原 爆 忌 | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる

               

              原 爆 忌 村 岡 信 明   詩


     ヒロシマの夏はどの国よりも熱く

     死の影はいまも消えていない


     遠のいていく記憶  爆心地  

     崩れたガレキの軋みは  口ごもる念仏

     天蓋は酸化して細りゆく


     一九四五年八月六日  朝  一瞬の閃光

     ヒロシマを地獄に変えた

     灼熱と暗黒  立ちのぼる死のキノコ雲


     累々と続く黒焦げの人間のむくろ

     母親の乳房をくわえた小さな骸

     裂けた大地に花はもう咲かない


     原爆忌  朝からひびく鐘の音

     手向けた数百の花束の上に

     小さな手で一輪の花


     還らぬ二十二万の霊に捧げる

     焼香の煙は人々の肌に触れながら

     渦巻き  漂い  天に昇りゆく


     ヒロシマの夏はどの国よりも熱く

     まだ地中に埋もれし母子の霊に

     ケロイドの大地は歌う

     悲しみのビブラード







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