2005年 英国大使館で。後ろにエリザベス女王の肖像画。
ニコルが死んでからもう何カ月がたつだろう? 今でも、いつもの声で黒姫から電話がかかってくるような気がふとする。彼の死が受け入れられないでいた。
先月、NHKが放送してくれた『アファンの森よ永遠に』を見て、やっと彼が先に逝ったことを実感したのだ。昨日も再放送があった。
30年近く前、俳優の渡辺文雄さんが紹介してくれた。渡辺さんは優れたエッセイストでもあったが、ニコルを弟のようにかわいがっていて、
自分の事務所の所属にもしていた。
あるとき、渡辺さんから、「ニコルの文章をみてやってくれないか?」と
言われて会ったのが出会いである。しばらくして、私が彼の著作権代理人になった。
ニコルの文章はヨーロッパの作家が持つ饒舌体である。これでもかこれでもかと書き込む。いつもそこが、私との争点だった。
「書きすぎだよ」「それじゃあ、editしてくれよ」・・・そんなやり取りがよくあった。「日本の作家たちは、簡潔文体だ。短く締まった文章の中に、強いイメージを込める。日本の読者はそういう文章をいい文書だと思ってるんだ」。そんな話をしたこともある。私は彼の文章の「削り係り」になった。
最後に会ったのは、彼の体調が悪くなる何か月か前だった。確か、
去年の11月ころ、広尾で久しぶりに飲んだ。行きつけの料理屋に行く前に、スタンドバーでビールを飲む。彼の好きなスタイルだ。
いろいろな話をしたが、すっかり、ガンは克服していると思っていた。
飲みっぷりも以前と変わらない。だから、訃報を聞いても信じられない思いだった。
書きたいものがまだあると言っていたし、私も、彼に死ぬ前に書かせたいものがあった。12~13年前、彼が、チャールズ皇太子に会うのでスコットランドのバルモラル城に行くといった。その日も、東京の全日空ホテルで飲んでいた。「バルモラルに行った後、会う女性がいるんだ」。急に彼の声が小さくなった。お城のそばに住む貴族の女性だという。なんとその女性は、十代のニコルの初恋の女性だった。
「ずっと付き合ってたの?」「いや、最近手紙がイギリスからきて・・・驚いた」。ニコルはエリザベス女王から大英勲章を授与されているが(写真は英国大使館の授賞式での撮影)、英国で報道された時の記事をその女性が読んで、ニコルが日本にいることを知り、手紙を書いてきたという。
十代の二人は、ひと夏をある島で過ごしたが、それを知った彼女の両親から二人は引き離されてしまい、恋ははかなく終わってしまった。
「なんでそれを今まで書かなかったの?」。私はちょっと強い調子でそう言っ.た。「う~ん・・・」。返事は彼には珍しくあいまいなものだった。
この続きはまたそのうち書くことにしよう。
