アロマテラピーという言葉は、20世紀に西洋から伝わったものです。
日本人も古くから「香り」と生活を共にしていました。
「日本書記」に記される香木
香木として最も古いものといわれているものが、「日本書記」に記されています。
“推古天皇三年の夏四月に 沈水淡路嶋に漂着れり 其の大きさ一圍(ひといだき)
嶋人 沈水といふことを知らずして 薪に交てて竈に焼く 其の烟気遠く薫る
即ち異なりとして献る” <日本書記より>
推古天皇の時代 西暦595年 淡路島に流れ着いたひとかかえほどの流木を
島人が薪として火にくべたところ、遠くまでかぐわしい香りが広がった。
この木は貴重品だとして、朝廷に献上した。
とあります。
推古天皇
これを受けて摂政であった聖徳太子は「これは沈香というもの」と喜び、観音像を造り、残りの木を仏前で供養したという伝説があります。
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聖徳太子
聖徳太子は、天皇で初めて仏教に帰依したと言われる用明天皇を父に持ち、幼いころから仏教に触れる環境にありました。
そのため、仏教の儀式に使われる香木「沈香」ということがわかったのでしょう。
聖徳太子が14歳のときに用明天皇は崩御され、その後20歳で用明天皇の妹である推古天皇の摂政となります。
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香木は、日本では仏教と共に、邪気払い、供香(くこう)として伝わりました。
【沈香(じんこう)】
主に東南アジア産。ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木。
木が風雨や病気・害虫などによって侵されたとき、その防御策としてダメージ部の内部に樹脂を分泌、蓄積する。
その樹脂を乾燥させ、木部を削り取ったものが沈香となる。
樹液が樹脂となり長い時をかけバクテリアなどの働きによって変質し、独特の香りを持つようになるには、50年から100年以上もかかる。
樹脂は重く、水に沈むことから「沈香」とよばれている。
【伽羅(きゃら)】
沈香の中でも最上級のもので、沈香の油分が4割足らずのところ、伽羅は5割を超える。
黒沈香のサンスクリット語「カーラーグル」が伽羅の語源と言われている。
香木はとても高価なので、お香などで楽しむのがお勧めです。
天下人も魅了した香木
2019年の東京国立博物館 「正倉院の世界」 の特別展示にて、
正倉院に収められている香木も展示されていました。
天下人も魅了した 黄熟香(おうじゅくこう)です。
正式名称 正倉院御物棚別目録 【黄熟香(おうじゅくこう)】
蘭奢待(らんじゃたい)とも呼ばれています。
蘭奢待は「東大寺」(蘭に東、奢に大、待に寺)の文字が隠されている雅名です。
成分から「伽羅(きゃら)」に分類されます。
全長156cm、最大径43cm、重量11.6kg(ベトナム産)錐形の香の原木。
日本に入ってきたのは10世紀以降と言われています。
この香木を切り取った跡。
上の画像で白いラベルには、右から 足利義政、織田信長、明治天皇
と記載があります。
正倉院の宝物は、元々天皇家の関係者でなければ中のものを見ることも許されていませんでした。
織田信長は、時間をかけて許可を得、将軍家の足利家のとなりに、同じ大きさを削り取ることで、一大名が将軍家と並んだことを世に知らしめたのです。
削り取ったニ片のうち、一片は天皇に献上しました。
もう一片は、相国寺での茶会で焚かれました。千利休ら客人の前で甘美な香りが漂ったことでしょう。
香道で伽羅の香りを聞いた方によると「甘く、深く、香ばしい芳香」がするそうです。
機会があったら、一度(香りを)聞いてみたいものです。