地下99階のロンド - Mistake Lv99 -
B01F:
「見ろ、出口だぞ…!悪魔に奪われ、この地下迷宮奥深くに持ち去られた魔法石、ついに奪還成功だ!姫様もさぞや喜ばれる事だろう」
「あ、あの~隊長、非常に申し上げにくいのですが…」
B02F:
「魔法石をどこかに落としてきただと貴様あああぁあぁあああああッ?!!」
「あいたッ!!す、すんませんすんません!!もうホンット、すんませんッ!!!」
B03F:
「戻るぞ…」
「ふぁい」
「目を皿にしてしっかり探せよ」
「ふぁい」
「てめェ生還したらバッチリ折檻してやるからな。尻が割れるまで」
「(つД`)」
B08F:
『♪~♪♪~』
「む、ケータイが鳴っとるな」
「けぇたい?…なんですかそれ?」
B09F:
「【契対殿我-けいたいでんわ-】――民○書房の本にも載っとる、主君への忠誠を誓った者のみが手にできる伝説の便利アイテムだ。ほれ」
「なんかデコデコしてる…」
「姫様からの賜り物だ」
B10F:
「もしもし、姫様ですか?」
『姫です。現状を報告してください』
B11F:
「えーそうですね…、まずは吉報から。地下迷宮最下層にて悪魔を討伐し、魔法石を無事に奪還しました。現在帰還中です」
『まぁそうですか。お疲れ様です。で、他に何か?』
「あーはい、それが…」
B12F:
「帰還にはしばらく時間がかかりそうなのです。実は部下が大ケガしまして、薬を処方も知らず丸呑みしたせいで腹まで痛めまして、さらにヘルニアを再発したようで…」
『まぁ、それはお大事に』
「…隊長、『道に迷った』ですむ話でしょうに」
「疫病神が原因と伝わればいい」
B13F:
『了解しました。それではおふたりともムリなく気をつけてお帰りください。あなたたちの地図上での位置はこちらで観測してますので、動きがあり次第、迷宮から脱出したとみなし迎えに参りましょう。それでは(プツッ)』
B14F:
「ふぅ、GPSが地下深度まで計測できなくて良かったな」
「じ、じーぴー…」
「ナウなヤングならもちっと世間を知れ」
B22F:
「…むぅ、また魔物が復活し始めておるな」
「こんにゃろ!こんにゃろッ!!…ふぅ、でも復活したての魔物は弱ってるし楽勝ですよ」
「復活してからの時間が長い、迷宮奥の魔物はどうなる」
「……」
B23F:
「コイツらは復活すると倒す前より強靭になりやがる…。とっとと行くぞ、もたもたしてたらえらい事になる」
「最下層の悪魔なんて、次はヤバイ相手になりそうですね」
「魔法石を最下層で落としてきたとは思いたくはないがな(ジロリ)」
「(;´Д`)」
B35F:
「このあたりで少し休憩しよう。水と食料を出せ」
「はい。……、…………」
「どうした?」
「あ、あの~隊長、非常に申し上げにくいのですが……」
B36F:
「食料も水筒もどこかに落としてきただと貴様アアアァアァアアアアアッ!!!」
「ぶべらッ?!!はべらッ?!!す、すんませんすんません!!もうホンット、すんま――」
B37F:
「てめェの荷物袋はどーなってんだ?あァ?!」
「ど、どこかで破いちゃったみたいで穴が開いてます…」
「今、袋には何が残ってる?」
「よ、夜のお供の本…」
B38F:
「もういい、先に進もう。じっとしてたら貴様相手に余計な体力を使うばかりだ」
「…す、すびばぜ……」
B44F:
『♪~♪♪~』
「む、姫様だ…」
『姫です。部下さんのご様子はいかがですか?』
「お気遣いありがとうございます。さっき手厚く介抱してやったところです」
「歯が折れた…」
B45F:
『部下さんの体をいたわって、ムリせずゆっくりと戻ってきてください』
「ありがとうございます」
