも言えるのではないだろうか。私は普段の彼らを知らないが、介護士さんの話だとまるで別人のように楽しそうだったとのこと。
彼らにひと時のアートとの出会いを創出できたと思うととても嬉しいし、企画者の立場としては、まさに、私が求めているアートの力を実感できたひと時でもあった。
今回は初回ということもあり、視察者も10名ほどいたが、皆、それぞれにプログラムを楽しんでくださったようだ。たまたまギャラリーにいた一般の方の中にも耳を傾けている方がいた。アートは本来自由にみるべきもの、でも自由にと言われてもその見方がわからない人が多い。そんなときのためにガイドがいる。認知症の人もそうでない人も、皆見方さえわかれば自分で自由にアートを楽しむことができる。一人でも多くの人がそんなアートとの出会いをして欲しいと思う。
最後に、日本で前例の無いプログラムでありながら、こちらの希望通りにプログラムを実施させてくださったブリヂストン美術館には、心から感謝している。参加者が座る折りたたみ式椅子を持ち込むことも特別に許可してくれた。一般客から苦情が来てもそれは美術館が対処します、ときっぱりと言ってくれた主任学芸員の貝塚さん。あなたの理解がなければこのプログラムを実施することはできませんでした。 作品のパワーに刺激されて、思わず作品に近づきすぎてしまったことは反省点として、今後気をつけなければならない。実は私は最初から第一回はブリヂストン美術館で開催したいと思っていた。それはブリヂストンが本当にすばらしい作品を所蔵している数少ない日本の美術館だからだ。私が尊敬する美術館だからこそ、ブリヂストンで実施したかった。今後、このプログラムは対話をリードするガイドの養成を経て、日本全国100箇所の美術館での展開を目標にしている。今回はその初めの一歩となる。今後の展開が楽しみである。