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 硬く握りしめられた拳が開く。
木漏れ日が白髪の混じる彼女の長く結わえられた髪を揺らす。
ガラス越しに、高地の風にはためくタルチョー。
風下に流れる経文。
チペタンズィー。力の石。拳の上にその石はあった。
カトマンドゥ盆地を出たのは何日前だっただろうか。
タタのポロバスは一晩中、タライ平原を走り続けた。
 穴ぼこだらけの道、窓は閉めても閉めても開き続けた。
  そして土埃でゴワゴワになった髪のまま国境を超え、
   インド平原の熱気を振りほどくようにガタガタと
    バスはヒマラヤへ続く尾根をのぼりつめる。
次の日の夜、最初の町についたドルジェ・リン 斜面にへばりついた町
  北の要塞、徘徊する。しかしこの町に石はない。
 「お前は、どこへ行く。」またいくつかの尾根を越え、河を渡り
もうひとつの国境を越えた。
      一瞬、すべて忘れる。
          過ぎ去った時間が反射する。
 掌の上に石がある。円、曲線、直線複雑なメノウ色の中に文様は沈み込む。
  陽は南中し、光線はたゆたう。
 『大地の扉、虚空の扉』扉は開くことはあるのだろうか。