「姫さん、えぇ人や…グスン」
『こちらの方はしばらくはなんとかなりますので』
B46F:
「?…こちらの方、とは?」
『あら、お伝えしてませんでしたね』
「何の話でしょうか?」
『魔法石を奪った悪魔に属する軍勢が、今、我が城を襲っているのです』
B47F:
「んなッ?!なんですと?!!」
『どうやらあの悪魔の目的は我が王国の侵略だったようですね。魔法石を奪って我が城の聖域としての力を弱め、城内に侵攻し、王たる私の命を奪うという筋書きだったのでしょう』
B48F:
「た、ただちに戻りま――」
『心配には及びません。魔法石さえ戻れば、再起動させた聖域内の魔物たちはいつでも一網打尽ですから』
「…………」
B49F:
『犠牲は少ないに越したことはありませんからね。ヘルニアの部下さんをお大事に』
「な、何をおっしゃってるのです?!あ、あの姫様…その、実は――」
『(ガシャーン!!)む、魔物たちが来ました。ではしばらく彼らと戯れてますので、これにて(プツッ)』
B50F:
「姫様、姫様ッ?!(ピッピッ、トゥルルル…)」
『(キュピーン)姫ですー。ただいま公務中にてデンワに出ることができませーん。ご用の方は私がヒマそうな頃合にまたかけなおしてね。姫との約束だよっ☆(キュピーン)』
「姫さん、奥深い人や…」
B52F:
「これは急いで魔法石を見つけねば…。だが食料はともかく水分は取らねば人は簡単に力尽きてしまう。お前ちょっとそこの水飲んでみろ」
「ぅえ?あ、あの水たまりですか?」
「姫様にはすでにお前が腹壊してると伝えてるから心配するな」
「……」
B53F:
「…………、う。なんかしょっぱい…ヘンなにおいするし……」
「ご苦労。よし、先に進むぞ」
「あ、あの、今の水たまり…(つД`)」
B60F:
『フンガアアァアァアアアァアアァアアアッ!!!』
「うぉ、魔物だ!!」
「隊長、危ないッ!!(ドンッ)」
『フンガガアアァアアァアアアッ!!!(ドカッ)』
「ぐはー」
「た、隊長ーッ!!」
「魔物に向けて突き飛ばすヤツがあるかコラ(ドカッ)」
「ぐはー」
B61F:
「こ、コイツ…、復活してからだいぶ経ってるんじゃないですか?なんか強いですよ?!」
「チッ、仕方がない…ここは逃げるぞ!」
『フガアアァアアア!!!!!』
B70F:
「ぜぇ…ぜぇ……、に、逃げ切れたか。だがこれは先が思いやられるな…」
「もう最下層の悪魔なんて、手も足も出ないんじゃないですか?」
「……」
B71F:
「ヤツと戦い直す必要はない。道中に落とした魔法石さえ見つかればいいのだからな。だがこれだけ潜りなおしてもまだ見つからないとは……」
『♪~♪♪~』
B72F:
「ひ、姫さんです!」
「も、もしもし!姫様、ご無事ですかッ?!」
『…………』
B73F:
「姫様…?ひ、姫様ッ?!」
『私は無事ですよ……』
「そ、そうですか…心配しましたよ」
「?…なんだか姫さん、テンション低いですね」
B74F:
『勝利の美酒はいつの世でも、うっとりするほど心地良いものです…特に自らの手で相手から搾』
「「そ、それは良かったですねっ!!」」
B75F:
『魔物たちの第1陣は始末しました。ですが挑発的な晒しモノを施したので、近いうちに第2陣もやってくるでしょう…フフ』
「ひ、姫様…」
『こちらはご心配なく。ごゆっくりと、気をつけてお戻りになってください』
B76F:
「(ボソボソ)なんかもう、魔法石なんて必要ないんじゃないですかね?」
「むぅ…」
『本当は魔法石なんて、必要ないのですけどね』
「え?」
B77F:
『国の体面上、なるべく非戦闘主義の防戦体制を見せておきたかっただけですから。ですが、あまりに攻め込んでくるようなら、この機に【やむをえず全面戦争】という流れにするのも……クスクス(プツッ)』
B78F:
「魔法石、どこに落としたか思い出せ。命に代えても」
「は、はい……」
B80F:
「最後に魔法石を見たのはいつだ?」
「うぅ…」
「では最初に見たのは?そこから思い出せ」
「は、はい。最初に見たのはもちろん、最下層のあの悪魔の巣穴で発見した時です」
B81F:
「その次に見たのは?」
「えーと、えぇーと…」
「荷物袋に入れたところまでは覚えているのだな?」
「それはもちろ、……」
B82F:
「……順番に確認するぞ。まず我々は最下層に降り立ち、悪魔の巣穴に転がる魔法石を発見した。そこに居合わせた悪魔と私が戦闘になり、そのスキにお前が巣穴に潜り、魔法石を奪還した」
「……いえ」
B83F:
「魔法石を回収するその前に…、巣穴には、比較的最近のものと思われる犠牲者の亡骸がありまして、ボクはそんな彼の荷物袋から遺品を回収しておりました」
「…………」
「とても貴重なる一品を見つけましたので」
B84F:
「遺品の回収に満足したボクは、魔法石の奪還も含めすべての任務を終えたつもりになって、隊長と共に帰路に着いたのでした。はっきりと思い出しました。間違いありません」
「…………」
「ちなみにこの【夜のお供本】がその戦利品――ほぶあッ?!!」
B85F:
「こんな話を知っているか?…ある不死身の男がいた。その男には怖いものなどなかったが、たったひとつ、恐れていたものがあった。それは【死なねば償えぬ罪を背負う事】…」
「あ、あの」
「いざという時、償える身で良かったな貴様」
「(つД`)」
B90F:
「――さて、目的地がどこか判明したところで言っておくが、もはや我々はあの悪魔とまともに戦っても勝ち目はない。力を付け復活した悪魔に対し、我々は疲労と食糧不足ですでにいっぱいいっぱいだ」
「つまり…魔法石は、あの悪魔と戦うことなく奪うしかない、と?」
B91F:
「そんなのムリっすよ!魔法石はあの悪魔の巣穴の中ですよ?!」
「やり方はいくらでもある。【悪魔の真横をなんとか通って忍び込む】【オトリを使う】【人身御供を差し出す】…」
「ハッピーエンドの想像ができないのですが」
B92F:
「仕方がないだろう。こうなったら男らしく、ここでバシッと罪を償ってみせろ」
「な、何言ってんスか?!」
「あのな…、ここで血を流してでも魔法石を取り戻さんと、姫様の手で地上が戦火に包まれるのだぞ?」
「…………」
B93F:
「お、お願いします。考えてください、他の選択肢を…」
「ダメだな。他に手などない」
「あとで折檻でも虐待でも肉体提供でも、何でも受けますから…」
「骨は拾ってやるから安心しろ」
「た、隊長おぉおッ!!」
「あきらめろ。もはやどうにもならな――」
B94F:
「……ひとつ思いついた」
「えっ?!」
「いや、ちょっと思いついただけで、実際に可能かどうかわからんのだが…」
「な、何かいい案が?!」
「……そんな目で見るな。確認してみるけど期待はするなよ。(ピッピッ、トゥルルル…)」
B95F:
『(ピッ)……姫です』
「姫様、ご無事でしたか。魔物たちの第2陣が来てるかとも思いましたが」
『えぇ、とっても美味しかったですわよ』
「そ、それはなにより…。ところでひとつ、お聞きしたい事があるのですが……」
B96F:
「魔法石による聖域結界の発動は、確かなんらかの呪文詠唱によるものでしたな?」
『そうです。あの結界は、魔法石にある呪文を唱えることで共鳴作用を引き起こし発動させるものです』
「それは遠距離からでも可能ですか?例えば、このケータイを通して、とか……」
B97F:
「隊長、愛してます」
「寄るな。きしょい」
「なんだかんだ言って、隊長はいつもボクの事を…(*´д`*)この本、お貸ししましょうか?その筋では超プレミアものの一品ですよ」
「そんなの持ってるから前の持ち主同様ツキが落ちたんだよ。魔法石の代りに置いて帰れよな」
B99F入口:
「…さて、着いたぞ。準備はいいか?」
「いつでも!」
B99F回廊:
「姫様もよろしいですかな?」
『えぇ。安全な帰還のために迷宮内で聖域を作ってしまおうとは、なかなかに部下さん思いですね』
「はは…は…。部下思いかどうかはともかく、もっと早くこの案に気付いていればとは思います…。では、いきますぞ!」
B99F瓦礫の間:
「――よぅクソ悪魔。また来たぞ」
『ククク…ワスレモノハコレカ?』
「恥ずかしながらその通り!行くぞオラアアァアアアアアッ!!!」
「隊長がんばって!!ではこのスキに…姫さん、お願いしますッ!!」
B99F悪魔の巣穴:
『わかりました。では………In spiritu sanctum...Praedictum otium...Efficio poena ut(プツッ)』
「……、?」
『《――おかけになったデンワは、圏外につき、おつなぎする事ができません――》』
終章1:
「お二人の功績には感謝するばかりです」
「姫様…我々は魔法石も取り戻せず、姫様にはウソをつき、あまつさえ強靭になった悪魔たちを引き連れて地上まで逃げ帰ってきたのですぞ…」
「その通り。この私に迷宮深層の悪魔たちと戯れる機会を与えてくださったではありませんか」
終章2:
「……隊長。ボクら、何しに行ってきたんでしょうね…」
「…………」
「今回、外敵を阻む結界が必要だったのは…悪魔たちの側だったんじゃないですか?」
「スマートに任務をこなしてさえいれば、知らずに済んだ現実だよ」
【終】

「見ろ、出口だぞ…!悪魔に奪われ、この地下迷宮奥深くに持ち去られた魔法石、ついに奪還成功だ!姫様もさぞや喜ばれる事だろう」
「あ、あの~隊長、非常に申し上げにくいのですが…」
B02F:
「魔法石をどこかに落としてきただと貴様あああぁあぁあああああッ?!!」
「あいたッ!!す、すんませんすんません!!もうホンット、すんませんッ!!!」
B03F:
「戻るぞ…」
「ふぁい」
「目を皿にしてしっかり探せよ」
「ふぁい」
「てめェ生還したらバッチリ折檻してやるからな。尻が割れるまで」
「(つД`)」
B08F:
『♪~♪♪~』
「む、ケータイが鳴っとるな」
「けぇたい?…なんですかそれ?」
B09F:
「【契対殿我-けいたいでんわ-】――民○書房の本にも載っとる、主君への忠誠を誓った者のみが手にできる伝説の便利アイテムだ。ほれ」
「なんかデコデコしてる…」
「姫様からの賜り物だ」
B10F:
「もしもし、姫様ですか?」
『姫です。現状を報告してください』
B11F:
「えーそうですね…、まずは吉報から。地下迷宮最下層にて悪魔を討伐し、魔法石を無事に奪還しました。現在帰還中です」
『まぁそうですか。お疲れ様です。で、他に何か?』
「あーはい、それが…」
B12F:
「帰還にはしばらく時間がかかりそうなのです。実は部下が大ケガしまして、薬を処方も知らず丸呑みしたせいで腹まで痛めまして、さらにヘルニアを再発したようで…」
『まぁ、それはお大事に』
「…隊長、『道に迷った』ですむ話でしょうに」
「疫病神が原因と伝わればいい」
B13F:
『了解しました。それではおふたりともムリなく気をつけてお帰りください。あなたたちの地図上での位置はこちらで観測してますので、動きがあり次第、迷宮から脱出したとみなし迎えに参りましょう。それでは(プツッ)』
B14F:
「ふぅ、GPSが地下深度まで計測できなくて良かったな」
「じ、じーぴー…」
「ナウなヤングならもちっと世間を知れ」
B22F:
「…むぅ、また魔物が復活し始めておるな」
「こんにゃろ!こんにゃろッ!!…ふぅ、でも復活したての魔物は弱ってるし楽勝ですよ」
「復活してからの時間が長い、迷宮奥の魔物はどうなる」
「……」
B23F:
「コイツらは復活すると倒す前より強靭になりやがる…。とっとと行くぞ、もたもたしてたらえらい事になる」
「最下層の悪魔なんて、次はヤバイ相手になりそうですね」
「魔法石を最下層で落としてきたとは思いたくはないがな(ジロリ)」
「(;´Д`)」
B35F:
「このあたりで少し休憩しよう。水と食料を出せ」
「はい。……、…………」
「どうした?」
「あ、あの~隊長、非常に申し上げにくいのですが……」
B36F:
「食料も水筒もどこかに落としてきただと貴様アアアァアァアアアアアッ!!!」
「ぶべらッ?!!はべらッ?!!す、すんませんすんません!!もうホンット、すんま――」
B37F:
「てめェの荷物袋はどーなってんだ?あァ?!」
「ど、どこかで破いちゃったみたいで穴が開いてます…」
「今、袋には何が残ってる?」
「よ、夜のお供の本…」
B38F:
「もういい、先に進もう。じっとしてたら貴様相手に余計な体力を使うばかりだ」
「…す、すびばぜ……」
B44F:
『♪~♪♪~』
「む、姫様だ…」
『姫です。部下さんのご様子はいかがですか?』
「お気遣いありがとうございます。さっき手厚く介抱してやったところです」
「歯が折れた…」
B45F:
『部下さんの体をいたわって、ムリせずゆっくりと戻ってきてください』
「ありがとうございます」
「姫さん、えぇ人や…グスン」
『こちらの方はしばらくはなんとかなりますので』
B46F:
「?…こちらの方、とは?」
『あら、お伝えしてませんでしたね』
「何の話でしょうか?」
『魔法石を奪った悪魔に属する軍勢が、今、我が城を襲っているのです』
B47F:
「んなッ?!なんですと?!!」
『どうやらあの悪魔の目的は我が王国の侵略だったようですね。魔法石を奪って我が城の聖域としての力を弱め、城内に侵攻し、王たる私の命を奪うという筋書きだったのでしょう』
B48F:
「た、ただちに戻りま――」
『心配には及びません。魔法石さえ戻れば、再起動させた聖域内の魔物たちはいつでも一網打尽ですから』
「…………」
B49F:
『犠牲は少ないに越したことはありませんからね。ヘルニアの部下さんをお大事に』
「な、何をおっしゃってるのです?!あ、あの姫様…その、実は――」
『(ガシャーン!!)む、魔物たちが来ました。ではしばらく彼らと戯れてますので、これにて(プツッ)』
B50F:
「姫様、姫様ッ?!(ピッピッ、トゥルルル…)」
『(キュピーン)姫ですー。ただいま公務中にてデンワに出ることができませーん。ご用の方は私がヒマそうな頃合にまたかけなおしてね。姫との約束だよっ☆(キュピーン)』
「姫さん、奥深い人や…」
B52F:
「これは急いで魔法石を見つけねば…。だが食料はともかく水分は取らねば人は簡単に力尽きてしまう。お前ちょっとそこの水飲んでみろ」
「ぅえ?あ、あの水たまりですか?」
「姫様にはすでにお前が腹壊してると伝えてるから心配するな」
「……」
B53F:
「…………、う。なんかしょっぱい…ヘンなにおいするし……」
「ご苦労。よし、先に進むぞ」
「あ、あの、今の水たまり…(つД`)」
B60F:
『フンガアアァアァアアアァアアァアアアッ!!!』
「うぉ、魔物だ!!」
「隊長、危ないッ!!(ドンッ)」
『フンガガアアァアアァアアアッ!!!(ドカッ)』
「ぐはー」
「た、隊長ーッ!!」
「魔物に向けて突き飛ばすヤツがあるかコラ(ドカッ)」
「ぐはー」
B61F:
「こ、コイツ…、復活してからだいぶ経ってるんじゃないですか?なんか強いですよ?!」
「チッ、仕方がない…ここは逃げるぞ!」
『フガアアァアアア!!!!!』
B70F:
「ぜぇ…ぜぇ……、に、逃げ切れたか。だがこれは先が思いやられるな…」
「もう最下層の悪魔なんて、手も足も出ないんじゃないですか?」
「……」
B71F:
「ヤツと戦い直す必要はない。道中に落とした魔法石さえ見つかればいいのだからな。だがこれだけ潜りなおしてもまだ見つからないとは……」
『♪~♪♪~』
B72F:
「ひ、姫さんです!」
「も、もしもし!姫様、ご無事ですかッ?!」
『…………』
B73F:
「姫様…?ひ、姫様ッ?!」
『私は無事ですよ……』
「そ、そうですか…心配しましたよ」
「?…なんだか姫さん、テンション低いですね」
B74F:
『勝利の美酒はいつの世でも、うっとりするほど心地良いものです…特に自らの手で相手から搾』
「「そ、それは良かったですねっ!!」」
B75F:
『魔物たちの第1陣は始末しました。ですが挑発的な晒しモノを施したので、近いうちに第2陣もやってくるでしょう…フフ』
「ひ、姫様…」
『こちらはご心配なく。ごゆっくりと、気をつけてお戻りになってください』
B76F:
「(ボソボソ)なんかもう、魔法石なんて必要ないんじゃないですかね?」
「むぅ…」
『本当は魔法石なんて、必要ないのですけどね』
「え?」
B77F:
『国の体面上、なるべく非戦闘主義の防戦体制を見せておきたかっただけですから。ですが、あまりに攻め込んでくるようなら、この機に【やむをえず全面戦争】という流れにするのも……クスクス(プツッ)』
B78F:
「魔法石、どこに落としたか思い出せ。命に代えても」
「は、はい……」
B80F:
「最後に魔法石を見たのはいつだ?」
「うぅ…」
「では最初に見たのは?そこから思い出せ」
「は、はい。最初に見たのはもちろん、最下層のあの悪魔の巣穴で発見した時です」
B81F:
「その次に見たのは?」
「えーと、えぇーと…」
「荷物袋に入れたところまでは覚えているのだな?」
「それはもちろ、……」
B82F:
「……順番に確認するぞ。まず我々は最下層に降り立ち、悪魔の巣穴に転がる魔法石を発見した。そこに居合わせた悪魔と私が戦闘になり、そのスキにお前が巣穴に潜り、魔法石を奪還した」
「……いえ」
B83F:
「魔法石を回収するその前に…、巣穴には、比較的最近のものと思われる犠牲者の亡骸がありまして、ボクはそんな彼の荷物袋から遺品を回収しておりました」
「…………」
「とても貴重なる一品を見つけましたので」
B84F:
「遺品の回収に満足したボクは、魔法石の奪還も含めすべての任務を終えたつもりになって、隊長と共に帰路に着いたのでした。はっきりと思い出しました。間違いありません」
「…………」
「ちなみにこの【夜のお供本】がその戦利品――ほぶあッ?!!」
B85F:
「こんな話を知っているか?…ある不死身の男がいた。その男には怖いものなどなかったが、たったひとつ、恐れていたものがあった。それは【死なねば償えぬ罪を背負う事】…」
「あ、あの」
「いざという時、償える身で良かったな貴様」
「(つД`)」
B90F:
「――さて、目的地がどこか判明したところで言っておくが、もはや我々はあの悪魔とまともに戦っても勝ち目はない。力を付け復活した悪魔に対し、我々は疲労と食糧不足ですでにいっぱいいっぱいだ」
「つまり…魔法石は、あの悪魔と戦うことなく奪うしかない、と?」
B91F:
「そんなのムリっすよ!魔法石はあの悪魔の巣穴の中ですよ?!」
「やり方はいくらでもある。【悪魔の真横をなんとか通って忍び込む】【オトリを使う】【人身御供を差し出す】…」
「ハッピーエンドの想像ができないのですが」
B92F:
「仕方がないだろう。こうなったら男らしく、ここでバシッと罪を償ってみせろ」
「な、何言ってんスか?!」
「あのな…、ここで血を流してでも魔法石を取り戻さんと、姫様の手で地上が戦火に包まれるのだぞ?」
「…………」
B93F:
「お、お願いします。考えてください、他の選択肢を…」
「ダメだな。他に手などない」
「あとで折檻でも虐待でも肉体提供でも、何でも受けますから…」
「骨は拾ってやるから安心しろ」
「た、隊長おぉおッ!!」
「あきらめろ。もはやどうにもならな――」
B94F:
「……ひとつ思いついた」
「えっ?!」
「いや、ちょっと思いついただけで、実際に可能かどうかわからんのだが…」
「な、何かいい案が?!」
「……そんな目で見るな。確認してみるけど期待はするなよ。(ピッピッ、トゥルルル…)」
B95F:
『(ピッ)……姫です』
「姫様、ご無事でしたか。魔物たちの第2陣が来てるかとも思いましたが」
『えぇ、とっても美味しかったですわよ』
「そ、それはなにより…。ところでひとつ、お聞きしたい事があるのですが……」
B96F:
「魔法石による聖域結界の発動は、確かなんらかの呪文詠唱によるものでしたな?」
『そうです。あの結界は、魔法石にある呪文を唱えることで共鳴作用を引き起こし発動させるものです』
「それは遠距離からでも可能ですか?例えば、このケータイを通して、とか……」
B97F:
「隊長、愛してます」
「寄るな。きしょい」
「なんだかんだ言って、隊長はいつもボクの事を…(*´д`*)この本、お貸ししましょうか?その筋では超プレミアものの一品ですよ」
「そんなの持ってるから前の持ち主同様ツキが落ちたんだよ。魔法石の代りに置いて帰れよな」
B99F入口:
「…さて、着いたぞ。準備はいいか?」
「いつでも!」
B99F回廊:
「姫様もよろしいですかな?」
『えぇ。安全な帰還のために迷宮内で聖域を作ってしまおうとは、なかなかに部下さん思いですね』
「はは…は…。部下思いかどうかはともかく、もっと早くこの案に気付いていればとは思います…。では、いきますぞ!」
B99F瓦礫の間:
「――よぅクソ悪魔。また来たぞ」
『ククク…ワスレモノハコレカ?』
「恥ずかしながらその通り!行くぞオラアアァアアアアアッ!!!」
「隊長がんばって!!ではこのスキに…姫さん、お願いしますッ!!」
B99F悪魔の巣穴:
『わかりました。では………In spiritu sanctum...Praedictum otium...Efficio poena ut(プツッ)』
「……、?」
『《――おかけになったデンワは、圏外につき、おつなぎする事ができません――》』
終章1:
「お二人の功績には感謝するばかりです」
「姫様…我々は魔法石も取り戻せず、姫様にはウソをつき、あまつさえ強靭になった悪魔たちを引き連れて地上まで逃げ帰ってきたのですぞ…」
「その通り。この私に迷宮深層の悪魔たちと戯れる機会を与えてくださったではありませんか」
終章2:
「……隊長。ボクら、何しに行ってきたんでしょうね…」
「…………」
「今回、外敵を阻む結界が必要だったのは…悪魔たちの側だったんじゃないですか?」
「スマートに任務をこなしてさえいれば、知らずに済んだ現実だよ」
【終】
